②
「サーシャの三つ下になるかな。今年十三だ。まだまだ子どもだよ」
「まぁ酷い」
ぷぅ、と膨れた様子はしかしロイヒテン様の言う通り子どもにしか見えず、微笑ましかった。しかしキアラ姫は無邪気なだけの娘ではないようだ。
「いつまで放蕩なさるおつもり? 良いおとしをされて」
次に出した話題は、声を潜められていた。ロイヒテン様は困ったように笑う。事実ではあるので。
「キアラは手厳しいね」
「お兄様のことを思っているのよ」
「それはありがとう」
そんなやりとりのあとは、サシャにお鉢が回ってきた。
「サーシャ様は、ほんとうはなにをされているの?」
ぎくりとした。この娘にも話が伝わっているのか。
それはそうかもしれないが。身内……それも妹などという近しいも近しい関係であれば。十三といえばまるで子どもというわけでもないので。
「サーシャは」
ロイヒテン様が助け舟を出してくれようとしたが、キアラ姫にびしりと止められてしまう。
「ストップよお兄様。私はサーシャ様とおはなしがしたいの」
「……ははは、悪かった悪かった。じゃ、女の子同士で話したらいい」
ロイヒテン様はちょっと言葉を切ったものの、すぐに笑ってサシャを見た。ロイヒテン様の身内で素性が知れているので過剰に心配はしていないだろうが、やはり不安なのだろう。そういう顔をしていた。
大丈夫よ。
サシャは微笑んだ。それにロイヒテン様も、少しだけ安心したように笑ってくれる。
そのやりとりをどう見たかはわからないが、キアラ姫はサシャの隣に腰を落ち着けてしまって、「そうするわ。それで? 学校などに通われていらっしゃるの?」などと話をはじめてしまった。
学校に通っていること、そしてバーで歌姫をしていることなどをサシャは話した。あまりに卑しい身であることは言わないほうが良いと思ったので、いかにも『ある程度の良い家の娘』の話に聞こえるように気は配ったが。
「あら、じゃあお姫様ではないの」
バーの歌姫に関しては、キアラ姫はちょっと目を見張った。サシャは苦笑してしまう。
「そんな上等なものではないのです」
「歌姫様ならおうたが上手いのでしょう。今度聴かせてくださいませ」
「お耳汚しにしかならないかもしれませんが、もし機会がございましたら……」
自分の言い方が我ながら上手かったのだと思う。『バー』のことを、労働者が一杯ひっかけるような雑多なところではなく、いかにも身分のある人々が集まるようにだいぶ脚色したので。まるで嘘ではないとはいえ、まるっと本当のことではないので心は痛んだが。