②
「え、いいの?」
信じられなくて、とっさにそんなことしか出てこなかった。しかしそれはリゲルに自分の言った言葉を浸透させてしまったらしい。
「繰り返すなよ、くすぐったい」
照れたとき毎回するように、ぐしゃぐしゃと金の髪をかき乱して、視線をそらす。今日は髪型を余計に綺麗に整えてきただろうに。
「……お前にうたってもらえたら、綺麗だなと思ったんだから」
それでも言ってくれた。
かぁっとライラの胸が熱くなる。今日は嬉しいことばかりだ。
「うん! じゃあまた、詩を見せて」
言う声は弾んでしまった。リゲルに褒めてもらっただけでも嬉しいのに、きっと彼にとって特別で、大切な詩を預けてくれると言ってくれたこと。そんなの、自分のことを特別だと言ってくれたも同然なのだ。彼の特別な存在であれることを嬉しいと思う。
「ああ。じゃ、来週の中頃、どうだ」
ライラの反応を見て、リゲルの抱いていた羞恥心も薄らいできたらしい。すこしくすぐったい空気だったものが、普通の会話へ戻ってくる。
そんな話をリゲルとしているうちに、何人かの子どもたちが寄ってきた。
「ねぇねぇライラおねえちゃん。おねえちゃんは本を読むのが得意なの?」
「今日のおはなし、楽しかったよ。また読んで欲しいな」
四つ五つくらいの幼い子から、もうすぐ学校へ入るくらいの年頃であろう子まで、何人か。男の子も、女の子も。子どもは苦手ではないが、こんなふうに囲まれることはないライラはちょっと戸惑ってしまった。
「え、あ、そ、そうね。また読みに来られたらいいかなぁ」
しどろもどろになってしまったライラを見て、リゲルはおかしそうに笑った。
「なんだ、モテモテじゃないか」
助けてくれるつもりはないらしい。リゲルはたまにではあろうが、この子たちと会っているのだろうから当たり前のように、面識がある。
でも自分は今日初めて会ったのに。それもいっぺんに何人もを相手にするなんて。
ああ、孤児院の先生なんかはとってもすごいお仕事をしているのだわ。
そんな平和極まりない思考は、女の子のある一言で吹っ飛んだ。
「ねぇ、ライラおねえちゃんは、リゲルおにいちゃんの恋人なの?」
おませな子なのだろう。初等科に入って間もない年頃に見える、まだ幼い少女だというのに、きらきらとした目でそんな質問をしてくる。
それは予想外の言葉。心臓がとまるかと思った。どくっと喉元まで跳ね上がってきた感覚すら覚えた。