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その日は歌を歌う夜の通常通り、零時には仕事が終わった。中休みにサンドウィッチを摘まんでいたので夕食は必要ない。さっさと帰宅したサシャは、シャワーを済ませてから例の封筒を手にした。
こんな豪華な封筒、見たこともない。
表面は水色。
縁取りはレース模様。しかし箔押し。
どこで売ってらっしゃるのかしら、なんて思ったけれど、市販品であるはずがないとすぐに思った。
裏の、封をしてある封蝋(シーリング)。これはきっと剥がせないだろう。思ってサシャはペーパーナイフを取った。そっと封筒の上部の僅かな隙間へナイフを差し込み、丁寧に切っていく。
綺麗に開けることができて、ほっとした。中身を取り出す手は震えたが。
中に入っていたのは、便せんが二枚。封筒より少し薄い、水色。しかしそれも箔押し入り。とても美しい。
クリスマスパーティーのドレスも水色であられたし、キアラ様は水色がお好きなのかもしれないわ。
思いながらサシャは便せんを広げた。
『親愛なる、サーシャ=アシェンプテル様』
宛名からして勿体ないものであった。一介の庶民に、本物のお姫様からこんなお手紙。比喩ではなくほんとうに手が震えた。それでも読み進めていく。
『今度、ヴァレンタインのお茶会をいたしますの。お友達を十名ほど招いて、ショコラをいただいて、お茶を飲みます。そのお茶会にお歌を添えていただきたいのです』
内容はおおまかにこのようなことであった。
キアラ姫からの手紙は子どもらしさが残っているが、上品な筆跡であった。立派なレディである。
そうだ、あと一ヵ月もすればヴァレンタインなのだ。
そのときにお茶会なんて素敵でしょうね。ショコラも美味しいことでしょう。
他人事のように思ってしまい、はっとして、いえいえ! とサシャは大きく首を振った。
そのお茶会を構成する要員として、自分が直面しているのである。勿体なさ過ぎた。
仕事にしている以上、歌に自信が無いとは言わない。下手ではないと思っている。
が、王室のお姫様のような上質なものに普段から触れているような方からしたらがっかりするようなものかもしれなかった。
ほんの少し、パーティーの隅でお話しただけだというのにお声をかけてくださるのは嬉しいけれど……。