①
「ごきげんよう」
「良い晩ですね」
続々とお客様が入ってこられる。王族の親戚の方や、貴族の家の方々。そのすべての方々が豪華な衣服や装飾を身に着けておられた。
勿論、ほんの子ども以外の方々のほとんどは男女でペアになっている。
夫婦、婚約者、あるいは恋人。年代や事情によって色々あるだろうが、いずれもそのたぐいであろう。
そして自分も。
サシャはちらりと隣を見た。
ミルヒシュトラーセ王家の家族、関係者の座る席。サシャの隣には勿論『ロイヒテン様』が居る。やはり髪を持ち上げて固めて、そして今まで見た中で一番豪華な服を着ていた。
事前に話したように、ワインレッドを基調とした盛装。今となっては、カフェの片隅で衣装の色について話したことのほうが夢のようだった。
でも夢ではない。あのときサシャがカタログで見て「これがいいわ」と指したピンクのドレス。自分も今、仕上がったそれを着ているのだから。
ドレスは体にぴったり。コルセットなども無く、ふんわりとしたスカートなのでそう苦しくもない。
むしろ着心地はとても良かった。慣れなくはあったが。
使われている布の質がそもそも庶民のものとはまったく違うのだ。庶民は、少なくともサシャの国では、綿や麻の生地が主流。せいぜいバーの歌姫をするときだけ、絹(シルク)素材のドレスを着るくらい。しかしそれも質がいいとは言いがたい、最低ランクの質だろう。
今着ているものも絹だが、着心地は比べるのもおこがましいくらいにするりとしなやかで光沢を持っている。
こんな良いものを着てしまっては、もう普段着が着られないかもしれないわ。
そんなふざけたことまで思ってしまうほどに信じられないものであった。
ドレスを着るだけではなく、サシャの髪はハーフアップにされて、下ろした部分は綺麗に巻かれている。そこへレースの付いたリボンを飾られていた。金髪、それもロングヘアなので華やかな髪型がよく映える。
勿論メイクも完璧。自分で施したものとは比べ物にならなかった。
そもそも使っている化粧品からして、いや、そもそも容器からしてランクが違った。
ファンデーションは艶を持って真っ白、チークはやわらかなピンク。そしてリップはグロスを重ねてぽってりとかわいらしく。
ドレスは一度試着したものの、髪やメイクまでセットしてもらってはいなかったので、フル装備にしてもらって鏡を見てサシャは、ほう、と息をついてしまった。
まるで絵本のお姫様。自分がこんな『お姫様』になれるなんて。
場末のバーの歌姫は、今宵だけ本物のお姫様になれるのだ。