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お客様が次々と入ってきて、国王陛下や王妃様、王子様たちに挨拶をしていく。その中の一組に、サシャは少しの違和感を覚えた。それは男性のほうではなく、女性だった。サシャより少し年上に見える。
「お久しぶりね、ロイヒテン様」
国王陛下などにご挨拶をしたあと、こちらへやってきた彼女はツンとした口調で言った。彼女はサシャと同じ金髪。高く結い上げていた。
「……お久しぶりです」
ロイヒテン様はなんだかきまりが悪そうだった。「お知り合い?」と聞きたかったけれど、この状況でそんなことは訊けない。サシャはなにも言えなかった。
「サーシャ、こちらはエリザベータ=オイレンブルク様。隣の領のお家(いえ)の……」
ロイヒテン様は彼女を紹介してくれ、彼女にもサシャのことを「彼女はサーシャ=アシェンプテル。……婚約している」と紹介してくれた。なんだかツンツンした彼女に少々圧を感じていたものの、『婚約者』と紹介されたことに嬉しくなってしまった。ロイヒテン様は婚約していると言うのを少し躊躇った様子であったけれど。そこも少々謎だった。
しかしそんなこんなを態度に出すわけにはいかない。サシャは表情を引き締め、「お初にお目にかかります」とお辞儀をした。
「こちらこそ」
彼女はそれしか言わなかった。そして「楽しい晩になりますように」と、隣に居た男性にエスコートされて去っていった。その言葉が建前でしかないのは明らかだった。
彼女が去って、ロイヒテン様はため息でもつきそうな顔をする。実際にため息はつかなかったがそういうお顔だった。彼女……エリザベータ様となにかがあるのだろう。
察したけれど、今、この状況でなにが言えるものか。次のお客様がすぐにいらしたこともあり、サシャはまた、今夜何度目かもわからぬ「お初にお目にかかります」を、にこりと言うことになった。