③
「……はっ?」
ライラにとってそれほど大きすぎる衝撃だったのだが、声を出したのはライラではなくリゲルだった。目を丸くして、声はひっくり返った。
その反応に、ライラのほうは違う意味で、言葉を発する余裕もなくなってしまう。
「いや、ライラは幼馴染……」
リゲルの続けた言葉はしどろもどろだった。そしてそんなふうに言う、リゲルの頬がはっきり赤く染まっていたことをライラはしっかり目にしてしまう。
そんな様子を見せられて、ライラの顔が一気に熱くなった。
恋人同士なのかと言われた。
まぁ、一応お年頃の男女であろうから、おませな子には『恋人同士』に見えたとしてもおかしくない。それはもう、ちっともおかしくないだろう。
でも、現実的にはリゲルの言ったように『幼馴染』なのであって。それは事実ではあったが、胸に痛い。
確かに幼馴染だけど。
恋人同士なんてものではないけれど。
でも、私はリゲルのことを。
言えないそのことを、噛みしめてしまう。
「えー、そうなのー。じゃ、わたしがリゲルおにいちゃんと結婚するぅ」
その子はリゲルの腕にまとわりついて、じゃれはじめた。それを羨ましく思う余裕すらありはしない。
「いや、俺はな、まだ結婚は」
そんなものは子どもの戯れ事であろうに律儀な返事をするリゲルは、明らかに動揺していた。
そしてライラもだ。恥ずかしさが一気に強くなってきた。
おまけにここにこのままいたら、また『恋人』を連想させるようなことを言われてしまうかもしれない。それは嬉しい、けれど居たたまれなくもある。
「あ、あのっ、私、そろそろ着替えてくるね」
やっと言った。まるで逃げるような言葉だったけれど、リゲルは、ほっとしたらしい。安心したのが全開の声で言う。
「あ、ああ! 行ってこい。俺がこの子らの相手、してるから」
リゲルの言葉には、くっついていた少女が、ぷくっと頬を膨らませる。
「子ども扱いしないでよ!」
「子どもだろう」
「でも将来、リゲルおにいちゃんと結婚するんだからっ」
じゃれあいの、少なくとも現実的にはじゃれあいの部類であるやりとりを背にして、ライラは少し早足でその場を離れた。
廊下に入って、一人になって、やっと頬を手で覆う。はっきりと熱くなっていた。きっと赤くもなっているだろう。
それはもう、尋常ではないほどに。まるでリゲルへの想いを言い当てられたようだった。今更ながらに心臓が早鐘のように打つ。息苦しいほどに。
自分の想いだけではない。ほかのひとから、まぁ子どもではあるけれど、とにかく他人から見て、そういうふうに見えるのだ。
……嬉しい。
かぁっと胸が熱くなった。