①
ライラの朗読はそう長くはなかった。一時間もしなかっただろう。
けれど子どもたちは騒ぐことなく、おとなしくしていた。それは孤児院でのしつけがいいためか、もしくはライラの読む内容をおもしろいと思ってくれたためか。後者だったら、嬉しいのだけど。
「とても楽しいお話でしたね。この絵本は、院の図書室に新しく入れることになりました。誰でも自由に読めるのよ。続きのお話もあるから、気になる子は読んでみたらどうかしら」
ライラの朗読が終わってから、ライラに代わって院長先生がそんな〆のお話に入った。
「読みたい!」
「いつ入るの?」
そんな声がいくつかあがった。きっと本の好きな子たちなのだろう。
最後に院長先生が、ライラを示して言ってくれた。
「歌のような、とても素敵な朗読でしたね。今日、絵本を読んでくれたライラお姉ちゃんにお礼を言いましょう」
ありがとう、と子どもたちの声が重なって、ライラは自然と微笑んでいた。
「私こそありがとうございました。みんなに聞いてもらえて嬉しかったです」
それで朗読会は、おしまいになった。あとは院長先生の仕事。途端にわいわいと騒ぎ出した子どもたちを、院に帰らせるのだろう。年下の子たちから、かまってやっている。
それはきっと孤児院での日常なのであって、自分の役目を無事終えられたことに、ライラはほっとしてしまう。そしてそこへ、嬉しい声がかかった。
「お疲れ」
たったひとこと。でもあまりに嬉しい、その声。
「リゲル!」
近寄ってきてくれたリゲルを見て、ライラの顔は、ぱぁっと輝いた。リゲルが満面の笑みを浮かべてくれていたので。
「すっげー良かったよ。お前を推して良かったな」
常から明るいリゲルではあるのだが、今はそれにも増して声が明るかった。にこにこと笑いながら、いくつもいくつもライラを褒めてくれる。ちょっとライラが恥ずかしくなってしまうくらいに。
「本当に、うたを聴いてるみたいだった。合唱の歌(うた)もいいけど、詩(うた)もお前にほんとうに似合ってると思ったよ」
そして言ってくれた。
「またうたってくれ。できれば、あー……」
そこでちょっととまった。リゲルの視線がさまよう。言いづらい、という様子ではあったけれど、ライラが、なぁに、なんて訊く前にそれは言われた。
「俺の、詩とかを」
きょとりとしてしまった。
リゲルの詩を?
読んでくれということだろう。詩を読むことは『詠う(うたう)』とも表現するので。