谷底2
「そんな事で大丈夫なんですか?」
「ああ」
ニッコリとマクスウェルは笑顔を浮かべる。
「呪文とか、魔法陣とか……」
もし私に本当に何か力があったとしても今まで何もおきなかった。
だから何か方法があるのではと思って聞いた言葉は否定された。
「大丈夫だ。アンタの力はアンタ自身以外のすべてに発動する」
マクスウェルが私の手を引き抱き寄せる。
「だから、俺の命を守ってくれって本気で祈ってろ」
彼はそう言うと私を抱きかかえてそのまま躊躇することなく崖から飛び降りた。
頭は真っ白で何も考えることができなかった。
祈りだと言われた。ただ、私の事を信じてくれたこの人のために祈りたかった。
抱きかかえられた腕の中で両手を合わせて祈る。
この人だけでも救われますようにと。
「ああ、始まった」
祈りと言われて思わずつむった目を恐る恐る開く。
薄く金色に光る光の粒が見える。
「これが私の魔法……」
どんな効果があるかは分からないけれど、ほのかに光るそれはマクスウェルが何か仕掛けを施したものではないらしい。
それにしてもすぐ地面に当たって死んでしまうと思ったのだけど、地面にたたきつけられる気配が無い。
「本当に飛べないんですよね?」
「ああ、大人にでもならない限り無理だ」
やっぱりこの金色の光は私の魔法なのだろう。本当にこれで彼を守ってくれるのかは分からない。
「大丈夫だ」
俺のみる目はまちがっていないから。
随分と長い時間落下している気がする。
この穴はどこまで続いているのだろう。