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 あれこれ、十分近くは話していただろう。
 そのうちに遠くからキアラ姫を呼ぶ声がした。国王陛下ではなく、親戚かなにかのようだ。こちらへきてお話をしましょうとでも誘っている声だった。
「呼ばれてしまったわ。私、失礼するわね」
 キアラ姫は立ち上がって、「サーシャ様、またいらしてね」とまで言ってくれた。
「ああ。キアラ、サーシャとの話はくれぐれも」
「わかってるわ。内緒話よ」
 釘を刺したロイヒテン様にしれっと答えて、そして最後にひとこと告げる。
「サーシャ様、良い方ね。私、エリザベータ様より好きだわ」
「こら、キアラ」
 ロイヒテン様はぎくりとしたような顔をして、キアラ姫を小さく叱った。それにもかまわずキアラ姫は「ではね、お兄様。サーシャ様、ゆっくりしていらしてね」と言って去っていってしまう。
「ありがとうございます」
 そう言って見送ったものの、サシャの頭には疑問符が浮かんでしまった。
 エリザベータ様?
 さっき出会った、ツンとしたどこか不機嫌な様子だった女性だ。どうして彼女と自分を比べる必要があるのだろう。
「やれやれ。すまないね。騒がしかったろう」
「そんなことないですわ。楽しかったです」
「それならいいけれど」
 言ったあとに、ロイヒテン様がふと距離を詰めてきた。顔が近づいたのでサシャは少し、どきりとする。
「上手くやるものだね」
 先程キアラ姫が言ったように、内緒話。サシャはほっとすると同時に嬉しくなってしまう。期待に応えられたことに。
「私で大丈夫と言ったのは『ロイヒテン様』よ」
 こそこそと言い合い、ふふっと笑った一瞬だけは、ただの『シャイとサシャ』であった。

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