釣りと牢屋
「それー、どーだナレア」
バシャバシャ。
「きゃははは」
俺達は今、川で水をかけっこして遊んでいる。川に遊びに来たわけではないのだが、仕事をする前にちょっとだけ楽しむ事にしたのだ。今日の仕事はこの川にしか生息していないウォーランという魚を釣る事だ。ウォーランの内臓を薬を作るために利用するらしい。それほど珍しい魚ではないので、簡単に釣る事ができるだろうという話だった。あまり釣りをした経験がないのでうまくできるか不安だったが何事もチャレンジしてみる事が大事だと思い承諾した。
「よーし、今度はどっちが長く水中で息を止めていられるか競争だ!」
「のぞむ所よ!負けないわよ、ロテス」
「せーの!」
ドボンッ!
2人同時に水中に潜った。俺は息を止める事に関しては自信がある。こんな事ができてもあまり役には立たないが、できないよりはできた方がいいだろう。
ナレアごときに負けるわけがないぜ!絶対俺が勝ってやる!
10分が経過した。2人共苦しくなってきて、だんだん表情が歪んできた。
だが、まだ耐えられる。もう少しすればナレアが、ねをあげるはずだ。
ナレアも必死で耐えている。なぜこんなくだらない勝負を必死で頑張っているんだろうという疑問を抱きつつ。
15分経った。
もう限界だ!ナレアに負けたくはなかったがもう上がるしかない…いや、その前に最後の悪あがきをしてみよう。これでダメなら俺の負けだ。
俺は思いっきり変な顔をしてみた。
「ブハハハ」
ナレアはうっかり笑ってしまい、息を吐き出してしまったので、仕方なく水から上がった。
作戦は見事に功を奏した。俺の勝ちだ。
俺も水から上がった。
「はははは、俺の勝ちだな!どうだ、ナレア!」
「笑わせるなんてズルいよー」
ナレアはほっぺをふくらませた。
「笑う奴が悪いんだよ」
「それもそうね」
「それじゃあそろそろ仕事にとりかかるか!」
「あっ、すっかり忘れてたわ」
俺達は着替えるとすぐに釣りをし始めた。しかし、なかなか釣れる気配がない。餌が悪いのかと思い、違う餌にかえてみたりしたが、やはりダメだった。
今日はウォーラン達の腹が満たされているのだろうか?それとも釣る場所が悪いのだろうか?何がよくないのか分からないまま時間だけが過ぎていった。
もう諦めて帰ろうとした時、一人のおじさんの釣り人と出会った。
「君達何を釣ろうとしてるの?」
「ウォーランです。全然釣れなくて困っています」
俺は悲しい表情を浮かべながら言った。
「餌は何を使っているんだい?」
「ハレマ虫です」
「それじゃあダメだよ。このヨレス虫を使ってごらん」
「はい」
俺はどうせダメだろうとなげやりな気持ちで餌をかえて釣ってみた。すると驚いた事に10分ぐらい待つと魚が餌にくらいついてきた。
魚を引き上げてみると、まぎれもなくウォーランだった。
「ありがとうございます。おかげ様でウォーランを釣る事ができました」
俺はおじぎをしながら言った。
「そりゃ良かった。バンバン釣ってやんなよ」
「はい」
ここからは好調で俺とナレアは合わせて5匹釣る事ができた。これだけあれば充分だろう。俺達は帰り支度をして、川から離れた。
15分ぐらい歩くと、妙に食欲をそそるオレンジ色の草が生えている事に気が付いた。いい香りがしてくる。これは美味に間違いない。
「この草食べてみるよ」
俺はオレンジ色の草を手にとって言った。
「やめなよ、毒だったらどうするの?」
ナレアは心配そうな顔で俺を見た。
「大丈夫、俺の勘に狂いはないさ」
「もう、どうなっても知らないよ」
俺は軽く火であぶって食べてみた。
うん、うまい!やっぱり予想通り食べられる植物だったようだ。まったく、ナレアの心配性にも困ったもんだぜ。
ん?なんかおかしいな?目がグルグル回る…
「ふぉへひひと」
「ロテスどうしたの?」
「ひげふれれれ」
「あー、やっぱり食べてはいけない植物だったんだ。たぶん頭を混乱させる作用があったんだ。だからやめた方がいいって言ったのに…」
「へーひひとめめずど」
「ちょっとしっかりしてよ!困ったなー、お医者さんにみてもらうしかないか」
ナレアは俺の腕をひっぱり、なんとか歩かせて町まで帰ってきた。
お医者さんまであとちょっとの所で、若い女性が俺達の前を横切ろうとした。次の瞬間、ナレアの腕をふりほどいて、あろう事か俺はその女性に抱きついてしまった。
「げひゃひぶべ」
「キャー、痴漢よー、助けてー」
女性の悲鳴を聞きつけてすぐに警兵がやってきた。偶然近くに警兵がいるなんて運が悪い。
「コラッ!何をしてるんだ!」
警兵は俺をぶっ飛ばした。
「あの、今この人変な草を食べて頭が混乱してるんです」
ナレアが必死に弁解した。
「そんな言い訳は通用せんぞ。署に連れていく」
「そんな…」
警兵は俺の腕を持ち、引きずりながら連行した。
警兵署に着くと俺は牢屋にいれられた。牢屋に入って20分ぐらいが過ぎ、俺はようやく正気を取り戻した。
とんでもない事になったな。まさか女性にいきなり抱きついてしまうなんて…やっぱりナレアの言う通りあの草を食べるんじゃなかったな…
それにしても牢屋という所はいるだけで気分が悪くなってくる。まさか何年も牢屋暮らしなんて事にはならないよな?3日で発狂する自信あるぜ。でもだんだん慣れてくるものなのだろうか?
冷静に考えれば、ただ出る事ができない狭い部屋にいるだけなんだよな。なのになんだこの気持ちの悪さは!?いや、落ち着くんだ。ただの部屋じゃないか。ただの部屋。ただの部屋。ただの部屋。
あー、ダメだ!頭ではわかっていてもなぜだか苦しくなってくる。助けてー!!
俺が頭の中で助けを呼んでいると警兵がやってきた。もしかしてここから出してくれるのか?
「気分はどうだ?」
「もう最悪ですよ。早くここから出して下さい。妙な草を食べて頭が混乱してただけなんです」
「犯罪者は決まって同じような言い訳をするものだ。そんな嘘は通用せんぞ」
「嘘じゃないんです!信じてください!」
俺は大声を出した。
「黙れ!犯罪者の言う事など信じられるか!しばらくここで頭を冷やせ」
警兵は俺を睨みつけて去って行った。
くそっ、偉っそうにしやがって!たいして魔法も使えないくせに生意気言うんじゃねー、バカヤロー!
と、心の中でいきがってみても虚しいだけだった。
やがて飯が運ばれてきた。ちょうど腹がすいていた所だ!いただきまーす!
パク。
げー、マズ!なんだこの味は!反省させるためにわざわざ不味く作ってあるのか!?ふざけやがって、こんな料理なら食べない方がマシだ!
俺は一口食べただけであとは一切食事に手をつけなかった。
はー、いったいいつまでここにいればいいんだろう。ナレアも心配してるだろうなぁ。うまい飯が食べたいなぁ。
もーダメだ!もう限界!こんな所に1分1秒でもいたくない!死んでやる。自殺して困らせてやる!いや、自殺したって誰も困らないか…部屋が一つあいて喜ぶかもな…はぁ、どうすればいいんだろう…
俺が途方に暮れていると頭がはげあがったおじいさんと警兵がやって来た。
どうせまた俺を馬鹿にしに来たんだろ?
「ちょっとこっちに来なさい」
言われた通りに、俺は鉄格子に近づいた。するとおじいさんは鉄格子から手を出し、俺の腹に手を当てた。おじいさんは目を閉じて、呪文を唱え始めた。しばらくすると、おじいさんは目を開いた。
「マンゲビドの毒にやられたようだな。本当にこの人は植物が原因で頭が混乱してたんだよ」
「なんと!その人の言う事は本当だったのか!だ、だがその人にも落ち度はある。その植物を口にしなければ何も起こらなかったわけだからな」
「まぁ今回は罰金で許してやったらどうだ?」
「そうだな。おい、釈放してやる。あとでちゃんと罰金を払うんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
バーカ!何か困った事があっても絶対助けてやらないからな!
こうして俺はやっと外に出る事ができた。
ふ―――、やっぱり外の空気はうまいぜ。