コンビニおもてなし 5号店の2 その1
秋の新商品フェアが好調なコンビニおもてなしです。
どの店も連日、通常の営業日よりも2,3割多いお客さんが押し寄せている状態です。
とはいえ、各店の店長ならびに店員のみんなはしっかりと業務をこなしている人ばかりですからね、しっかりと接客対応をしてくれている次第です。
先日新たに加わった新店員もいますけど、そんな店員も、周囲のみんながしっかりフォローしていますので、どの店でも特に問題は起きておりません。
……あ、いえ……
「ひゃあ!? またまた転んでしまいましたぁ!?」
「きゃあ!? なんで下着ごと私のスカートをズリ下げるのですかぁ!?」
すっかり6号店名物になってしまっている、すっころぶアレーナさんにスカートをズリ下ろされる店長のチュパチャップの光景だけは、問題があると言いますか……はてさて、どうしたもんですかねぇ。
そんな問題こそありますものの、とりあえずコンビニおもてなしは元気に営業している次第でございます。
◇◇
テトテ集落にオープンしたばかりの果物狩りも大盛況です。
秋になり、バックリンなどの秋の果物がわんさかなっている中を、お客さん達が楽しそうに回りながら収穫している次第です。
バックリンは栗もどきですので、その場ですぐに食べる事が出来ません。
そのため、果樹園のあちこちにテトテ集落の皆さんが待機していまして、たき火をしている次第です。
そのたき火で、みんなが採取したバックリンを焼きバックリンにして食べてもらうという趣向になっています。
また、このバックリンだけは、カゴ一杯分だけ無料でお持ち帰りOKにしているそうです。
ピルチやバルナナと違って、小ぶりで焼かないと食べられないバックリンはその分時間制限の中で満足するほど食べることが出来ませんからね。
他の果物も食べる事が出来るわけだし、そこまでしなくても……と思ったものの、なんでもバックリンは魔法を使用しなくても翌日にはすぐに実がなるそうなので、むしろ持って帰ってもらった方がありがたいんだとか。
そういえばおもてなし商会テトテ集落店のリンボアさんも、
「この時期のバックリンは、収穫量が多すぎて全部は買い取れませんめぇ」
そう言っていましたし、そういう意味では、テトテ集落もお客さんも、お互いにウィンウィンな関係が出来ているのかもしれませんね。
ちなみに、この果物狩りの休憩コーナーで、休日のみお店を出しているヤルメキススイーツでは、このバックリンを持ち込むと、そのバックリンを使用したモンブランプリンをお作りするサービスを行っています。
このサービスなのですが、自分の手で収穫したバックリンを食べることが出来るもんですから、特に子供達に大人気になっていまして、このサービスを行っているおかげで、休日の果物狩りの来客数が上がっているのでは、と言われているほどなんですよね。
このヤルメキススイーツコーナーは、ヤルメキススイーツを担当しているヤルメキスとケロリンが交代交代で対応してくれているのですが、これだけ人が殺到してしまうとさすがに人手が足りません。
そこで、テトテ集落の女性陣にもお手伝い願っている次第です。
お年寄りが多い女性陣の皆様ですが、そこは年の功といいますか、皆さん料理は手慣れたものですので、ヤルメキスとケロリンの指示を聞いて、すぐにその通り作業することが出来ています。
そのおかげで、毎回結構な行列が出来るものの、その行列を毎回驚異的な速さでこなしている次第なんですよね。
この作業に参加してくださっているテトテ集落の皆さんも、
「まだまだ若い方には負けないわよ」
「いくらでもお手伝いさせていただきますわ」
そんな頼もしい言葉を口にしながら作業を手伝ってくださっている次第です。
◇◇
そんなある日のこと……
「店長ちゃん、おひさ!」
元気な声で、本店を訪ねて来たのはマクローコでした。
4号店店長のクローコさんの妹で、マクローコ美容室を経営しているマクローコです。
マクローコのところでは、クキミ化粧品という、コンビニおもてなしが独自に開発している化粧品も作成してもらっています。
その作業は、主にマクローコの友人のダークエルフ達がおこなってくれていたのですが、最近ではその友達のエルフの人達も参加してくれているようです。
僕の世界の漫画とかでは、エルフとダークエルフって犬猿の仲ってイメージがあるんですけど、この世界ではそこまでひどい関係はないみたいなんですよね。
「そういう人もいるにはいるけど、そんなのあんまり気にしない、っていうかぁ」
僕の質問にそんな感じで答えてくれたエルフの女の子なんですけど……
なんでしょう……
これは種族云々よいうよりも、同じ性格というか趣味趣向というか、ギャル系の人達が集まっているといった方が正確なのではないかと思わなくもないといいますか……うん、まぁ、これに関してはあまり深く考えないことにしようと思います。
で、
「マクローコ、どうしたんだい? こんな時間に珍しい」
僕がそう言ったのも無理はありません。
ちょうどコンビニおもてなしは閉店したばかりの時間ですが、マクローコの美容室は逆に今から開店するはずなんですよね。
と、言いますのも、マクローコの美容室の主な顧客はナカンコンベの風俗街で働いているお姉さん達だからなんです。
風俗といいましても、性的なサービスをする店だけでなく、僕の世界で言うところのキャバクラみたいなお店もあるわけです。
そんな飲み屋で働いているお姉さん達の髪の毛と化粧を整えるのがマクローコ美容室なわけでして、結構盛況なんですよね。
「うん、今日は店長ちゃんにお話と言うか、お願いがあってやってきた、みたいな?」
マクローコはそう言いながら舌を出し、顔の左右で横ピーズをしていきました。
いわゆる舌出しW横ピースです。
もうすっかりお馴染みになっていますので今更そんなに驚きませんが、マクローコの姉のクローコさんに舌出し横ピーズをされた時は『この世界にもこの風習が……』と、妙な感動を覚えたもんでした。
で、そんな感慨は横に置いておいて……
とりあえず応接室で話を聞くことにした僕。
そんな僕の前でマクローコは
「今度ね、マクローコのお店なんだけど、増築することにした、みたいな?」
そう言いながら笑顔を浮かべていました。
なんでも、お店が絶好調なのはいいのですが、さすがに店が手狭なため、ご新規さんの予約が一ヶ月待ちとかになっているんだとか。
「だからね、マクローコのお店を増築して、お客さんをお待たせしないようにしようと思う、みたいな?」
マクローコはそう言いながら笑っていました。
で、その相談に来たマクローコなわけです。
何しろマクローコは、美容師としての腕前は相当なものなのですが、お金に関してはほんとに疎いといいますか……以前もそのせいでお店を失いかけたりしたんですよね……
なので、お金がかかることに関してはこうして事前に僕に相談にくるのが常となっているマクローコなわけです、はい。
マクローコの通帳を確認したところ……確かに増築に必要なお金は溜まっていようです。
もっとも、全額一括払い出来るほどではありませんので、そこは工事をお願いすることになるはずのルアに便宜を図ってもらわないといけないでしょうね。
「でね、店長ちゃん。マクローコ、考えたの」
「うん? 何をだい?」
「あのね、新しいお店を二階建てにしてね、一階にコンビニおもてなしを出店してもらえないかな、みたいな?」
「はい?」
マクローコの言葉に、僕は一瞬目が点になりました。