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結婚式とキャバクラ

 今、私とロテスは結婚式会場にいる。ついに私達は結ばれる事になった……………わけではなく、ある仕事を請け負ってここにいるのだ。新郎と新婦の誓いの口づけの時に、魔法を使って派手に演出をして欲しいという内容の仕事だ。ほんの2、3分演出をするだけなのだが、お金持ちの依頼なので、たんまり依頼料をもらえたとロテスは喜んでいた。結婚する側としては、一生に一度のイベントなので大金を出してでも良い思い出にしようという気持ちはまぁ理解できる。
 私は結婚式というものに初めて出席するので、とても楽しみでワクワクしていた。いつか私も同じ舞台に立つ事があると思うので、参考にするためにしっかりと観察するつもりだ。

「ついに結婚式が始まるね!ロテス」
「ああ、そうだな。しばらくは退屈な時間が続きそう」
「まぁロテスにとっては退屈かもね。私は結婚式ってどんな感じなのか楽しみだけど」
「どうせどうでもいい事しゃべって終わりだろ?」
「ロテスってたまに淡泊になるよねぇ。なんにでも興味を示さないとダメだと思うよ」
「そんなの俺の勝手だろ?」
「そりゃそうだけどね」

 午前10時になった。結婚式の始まりだ。さっそく新郎、新婦が入場してきた。新婦のウェディングドレス姿はとてもキレイだった。
 いいなぁ…いつか私もこんな素敵なドレスを着てみたいなぁ…
 主賓の挨拶から始まり、式はどんどん進行していく。ケーキ入刀、友人代表のスピーチ、新郎新婦のスピーチ。その間、私はずっと新婦の姿を見ながら、自分の結婚式をイメージしてニヤニヤしていた。えへ、えへへへ。

「何ニヤついてんだ、そろそろやるぞ、ナレア」
「え?あっ、う、うん」

 私とロテスは会場に雪をパラパラと降らせた。

「それでは誓いのキスをしてください」

 新郎、新婦が近寄り、キスをした。

 ここだ!
   
 私とロテスは光魔法で新郎、新婦をキラキラ輝かせた。新郎、新婦は神々しく見える。

「わー、キレイ」
「ステキねー」
「なんだか天使のようだ」

 見ている人達は感動してくれているようだ。良かった、良かった。

「さぁ帰るぞ、ナレア」
「私は最後まで見てく」
「そうか、じゃあ先帰ってるぞ」
「うん」

 私はまた新婦を見ながら、色々とイメージを膨らませた。へへへへ。
 最後まで残ってみたものの、誓いのキスの後は特に感動する場面はなかった。結婚式は終わり、私は事務所に帰った。

「ただいまー、結婚式とっても楽しかったー。ね?ロテス」
「うるさい!!」
「え?何よいきなり。どうしたの?」
「前から思ってたんだけど、お前の声ムカつくんだよ!」
「どうしてそんなひどい事言うの?」
「ムカつくって言ってんだよ!!さっさと出てけよ!お前はクビだ!」
「なんで?どうしちゃったの?」
「さっさと消えろ!ぶっ飛ばされたいか!」
「ロテスのバカ!!」

 私はちょっと涙を流しながら事務所を出て行った。
 なんでロテスいきなり変わっちゃったんだろう?私何かしたっけ?何もしてないよね?おかしいのはロテスの方だよね?でも一応社長なわけだし、社長にクビだと言われたらもうあの事務所にはいられない。違う仕事を探さないと…はぁー、困ったなぁ。いきなりクビだなんてひどすぎるよ…仕事探すのめんどくさいなぁ…
 私が悩みながら歩いていると、「女神の降臨」というキャバクラで「25才ぐらいまでの若い女性求む」と書かれた張り紙を見つけた。給料の欄を見ると、今の給料の倍ぐらいの金額が書かれていた。
 キャバクラってただお客と話すだけの仕事だよね?なんでこんなにお金がもらえるんだろう?ちょっと怖いけどやってみようかな…
 私は店の扉を開けた。

「あの、求人の張り紙を見て来たんですけど…」
「おお、ちょうど良かった!一人いきなり辞めちゃった子がいて、困ってた所なんだよ。今日から働けるんでしょ?」
「ええ、まぁ」
「だったら今からお願い!ただ客と話すだけでいいから!2番のテーブルに行ってもらえる?」
「はい」
「あっ、そうそう、指名をもらったり、お客さんが延長したりするとお給料上がるから頑張ってね!」
「はい」 

 いきなり働く事になるとは思ってなかった。まだ心の準備ができてないけど、話すだけなら楽勝だわ。バンバン指名とってこの世界でのし上がってやるわ!見てなさいよ、ロテス、私をクビにした事を後悔させてやるんだから!
 2番テーブルに行くと、意外とカッコいい若者が座っていた。
 こんなハンサムな人がなんでキャバクラなんかに来るんだろう?もてないわけじゃないよね?たいていキャバクラに来る人って、わざわざお金払って話しに来るわけだから、相当女性と縁のない、もてない中年おじさんばかりだと思ってたけど、そういうわけでもなかったみたいね。まぁいいわ、この人となら楽しく時間が過ごせそう。

「はじめまして、ナレアです。よろしくお願いします」
「ナレアちゃんっていうの?ものすごい美人だね、俺はゲンパス、よろしくね」
「私あなたのようなカッコいい人と出会ったの初めてかも」

 ふふふ、おだてるのは得意よ。

「嬉しい事言ってくれるね、ありがとう。ナレアちゃんはこの店で長く働いてるの?」
「いや、今日入ったばかりよ」
「全然そんな風には見えなかったよ。立ち振る舞いが堂々としてるからベテランの人かと思った」

 なんだか喜んでいいんだか、よくないんだか、わからないわ。

「そう言ってもらえると嬉しいです」
「ここの仕事始める前は何してたの?」
「探偵事務所に勤めてたの。そこの社長が私の幼馴染なんだけど、何もしてないのにいきなりクビだなんて言ってきて、私もうどうしたらいいかわからなくなっちゃって、気づいたらここに来てたの」
「ふーん、大変だったんだね」
「あっ、ごめんなさい。暗い話になっちゃったね。なんか明るい話題を提供しないと…」
「どんな話でもいいよ。ナレアちゃんといるだけでとっても楽しいから」
「そう?ありがと」

 こんな調子で時間になるまで楽しく会話を続けた。客は満足そうな顔をして帰っていった。なんだ、キャバクラってちょっと怖い所ってイメージあったけど全然そんな事ないじゃん!客には喜んでもらえて、私まで楽しめるなんて最高!もしかしてこれが私の天職かも!
 10分ぐらいしてまた別の客がやってきた。

「4番テーブルに行って」
「はい」

 4番テーブルを見ると、ぶくぶくと太った中年のおじさんが座っていた。キャバクラに通うのはこういう男ばかりだと思っていた。さっきの人が例外だったのかな?今回の人はなんだか怪しい目をしてるけど大丈夫かなぁ?変な事されないといいんだけど…ううん、人を見た目で判断してはいけないわ!もしかしたら中身はすごくいい人かもしれないじゃない。頑張れ、私!
 自分に喝をいれると4番テーブルの男の隣りに座った。

「こんにちわ、ナレアです」
「ナレアちゃんかー、かっわいいなー、ぐへへへ」

 なんかこの人気持ち悪い…

「ど、どうも」
「ナレアちゃんってさー、体洗う時はどこから洗うの?」

 なんだかちょっといやらしい質問ね。

「えーと、大抵は頭からです」
「そーなんだー、へー。ねぇ、もし僕が彼氏だったらどんな事してもらいたい?」
「難しい質問ですね」
「たとえばー…こんな事はどう!?」

 客はいきなり抱きついてきた。

 バキッ!

 私は反射的に客の顔面にパンチをくらわしてしまった。鈍い音がして、客は失神してしまった。
 急いで店長がかけつけてきた。

「大丈夫ですか?お客さん、お客さん!」

 店長は私を睨みつけた。

「君がこんな事する子だったなんて思わなかったよ。クビだ!出て行ってくれ!」
「はい」

 私は着替えて店を出た。
 はぁ…またクビになっちゃった。でも今のはしょうがないよねぇ?私が被害者なのに、なんの言い分も聞かずに、クビだなんてあまりにもひどいわ。いや、あんな所クビになって良かったかも。とてもじゃないけど耐えられないわ。
 その時、ロテスがテレパシーで話しかけてきた。

「どこで何してるんだ?帰ってくるの遅すぎるぞ、ナレア」
「何よ、さっきはあんな事言っておいて!」
「あんな事?俺何か言ったっけ?」
「さっき事務所で私にムカつくからクビって言ったでしょ?」
「そんな事言うわけないだろ?だいたい俺が事務所に帰ってきたの5分前だぞ。ちょっと用事を思い出して寄り道してたんだ」  
「え?じゃあさっきのはロテスじゃないの?」
「どうやら何者かが俺に化けてナレアに嫌がらせしたみたいだな」
「なんだ、そうだったんだ、良かったー。じゃあ事務所に戻ってもいい?」
「いいに決まってるだろ。早く帰ってきなよ」
「うん」

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