偽聖女3
それからは慌ただしかった。
周りに聖女としての教育をしていると見せかけるために宮殿での生活を始めた。
その実、教育を受けている内容はすべて王妃としてのものだ。
その厳しい内容に音を上げそうになる。
けれど、忙しいであろう執務の合間を縫って第一王子が私の元をよく訪れてくれていた。
「聖女とご結婚された方が国が安定するとは考えなかったのですか?」
あるとき私はつい王子にそう聞いてしまった。
聞いてしまってからそれが失礼なことだと気が付いたけれど口をついて出てしまった言葉は戻らない。
王子は泰然とした笑みを浮かべたままこちらを見た。
「私はあなた以外との結婚を考えたことは無いよ」
それは多分リップサービスというものだったのだろう。
表情で感情を悟られないようにすることも言葉も淑女教育でも今まさに受けている王妃教育でも何度も言われてきている事だ。
だから、意味の無い事だと分かっているのに、じわじわと胸の中に広がる感情があった。
さらが聖女になった暁には。
婚約は破棄しないと言ってくださっているけれど、何か別の恩賞になるかもしれないとは思っている。
けれど、それでもこの瞬間があれば報われると思ってしまっている自分がいた。
「午後は一緒に書庫に行かないか?」
王子は私をこうやって誘ってくださる。
城の書庫は珍しい本がとても多くて楽しい。
いつか失ってしまうこの幸せをいつまでもいつまでも覚えていようと思った。
だから、という訳でもないけれど、お城に来たサラをみて思わず声をかけてしまった。
喉まで出かけた、あなたが本当の聖女よ、という言葉を飲み込んでそれでも彼女を応援してしまった。
彼女が預言の聖女様であれば本来私の言葉なんて必要はない。
けれど酷い顔をした彼女に声をかけてあげたかった。
彼女に何の苦難も無く明るい道をと願わずにはいられなかった。