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その間、シャイともう一度、こっそり会った。パーティーでドレスを作るためにサイズを測るからと。
シャイの事情を知る王室お抱えである仕立て屋に、細部までサイズを測られた。薄着の上からではあったけれど、こんな計測をされたことなどなかったのでだいぶ恥ずかしかった。
それはともかく、サイズ計測も終わったあと「どんなのにする?」なんてカタログまで見せてくれた。しかもこれはただの参照で、いくらでもアレンジができるそうだ。
自分がこんな美しいドレスを着るなんて。普段からバーの歌姫としてドレスもどきを着てはいるけれど、そんなものとは比べ物にならない本物のドレス。女の子として純粋に嬉しくなってしまった。
「いいの? じゃあ、ピンクがいいわ」
サシャの意識はすっかり前向きになっていたので、むしろ堂々とドレスのカタログをめくり、明るいピンク色でリボンやレースがたくさんついていて、ふんわりしたスカートのものを指した。
「いいねぇ。若い女の子なんだからかわいい色を着ないとね」
シャイは肯定してくれたし、自分でもピンクで良いと思った。金髪にも良く似合うだろう。
「じゃあ俺は、ピンクに似合うようなワインレッドにでもするかな」
言われてサシャの胸はちょっと痛んでしまった。
そうだ、自分がこのドレスを着るとき隣に居るのは『シャイ』ではなく『ロイヒテン様』なのだ。きっとあのとき馬車で走るのを見かけたように、髪を持ち上げて王子様の盛装をするのだろう。
「そういえば、言葉遣いとかはどうすればいいの?」
気分を変えるように聞いたサシャに、シャイはなんでもないように答えた。
「別に普通の敬語でいいよ。ただ、俺のことをロイヒテン様って呼んでくれるくらいでいいんだ」
「……そう」
それが一番の問題であり、距離を感じてしまう寂しさであるのだけど。それを悟ったように、シャイは言ってくれる。
「悪いな。気、使わせると思う」
「ううん」
言って、今度はサシャがその場を和ませた。
「頑張るから、うまくやってのけたら甘いものでも奢ってね。スイーツビュッフェとかがいいわ」
「ちゃっかりしてるなぁ。太るんじゃなかったのか」
「特別なときはいいのよ」
言って、なんだかおかしくなって、シャイと二人でくすくすと笑ってしまった。
きっと出来るだろう。
そう思えるようになったのだ。