偽聖女 リゼッタ視点
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「どれは、どういった意図でしょうか?」
小さいころからお話を聞くのが大好きだった。
特におとぎ話。王子様とお姫様が結ばれる恋愛ものも好きになった。
だから、おとぎ話の様な出来事は好きだ。
誰かの恋愛の話を聞くことも、苦難を乗り越え結ばれる二人の話なんかは最高に好きだ。
自分が恋愛をするよりも、富を持っていると実感する瞬間よりもそういうものを見聞きすることの方が好き。
少し変わっていると私、リゼッタは自分自身でもそう思っている。
だけど好きなものは仕方がない。
少しでも他の人の話が聞けるように礼儀作法に気を付けてはいたし、色々なお話を読める様に勉学にも励んだ。
その結果として、自分が聖女なのではないかとうわさされていることはよく知っていた。
王宮から呼び出されたときももしかしてと思ったし、両親もそれは同じだった。
王爾の入った手紙を始めてもらったことも誇らしかった。
今日のために新たに仕立ててもらったドレスを着ている私は、思わず訝し気に聞いてしまった。
王宮からの話は私が聖女だという話ではなかった。
似ているけれど内容は真逆。
いわく、この国の聖女は他にいる。その真なる聖女のためにしばらくの間聖女として振舞って欲しい。
しかる後、本物の聖女が聖女としての力を示した時、その責務は解かれるだろう。
何を言われているのか分からなかった。
偽聖女として暮らし、本物の聖女が現れたら、偽物の誹りをうけろ。そういう命令に聞えた。
「まことに心苦しい頼みではあるが、これはこの国の為だ」
陛下は静かにそう言った。
「けれどそれでは、わが家門はっ……!」
いずれ本当の聖女があらわれたときに聖女を騙った人間の一族として批難されるだろう。
何か目的があるとしてもそのような事は出来ない。
「勿論それは分かっている。
第一に正式な聖女があなただという布告は出さない。
第二にあなたは私、この国の第一王子であるアスランとの婚約を発表する」
本物の聖女があらわれた後も婚約は破棄されることは無い。
王の隣にいたこの国の王太子がそう告げる。
王妃の称号と引き換えに汚名をかぶってくれという命令。
連れ立ってきた父を見ると、すでにこのことを聞かされていたらしい。
私に伝えなかったのは私が嘆き悲しみながら宮殿に行く様子を誰にも見られないため。
すでに、何もかもは決まっていたことなのだろう。