③
あれこれ、十分近くは話していただろう。
そのうちに遠くからキアラ姫を呼ぶ声がした。国王陛下ではなく、親戚かなにかのようだ。こちらへきてお話をしましょうとでも誘っている声だった。
「呼ばれてしまったわ。私、失礼するわね」
キアラ姫は立ち上がって、「サーシャ様、またいらしてね」とまで言ってくれた。
「ああ。キアラ、サーシャとの話はくれぐれも」
「わかってるわ。内緒話よ」
釘を刺したロイヒテン様にしれっと答えて、そして最後にひとこと告げる。
「サーシャ様、良い方ね。私、エリザベータ様より好きだわ」
「こら、キアラ」
ロイヒテン様はぎくりとしたような顔をして、キアラ姫を小さく叱った。それにもかまわずキアラ姫は「ではね、お兄様。サーシャ様、ゆっくりしていらしてね」と言って去っていってしまう。
「ありがとうございます」
そう言って見送ったものの、サシャの頭には疑問符が浮かんでしまった。
エリザベータ様?
さっき出会った、ツンとしたどこか不機嫌な様子だった女性だ。どうして彼女と自分を比べる必要があるのだろう。
「やれやれ。すまないね。騒がしかったろう」
「そんなことないですわ。楽しかったです」
「それならいいけれど」
言ったあとに、ロイヒテン様がふと距離を詰めてきた。顔が近づいたのでサシャは少し、どきりとする。
「上手くやるものだね」
先程キアラ姫が言ったように、内緒話。サシャはほっとすると同時に嬉しくなってしまう。期待に応えられたことに。
「私で大丈夫と言ったのは『ロイヒテン様』よ」
こそこそと言い合い、ふふっと笑った一瞬だけは、ただの『シャイとサシャ』であった。