③
胸元が大きく開いていて、スカート部分はフリルとレース、それにきっと仕込んであるであろうパニエですごいボリューム。まさに『人生で特別な日』のための服。
ああ、あのときのドレスを思い出す。
ライラの頭に、あるときの出来事が思い浮かんだ。
それは『ある女性』。特に親しいというわけではないけれど、顔見知りだった。
そしてライラにとってだけでなく、リゲルにとっても顔見知りだった。いや、彼にとっては『顔見知り』だったとは思っていないだろうけど。
そのひとが同じ街に住んでいた頃、ライラはまだ子どもだったのにそのひとはもう大人だった。二十頃の、綺麗盛りの女の人。穏やかな気質と見た目のひとだった。背は低めで、少しふっくらした体型をしていたけれど、それすら女性らしさを強調していて魅力的なひとだった。
もうそのひとは、結婚して遠くの街へ行ってしまったけれど。それでも、事実として消えやしない。……そのひとが、リゲルの一時期、恋していた相手だということは。
顔見知りでしかなかったので、結婚式には招かれなかった。
しかしこっそり覗きに行ってしまったのだ。教会の近くへと。
そして、ちらりとだが見た。純白のドレス……そう、今、目の前にあるような、女性らしい豊満さを強調するようなうつくしいドレスで、うつくしい姿で、そしてうつくしい幸せそうな笑みを浮かべて微笑んでいたところを。
リゲルはあの姿を見ただろうか?
「ライラ、帰るわよ」
母に呼びかけられて、はっとした。
「はい!」
紙袋を下げた母について、店を出る。
「良いものが買えて良かったわね」
「うん。とってもかわいかった」
すぐに気持ちは買い物へと戻ってきた。母も「じゃ、次ネックレスやイヤリングね。バッグと靴は家にあるのが似合うでしょう」などと言い、アクセサリーの店を何軒か回って、無事に支度は整った。かわいらしいドレスをはじめ、特別なアクセサリーを買ってもらったことに、ライラの気持ちは明るくなっていたのだが。
心に引っかかった『そのひとのこと』が復活してしまったのは、その夜のことだった。