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急展開

 追いついてきた神職に話を聞く。神職はぜいぜいと荒い息を吐きながら深雪に話す。

「小野田さんからお聞きしていたことがありまして」

神職は深雪を鳥居に案内しながら、大砲の話を始める。

「玄武隊の武器ですか? 新政府の人が聞いたら驚くでしょうね」

布良見に言うと、申告しなかった罪を問われかねないから相談はできない。材料として工業用に転用してしまうと安全そうに思える。

「小野田さんのお手紙もあるかもしれません」

 鳳神社に戻ると鳥居の修理が行われている。装飾の鳳が外されている。

「これは……?」

深雪は鳳の冠部分を開ける。中に簡単な手紙が出てくる。

「小野田のものではない……」

神職は震える声で読み上げる。

『中の玄武隊秘蔵武器の地図は頂きました。白蝋王(はくろうおう)

白蝋王は悪鬼の首領(ドン)だ。隣にいつの間にか(いつき)が立っている。

「使われる前にあの妖怪の屋敷に乗り込む……だが危険だ」

しかし斎が再び深雪を見ると、小野田の手紙を欲して既に移動した後だ。

「やれやれ気が早い……」

新政府の裏人材は妖怪の政府とつながりがある。閻魔庁に連絡し、討伐隊を派遣してもらう。討伐隊は深雪より俊足だ。深雪の出番は無さそうに思えた。


◇◆◇◆◇ 訪れない未来 ◇◆◇◆◇


「ああああああっ!!!!!」

雪女深雪の一撃は白蝋王に当たらない。
代わりに隣にいる、敗れ去った閻魔庁の捕虜……翡翠の鬼を雪だるまに変える。
妖力を使った上に、味方が減ってしまった。

「くくく……腕が鈍りましたね……」

手下である蝋人形の木偶(でく)が動くと、切り刻まれた深雪の和装がはらりと舞う。
可動する器械の口から戯言(ざれごと)を語りだす。敢えて読み取ろうとする。
白蝋王は俯瞰(ふかん)からその動きを見る。手に玄武の銃があり白煙を上げる。

「残念、後ろです……む?」

白蝋王は訝しげに辺りを見回す。
空中に雪の精霊(しょうろう)が描かれた(いびつ)な門が現れている。
深雪は血の華を咲かせることなく虚空に吸収されていた。

 灰色の風景、無の空間。
目覚めるといつもこうだ。広漠たる土地で草木は生えない。
敗北の痛みなどなく、さっき起きた現実は幻想でしかない。

「この展開は初期のバッドエンド(1ルート)なのです」

直前の記憶が投影されて人影が語りかけてくる。輪郭は塔季(とうき)

「輪廻無きあなたはこの空間を繰り返す。」

時間に巻き戻しがかかる。段々と深雪の姿が昔のものに変わっていく。

「この瞬間はいつも嫌」

骨は退行して(きし)み、古い皮膚組織は新しくなっていく。

光に包まれ――――

◇◆◇◆◇ ◇◆◇◆◇

(1章 完)

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