上級魔導士試験
俺の名前はヌーリシアン。18才の男だ。上級魔導士の資格取得を目指して日々鍛錬を積んでいる。しかし、もしかしたら俺には才能がないのかもしれない。4ヵ月に1回行われる上級魔導士の試験にもう3回も落ちている。点数は公表されないため詳細は分からないが、実技の方はそこそこ点が取れてると思うのだが、筆記試験がダメなのだ。昔から勉強というものが苦手で、いつも平均点以下だった。まぁ昔は勉強をしてなかったからできなくて当たり前なのだが、今回はちゃんと自分なりに勉強を頑張った結果ダメなのだからどうしようもない。勉強ができる人に勉強法を聞いてみたり、色々教材を変えてみたりしているが結局何をやってもダメなのだ。
もうどうしたらいいかわからない。やけになって飲んだくれた事もあった。しかし、そんな事をしても虚しいだけだった。
そんな俺にある日名案が浮かんだ。真面目にやってうまくいかないならイカサマをすればいいのだと。そこで俺は大金を払って専門家にテレパシーで答えを教えてもらう事にした。今、俺はロテス探偵事務所の前にいる。ここの社長はどんな仕事でも請け負う事で有名だ。きっと俺の願いも聞いてくれるだろう。
俺は事務所の入り口の鐘を鳴らした。
「いらっしゃいませ。奥へどうぞ」
うわっ!ものすごい美人!こんなキレイな人見た事ない!でも彼氏いるんだろうな…
俺は奥へ案内され、応接室の扉を開けると社長のロテスさんが座っていた。
「ロテスです。今日はどういったご用件でしょうか?」
「あの…非常に言いにくい事なんですが…今度行われる上級魔導士の試験でテレパシーを使って答えを教えてもらえないでしょうか?お願いします!」
「試験でテレパシーをねー…せっかくお越しいただいたのに申し訳ないんですがお断り致します。そんな事をして、もしバレたら私は仕事ができなくなってしまいますので」
「そこをなんとか…」
「無理ですね。すみません」
「そうですか…わかりました…失礼します」
俺はうつむきながら事務所を出た。
くそっ!何がどんな仕事でも請け負うだ!引き受けてくれないじゃねーかよ!せっかく頼りにしてやったっていうのによー!頭にくるな、バカヤロー!
でも、冷静に考えれば当たり前か…そんな依頼引き受けるはずがない…俺もどうかしてた。真面目に自分の実力でやるしかないって事だな。そうと決まれば試験の日まで猛勉強だ!
俺は死に物狂いで勉強した。寝る間も惜しんでひたすら覚えまくった。これだけやってもし落ちたらもう諦めよう。
そして遂に試験の日がやってきた。
俺は友達のカレロフと共に試験会場にやってきた。カレロフは1回目の試験の時に仲良くなった試験仲間で俺と同じように3回この試験に落ちている。試験に落ちて落ち込んでた時もお互い励ましあい、支えあってきた。カレロフも特別勉強ができるわけではないが、二人で今日出そうな問題を予想しあって試験までの時を過ごした。
「今回こそ二人で受かろうな!」
そう言うと俺はカレロフの肩をポンっと叩いた。
「ああ、これまでのすべてをぶつけてやるぜ!」
カレロフは闘志に燃えている。
「なぁ、カレロフは試験でイカサマしようとか考えた事あるか?」
「あるわけないだろ。そんな事して、もしバレたら二度と試験受けられなくなっちまうよ。イカサマなんてするような奴は相当のバカだけだと思うな」
そんなひでー事言うなよ、カレロフ。
「そ、そうだよな…はは、はははは」
「さぁ試験始まるぜ」
まずは実技の試験が始まった。最初の課題は魔法で衝撃波を出してボールをどこまで飛ばせるかである。ボールは重くしてあり、魔法を使わないで投げたら10メートルぐらいしか飛ばないだろう。俺の予想では合格ラインは30メートルぐらいだと思うので、だいぶ強い衝撃波を出さなければならない。この試験で落第点を取ってしまう人は大勢いるだろう。
皆それなりの衝撃波でボールを飛ばし始めた。しかし、平均すると大体25メートルぐらいしか飛んでいない。それではダメなのだ。
俺の番が回ってきた。
よしっ、やってやるぜ!衝撃波は俺の得意分野だ!今日の最高飛距離を出してやる!
「それではボールを飛ばして下さい」
いくぞ!おりゃー!!
ボールは勢いよく飛んでいった。
ポトン。
「31メートルです」
なにっ!ギリギリかよ!あぶねー…
「やるじゃねーかよヌーリシアン」
そう言うとカレロフは俺の背中を軽く叩いた。
「ちょっと今日は調子が悪いみたいだな」
「それは俺に対する嫌味かー?俺は30メートルだぞ」
「お前も今日は調子悪いんだろ?」
「いや俺は絶好調だけど」
「あっ、そうだったんだ」
「それより次の課題なんだろうな?」
「さぁ。得意なやつだといいんだけどな」
そうこうしているうちに次の課題が発表された。試験官が召喚したモンスターを雷魔法を使って一撃で倒せとのことだ。雷魔法はそれほど得意ではないから少し不安だった。
俺ならやれる、俺ならやれる、俺ならやれる、そう何度もとなえて自分を奮い立たせた。
試験が始まり、次々に受験者が挑戦するが1撃で倒せる者は今のところ半分ぐらいしかいない。結構難しい課題のようだ。
「それではヌーリシアン君前に出てください」
「はい」
俺は前に出ると魔法を出す構えをとった。
試験官がモンスターを召喚した。
「ボラステ!」
雷をモンスターの頭上に落としてやった。モンスターはフラフラしている。
倒れろ!倒れろ!
モンスターの動きがピタっと止まった。
くそっ、ダメか…
バタンッ!
モンスターが倒れた。
やった―――!!なんとか乗り越えたぜ!
「危なかったなー。もうちょっとでモンスターが耐えきっちゃう所だったな」
カレロフが笑顔で言った。
「ああ、俺はもうダメかと思ったぜ。今日は運がいいみたいだ」
「なんだか今日こそは受かりそうな気がするな」
「そうだな。カレロフもモンスター倒したのか?」
「もちろん!バッチリ決めてやったぜ!」
「おお、それは良かった」
少し休憩して、次の課題が出された。次は魔法で固めてある直径30センチぐらいの飴玉を30秒以内に溶かすというものだ。なんだかそんなに難しそうには思えないのだが、上級魔導士の試験に選ばれるほどだから一筋縄ではいかないのだろう。
一人づつ受験者がチャレンジし始めた。やはり皆苦戦しており、時間内に成功させた者はそんなに多くない。
もしかしたらこの試験ダメかもしれないと一瞬弱気になったが、なんとか自分で自分を勇気づけて、自信を取り戻した。
「ヌーリシアン君始めて下さい」
「はい。バリス!」
俺は自分の出せる最大火力で飴玉めがけて炎を出した。飴玉は勢いよく燃えている。しかし、溶けていくスピードが若干遅い。このままでは間に合わない。
「あと10秒」
くそっ!溶けろ!溶けろ!………ダメだ、このペースでは少し残ってしまう…どうすれば…どうすればいい…
「あと5秒」
わ―――、もうダメだ。ここまでか…
俺は諦めて目をつぶってしまった。
「終了です。見事飴玉を溶かしきりましたね」
え?ホントだ、飴玉が消えてる!よっしゃ―――!
「ギリギリじゃねーかよ、見てるこっちまでハラハラしちまったぜ」
カレロフがやってきた。
「なんだかよくわからないけど成功しちゃったよ」
「まぁとにかく良かったじゃねーか。これで俺達実技は通ったんじゃないか?」
「たぶん通ったと思う。問題はこの後の筆記だよ。大丈夫かな俺」
「自信持てよ!あんなに頑張って勉強してきたじゃん!今年こそは上級魔導士の資格取ろうぜ!」
「ああ、そうだな。絶対受かってやるぜ!」
1時間の休憩の後、筆記試験が始まった。問題は全部で20問。合格ラインは6割なので12問正解すれば合格である。
俺は頭をフル回転させて問題を解き始めた。
第1問「パルパレ神殿は何年に完成したか」
この問題は簡単だな、答えは723年だ。全部こんな易しい問題だといいんだけどなぁ。
第2問「アグナスが編み出した魔法は何?」
えーと、なんだっけなぁ…………あっ、思い出した!レオーナスだ。なんとか思い出せてよかったぜ。
第3問「バヘリオンとローシアスが戦った場所はどこ?」
うーん、どこだっけなぁ…思い出せ!思い出せ!思い出せ!………くそったれ、全然思い出せない。この問題は捨てよう。
この調子でどんどん問題を解いていった。今回はいつもと比べると比較的簡単な方なのか?俺でもわかる問題がたくさんある。いや、俺が必死で努力してきたからついに努力が実を結んだのだろう。
19問目を解いた時点で、答えが合っていると思われるのは11問。あと1問正解すれば合格ラインだ。次の最後の問題ですべてが決まる。俺は最後の問題を見た。
第20問「ケルニック王国の11代目の王の名は?次の1、2、3、4の選択肢の中から答えよ」
最後は4択か。どれだ、どれだ。1番か?いや、4番か?どっちだ…どちらかである事は間違いない。ちくしょー、わからねぇ…
カンニングするか?いや、落ち着け、隣りの奴の答えが合ってるとは限らないじゃないか。
あ―――、どうすればいいんだ。また落ちるのか?嫌だ…もう落ちたくない!神様助けて…
俺は目を閉じ、両手を合わせて神に祈りをささげた。神に祈るようになったら人間おしまいだ。こんなポーズをとったって何の意味もない。もう終わりだ。と、思われたが…
「4」
え?神様?今、声が聞こえたような…気のせいか?いや、きっと神のお告げだ、答えは4番だ!俺は解答用紙に4と書き込んだ。
「はい、終了です。解答用紙を集めます」
俺は解答用紙を試験官に渡した。
大丈夫かな?心配だな…また落ちたらどうしよう…4回も落ちたらさすがにバカだよな?いやだなぁ、バカにされたくないなぁ…はぁ…
2時間待ち、合格発表の時がやってきた。
俺は不安な気持ちを抱えて、うつむきながら掲示板の前までいき、ゆっくりと顔をあげた。
「え?マジかよ!?俺の名前がある!よっしゃー、俺受かったんだ!ついにやった!なぁ、カレロフ見てくれよ!これ俺の名前だよな?」
「ああ、そうだよ」
「はー、ついに俺も上級魔導士かー…まずはどうしようかなぁ。自分の会社を立ち上げちゃおうか。なぁ、カレロフはどうする?」
「…」
「カレロフ?」
「うるせーよ!一人だけ浮かれやがってよ!落ちた奴の気持ちも少しは考えろよ!」
「え?」
俺はカレロフの名前を探してみた。
ない。カレロフの名前がない。カレロフは落ちたんだ…
「わりぃ、わりぃ。つい嬉しくなっちまって」
俺は試験に受かった嬉しさを隠しきれず、ニヤニヤしながら謝った。
「じゃあその顔はなんだよ!俺が落ちたのがおもしれーんだろ?だから笑ってるんだよな!?」
「違う、そんなわけないだろ」
「バカみたいな顔でヘラヘラ笑いやがって、気持ち悪いんだよ」
「なんだと?お前は豚みたいな顔じゃねーか!」
「言ったな、このやろ―――」
カレロフはアッパーを繰り出した。俺はよけようとしたが、気遣いができなくてこうなってしまったわけだから、おとなしく攻撃を受けようと思った。カレロフのアッパーは俺の顎をとらえた。
いてぇー、でも我慢しなくちゃ。
今度は俺の脇腹に回し蹴りを打ち込んできた。
「げほぇ」
これはさすがによけた方が良かったかも…
俺は膝を地面についた。
「はぁ…はぁ…これでちょっとは俺の痛みがわかったか!」
カレロフは目をつり上げながら言った。
「おーい、君はカレロフ君だよねー」
試験官が遠くから走ってきた。
「はい、そうですが…」
「大変申し訳ないんだけど、採点ミスがあって君合格だったよ!ごめんねー」
「え?マジっすか!?やった―――!受かった―――!これで今日から上級魔導士だぜ!よし、よし、よし」
「受かって良かったな」
俺は立ち上がり、声をかけた。
「あっ、さっきはごめんなー。痛かっただろ?そうだ!俺をおもいっきりぶっ飛ばしてくれ!それでおあいこだ、なっ?」
「気にしなくていいよ」
「い―――や、そうでもしないと俺の気がすまないんだ!やってくれ!」
「わかったよ。やればいいんだろ」
俺は40パーセントぐらいのパワーでカレロフの頬を殴った。
「いってぇー。でも気持ちいい。幸せな時は何をされても幸せだなぁ」
「まったく変な奴だな」
「そうだ、これから打ち上げしようぜ!」
「いいな、やろうぜ」
俺達は肩を組んで、歌を歌いながら、試験会場を後にした。