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目立たない存在

 僕はラバルという名の13才の男だ。身長は高くもなく、低くもない。顔は特別カッコいいというわけではないが、まぁそこそこのレベルだと思っている。レマステリオ魔法学園に通っている普通の学生なのだが、僕には一つ重大な問題点がある。この魔法学園に入ってもう1年が経つというのに一人も友達ができないのだ。なんとか僕も僕なりに努力して友達を作ろうとしたんだが、どうにもうまくいかない。友達ができないおかげですっかり僕はクラスでういた存在になり、暗い奴というレッテルを貼られてしまっている。
 この状況をなんとか打開できないものか。僕は毎日どうすれば友達ができるのかという事ばかり考えている。見た目は悪くないし、魔法もそれなりに使える。勉強もどちらかといえばできる方なのになぜ友達ができないのだ。
 暇さえあれば僕はいつも自分がクラスの人気者になって皆と仲良く楽しく時間を過ごしている姿を想像している。想像の世界ではいつも女の子達からもモテモテで、僕の話をちゃんと聞いてくれて、笑ってくれている。
 ずっと幸せな想像の世界の住人でありたいが、そういうわけにもいかない。そろそろ学校に行く時間だ。
 僕は準備を整え、家を出た。僕の家から学校までの一番近いルートは通る事ができない。なぜなら、友達同士で楽しく通学するための道だからだ。一緒に通う友達のいない僕は遠回りをせざるを得ない。
 この遠回りルートは時間がかかるが、いい事もある。僕と同じように一人で通う人達が大勢いるため安心するのだ。一人ぼっち同士で友達になれないか試した事もあったが、相手が心を閉ざしてしまっていて友情を育むどころではなかった。
 トボトボと一人で歩き、学校に到着した。教室ではいつものようにいくつかのグループでかたまって、楽しくおしゃべりをしている。

「なぁ1組のヤンボーと2組のシャーリンが付き合ってるらしいぜ!」
「え?マジかよー!俺も狙ってたのにー」
「嘘だろー、あんな奴のどこがいいんだよ」
「信じられねー、絶対シャーリンは俺の事好きだと思ってた」

 僕はカバンを机の上に置くとすぐにトイレに向かった。一人で教室にいるのが嫌で、いつもトイレで授業が始まるまでの時間を過ごしているのだ。トイレは唯一安らげる憩いの空間だ。
 しばらくして授業が始まった。
 先生が色々と話しているが、全然聞いていない。どうしても授業に集中できない理由がある。実は隣りの席にクラスで1番かわいいロザリアが座っているのだ。ものすごくいい匂いが漂ってくる。僕は思いっきり息を吸い込んで香りを楽しんでばかりいる。
 ここまではいつもと変わらぬ日常だった。しかし、ここでとんでもない奇跡が起こった。なんとロザリアが僕に話しかけてきたのだ。想像の世界ではいつも楽しく話しているが、現実の世界では一言も言葉を交わした事がない。僕は夢じゃないかと疑った。

「あの、あなたのイスの下に転がっていっちゃった消しゴムとってもらえる?」
「え?あっ、い…いいよ」

 しゃべった!僕はついにロザリアと話す事ができたんだ!やったー!今日はなんていい日なんだろう。はー、幸せだー。
 僕がうかれているとすぐそばで、僕の悪口を言う声が聞こえた。

「ねぇ、今ラバルとロザリアが話してたよ」
「ラバルって言葉話せたんだ」
「よくあんな暗い奴と話せるね」

 くそっ、せっかく幸せな気分だったのに台無しだ!できる事なら殴ってやりたいぜ…僕はイライラしながら机を軽くガンッと蹴った。僕は怒りをあらわにしたわけだが、当然誰も僕の怒りに気づく者はいない。それでも少し気分がスッとした。しかし、次の瞬間先生がとんでもない事を言い出した。

「えー、それではある課題をやってもらうので適当に4人1組になって下さい」

 そんなー、勘弁してよー、俺みたいに友達のいない人の気持ちも考えてくれー!
 みんなはすぐさま動き出し、グループを作っていく。慌ただしい雰囲気だ。そんな中、僕は微動だにせず席に座っている。誰とも組む事ができないのでじっとしているしかないのだ。
 大体グループ分けが完了した頃。

「先生!俺達3人しかいないんですけど、どうすればいいですか?」
「何を言ってるんだ。ラバルがいるだろ」
「え?あっ、なんだラバルいたんだ!存在感うすいから気づかなかった」

 オンボイって相変わらず嫌な野郎だな。そんなに僕を傷つけて楽しいか!?くそっ、もうコイツ殴った方がいいんじゃないか?言われっぱなしで終われるかよ!ロザリアも見てるんだ!
 僕は拳を握った。

「ラバル、何してるんだ?早くみんなの所に行きなさい」
「は…はい」 

 僕は握りしめた拳をといてしまった。しぶしぶオンボイ達とグループを組んだ。
 僕はそのグループの中にいても終始何もしゃべらず、しゃべりかけられる事もなく授業を終えた。本当に僕って空気のような存在だな。
 授業が終わるとすぐにトイレに駆け込んだ。便座に座り、一息つく。
 はー、お先真っ暗だ。僕の人生どうなっちゃうんだろう。やっぱり学校やめようかな…
 僕が絶望し、悩んでいると、いきなり男の人の声が聞こえた。

「やぁ、俺はロテス。君のお母さんに頼まれて君を助けに来た。といっても実際にその場にいるわけではないけど。君の脳内に直接語りかけているんだ。そういう魔法があるのは知っているだろう?まぁ大船に乗った気で俺に任せてみなさい」
「なんだかよく分かりませんが、よろしくお願いします」
「ちょっと君の体を借りるよ」
「え?困ります!それは無理ですよー」
「いいから、いいから」

 僕の体は勝手に動き始めた。トイレを出て教室に入ってしまった。そしてクラスの中心人物のベオスの前に立った。
 な、なにをするんだ?なんか嫌な予感がする…
 僕の口は勝手に動き、ベオスに話しかけた。

「なぁなぁ、実は服が透けて見える魔法を使えるようになったんだけど、お前は誰の裸が見たい?」
「え?マジかよー!じゃあロザリア!」

 ベオスは誰かに聞かれないように小声で言った。

「オッケー」

 僕も声のトーンを下げて言わされた。
 ベオスはロザリアを凝視した。

「マジだ!マジで裸が見える!お前スゲェよ、ラバル!天才だ、間違いない」

 ベオスにこんなに褒められるなんて夢のようだ。まぁ僕の力ではないんだけど、それでもやっぱり嬉しいなぁ。

「おい、お前ら!ちょっと来いよ!マジでラバルの魔法スゲェんだよ」

 ベオスはクラスメイトを集め始めた。

「いいか、お前ら。大声出すんじゃねーぞ。実はラバルが服が透けて見える魔法使えるんだよ!
「ホントかよ」
「俺マローンの裸見たい」
「俺にもその魔法かけてくれよ」
「俺も俺もー」

 嘘だろ!?僕を中心としてクラスメイトが群れをなしている。想像の世界でしか起こりえない事だと思っていたのに、ロテスさんの力を借りているとはいえ、現実の世界でこんな状況になるなんて信じられない。生きていればいい事もあるもんだなぁ。
 僕は友達ができて、とても感動している。
 クラスメイト達は女子の裸が見られてとても感動している。

「すっげぇー!天才!ラバルってマジで天才!」
「ありがとう、ラバル!この恩は一生忘れない」
「裸がまぶたに焼き付いてる」
「ラバルと同じクラスで本当に良かった」

 クラスメイト達にこんなに喜んでもらえるなんて…嬉しいな、嬉しいな。えへへへ。
 僕がうかれていると、刺すような目線でこちらを睨みつけている者がいた。オンボイだ。オンボイは歩いてきて僕の前に立った。

「ラバルさー、ちょっと用事があるから来てくれない?」
「ああ、いいよ」

 ロテスさんが勝手に僕の口を使い、承諾してしまった。すごい負のオーラが漂っているけど…………どうでもいいや、もうどうにでもなれ!
 オンボイとその仲間達はひとけのない場所に僕を連れて来た。

「なぁ、空気のくせになんでクラスの中心人物みたいな顔してんだよ、ラバル」

 やっぱりオンボイは僕をシメるために連れて来たようだな。

「なんだうらやましいのか?オンボイも仲間にいれてやろうか?」

 ロテスさんは僕の口を使ってオンボイを挑発した。

「なめるんじゃねー!!」

 ここで体が自由に動かせるようになった。まったくタイミングがいいんだか悪いんだか…
 オンボイはかかと落としをしてきた。僕は横にずれてよけると同時に右ストレートを放った。オンボイはとっさに左腕でガードすると右フックを繰り出した。僕は後ろにずれて攻撃をかわし、上段回し蹴りを打ち込もうとした。しかし、オンボイは器用によけて前蹴りを打ってきた。僕は両腕をクロスさせてガードした。
 勝負はまったくの互角だ。このままではずるずる体力を消耗するだけ。一気にケリをつけてやるぜ!

「ボラステ!」

 僕は雷魔法を使った。本当は対人で使ってはいけないと言われているのだが、非常事態なのだからしょうがない。
 オンボイに雷が直撃して、見事に失神した。
 オンボイの仲間達は怯えて逃げ出してしまった。
 なにはともあれ初めてのケンカで勝った!俺って強かったんだ!なんだか自信が湧いてきたぜ!へへへへ。

「おーい、ラバルー!ん?あれ?この光景は………まさかお前がオンボイを倒したの?」

 ベオスが驚きながら僕に言った。

「まぁね。ついやっちゃった」
「お前なー、やりすぎじゃないか?失神してるじゃん。でも俺もオンボイの事嫌いだったし、まっ、いいか」
「だろ?あははは」
「だな!ははははは」

 友達ができた。嫌な奴を退治する事もできた。僕の学校生活もやっと楽しくなりそうだよ。ありがとうロテスさん。

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