振り向くと、|強制複合現実化《FMR》された、青い
ただ、服装がデニムにベージュのハーフコートなので、その立ち姿には少々違和感がある。
「ああ、いや、あのアシッドスライムをどうやって倒そうかなと……」
「さっきの作戦会議で決めたのに、見てなかったって事?」
和風美人の声が一オクターブ下がり、周囲の温度まで下がったような気がした。
この女の子を怒らせちゃいけない。
「え~っと、作戦会議って何のことです?」
「えっ!? ブレインネットワークの掲示板、見てないの?」
「えっ?」
互いに顔を見合わせ、何のことかと固まってしまった。
ハッとして、すぐさま視覚操作でARCの設定を探すと〝掲示板〟の項目があり、その中に〝関東地区掲示板〟があった。
ざっと内容を見ると、ARC装着者の情報交換処として機能しており、モンスター討伐の作戦立案スレッドや、救助を求めるスレッドなどがたくさんあった。
こういうのを知らないのは、家族優先で動き、プロトタイプARCの機能を詳しく見ていなかった俺が原因だ。
「ほら、フレンド申請送ったから登録しなさい。ついでに今回の作戦スレッドも添付したから」
和風美人の声と共に、視界の隅にメッセージ着信のアイコンが点滅し〝友達申請を許可しますか?〟と文字が出た。
それを許可すると
ブレインネットワークはこんな使い方もあるんだ。
……俺は旧式でできなかったけど。
友達登録を済ませ、メッセージを見ると〝アシッドスライム討伐〟というリンクが貼ってあり、そこに入ると、まあ何というか、昔のチャット風の画面ででやり取りをしていた。しかも実名で。
そのスレッドは現在進行中で、誰が何処にいる、次はこうしろ、といった指示が出ている。
そして指示を出している人物の名は、|裕太《ゆうた》となっていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裕太『全員撤収だっ!』
〝アシッドスライム討伐〟スレッドを見ていると、
すると、いままで乱れ飛んでいた魔法がピタリと止まり、辺りは静寂で満たされた。
怪我人は出ていないようだが、アシッドスライムに魔法が通用せず、物理攻撃も通さないので、膠着状態が続いていたからだろう。
由美『ちょうどいいわ! 新入りを紹介するねっ!! はい、鈴木夏哉くんで~っす!!』
(おいおい、いつの間にか新入りになってる)
そう思って振り向くと、さっきまでのの雰囲気とまるで違い、彼女はばつの悪そうな顔で舌を出していた。
裕太『鈴木夏哉? 夏哉なのか!?』
この反応。
夏哉『ああ? もしかして
裕太『うおおぉっ! 死んだと思ってたぞ? 今どこに居るんだ? つか由美! お前なんで、夏哉の紹介なんてしちゃってんの!?』
由美『あはは~。いま一緒にいるの』
裕太『はあ? ざけんな! 戦闘中に持ち場を離れたのか?』
由美『いやいや、私の持ち場に夏哉くんが来たのよ?』
裕太『……てことは、そこにいるのか? ちょっと待ってろ。全員アシッドスライムの攻撃範囲に入らないようにしろよ!』
しばらくすると、前よりだいぶん大人びた雰囲気の影山裕太が走って現れた。
彼とは中学生までの付き合いで、別々の高校に進学してから疎遠になっていたが、三年ぶりの再会でもそのブランクは感じなかった。
柔道をやっていた裕太と、剣道をやっていた俺は、部活の場所が隣同士でかなり仲が良かったのだ。
そうやって昔話に花を咲かせていると、わざとらしい咳払いが聞こえ「あんたたち二人、まだ作戦中だと分かってる?」と井上さんが苦言を呈した。
そこからは真面目な話になり、裕太が俺を作戦に組み込んで、再度アシッドスライムに攻撃をすることとなった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裕太はチーム名タロットキャロットを名乗り、モンスターの討伐に参加できるプロトタイプARC装着者を集めていた。
モンスターが現れて、まだ三日目だというのに、何て行動力だ。
しかも、一度事故で半数を失ったにもかかわらず、その人数はすでに五十名を超え、いまだに増え続けているのだという。
裕太『夏哉、俺たちもアイスバレットで攻撃はしたけどさ、全部はじかれたんだぞ?』
夏哉『試しにやってみるだけだ。だから、開戦の合図くらいだと思っててくれ』
裕太『わかった』
ここに居るメンツは全員配置につき、俺と裕太の書き込みだけとなった。
ブレインネットワークの掲示板は、世界中で閲覧できるそうだ。
その中で、この〝アシッドスライム討伐〟スレッドは、現在の閲覧者数が二十万人を超えている。
国内のARC普及率は九十%を超えているが、それを差し引いても災害時にこれだけの閲覧者がいるのは、すごく注目されているからだろう。
【距離二十メートル。木刀の
アシッドスライムに近づいていくと、あーちゃんの声が聞こえた。