ラーメン屋の手伝いとカジノ
「はい、おまちどーさまです!」
「わぁー、おいしそー」
俺が客にラーメンを渡すと、客はがっついて食べ始めた。
今、俺はラーメン店の仕事の手伝いをしている。仕事はとても簡単で麺をゆでて、スープに入れるだけ。あとは片付けと接客だ。お客さんの喜ぶ顔を見ると俺までうれしくなるのでこの仕事は大好きだ。たまに変な客の相手もしないといけないがそんな事はめったにないので問題ない。何度かこの店の手伝いをしており、学ぶべき事は学んだと思うので、自分でラーメン店を開こうかと考えた事もあった。もともとラーメンが好きなので子供の頃はラーメン店の店主になる事が夢だった。しかし、飲食店の経営はとても大変だと聞いているので、どうしようか悩んでしまうのだ。
色々と考えながら仕事をしていると一人のおじさんが話しかけてきた。
「ここのラーメンはうまいねー、最高だよ!」
「ありがとうございます。喜んで頂けて嬉しいです」
「お兄さんは最近入ったの?」
「たまたま今日手伝いに来ただけなんですよ」
「そーなんだ。若いうちは真面目に働かないとダメだぜ。俺のような博打打ちにはなるんじゃねーぞ」
「どんなギャンブルをやってるんですか?」
「たいていはルーレットかな。これが楽しいんだ。めったに当たらねぇんだが、一回当たると大儲けできるからついつい手を出しちまうんだよ」
ルーレットか…最近やってなかったな。今日仕事が終わったら久しぶりに行ってみるか!
俺がおじさんと楽しく話していると、俺と同じぐらいの年の若者がしゃべりかけてきた。
「あのさー、このラーメンめちゃくちゃマズイんだけどー。これでお金とるとかありえないでしょ?タダにしてくれない?」
やれやれ、こういう厄介な客がたまにいるから困る。適当にあしらっておこう。
「それはできません。ちゃんと料金を払ってください」
「マジかよー!ちょっとお前も食べてごらんよ、ほら」
「僕は何度も食べています。ここのラーメンは大好きです。ケチをつけて値切ろうとしてもダメですよ」
「ちぇっ!ふざけた店だぜ」
ふざけてんのはお前だよ!もう二度と来んな!
若者はしぶしぶ金を払うと、ぶつぶつ文句を言いながら店を出て行った。
「今の兄ちゃん少しおかしいんじゃないのか?」
おじさんは呆れながら言った。
「ええ、ここのラーメンがマズイだなんて、だいぶおかしいですよ」
俺達もぶつぶつと今の若者の文句を言っていたら、店主に文句ばかり言うなと怒られてしまった。すっかりこれが仕事だって事を忘れていた。今後は気を付けないと。
さぁ、色々あったが今日の仕事は終わりだ。俺は服を着替え、店を出て、自分の事務所に戻った。
「おかえりー、仕事どうだった?」
ナレアがニコニコしながら聞いてきた。
「変な奴がいてちょっと対応に困ったけど、ビシっと注意してやったらおとなしく帰って行ったよ」
「あんまりひどい事言っちゃダメだよ」
「わかってるよ。それより今からカジノ行こうと思うんだけどナレアも行くか?」
「そうねー。たまには行こうかしら」
こうして俺達はカジノに行く事になった。俺はギャンブルが大好きなのだが、ナレアはそんなにギャンブルが好きではない。というのも、俺はたいてい大勝ちするのだが、ナレアはあまり勝てないのだ。やはり勝てなければ面白いはずもない。
ナレアは俺が運が良くて勝っていると思っているようだが、実はそうではない。ちゃんと裏があるのだ。本当はいけないのだが、毎回魔法を使ってイカサマで勝っていただけなのだ。もしイカサマがバレればボコボコにされて、二度とその店に入る事はできなくなる。しかし、そんな事はおかまいなしに何度もイカサマを繰り返している常習犯だ。一応イカサマがバレないように工作はしている。あまり勝ちすぎると目立ってしまうのでたまには負けたりもしている。ギャンブルで生計をたてないのは世間体が悪いというのもあるが、イカサマをしているとバレないためでもあるのだ。
カジノに着くと、ルーレットで賭けを始めた。
「じゃあ、俺は2番に賭けようかな」
「私は4番」
ボールがルーレットの上を回り始めた。
ここだ!俺はボールを重くする魔法をかけて、回るスピードを落とした。
ボールは2番に入った。
「やー、今日も運がいいな。さっそく勝っちゃったよ」
「すごいね!でもなんか今のボールの動き変じゃなかった?」
ナレアがイカサマに勘づいてしまったようだ。
「き、きのせいだろ!?俺には普通に見えたけど」
「うーん、そーかなー」
「そんな事より次はどれに賭ける?」
「次は1番かな」
なんとかごまかせたか。たまにはナレアにも勝たせてあげよう。
「じゃあ俺も1番」
ボールが回り始めた。また魔法を使い、1番に入れた。
「やったー、私達大当たりー」
ナレアは大喜びだ。よかった、よかった。もう2、3回勝たせてあげるか。あまり勝ちすぎてギャンブル狂になっちゃっても困るからほどほどにしておかないとな。まぁ、ナレアが賭け事にどっぷりはまるなんてありえないとは思うが。
「今度は3番に賭けようかな」
「じゃあ俺も3番」
ボールが回り始め、魔法をかけようとしたら俺がやるより早くボールが失速してしまった。ボールは1番に入った。
おかしいな…こんなに早く失速するはずがないんだが…
俺が疑問に思っていると、近くでサングラスをかけた若者が声をあげた。
「よっしゃー、きまったぜ!」
若者はかなり大金をかけており、1回の当たりで大儲けした。
次は俺とナレアは5番にかけたのだが、またしても俺が魔法をかけるより早く失速して3番に入ってしまった。3番は若者が賭けていた番号だ。
間違いない、この若者が魔法を使ってイカサマをしているんだ。魔法をイカサマの道具に使うなんてとんでもない野郎だ。
若者はサングラスをとり、俺に話しかけてきた。
「あれれ、お前はラーメン屋の店員じゃないか?」
コイツはさっき店でトラブルになった若者じゃないか!
「そうだ。そんな事よりお前イカサマを使ってるだろ?」
「なんかさっきと雰囲気違うなぁ、まぁいいや。イカサマなんて使うわけないだろ?何言ってるんだ」
「俺は誰がどんな魔法を使ってるか知る事ができるんだ」
そんな事はできないがハッタリをかましてみた。
「へー、そんな事ができるんだ。でも何の証拠もないんだろ?」
「お前には少しお仕置きが必要みたいだな。表へでろ」
「ほー、俺とやるっていうの?面白い」
俺達は外に出た。
俺はいきなり炎魔法を使ってビックリさせようとした。しかし、なぜだか魔法が使える気配がない。
「あっ、そうそう、言い忘れてたけど、俺は魔法を無効にできるから」
ちっ、面倒な奴だ。だが、俺には磨き上げた体術がある。
「行くぞ!おらっ!」
俺は回し蹴りを放った。しかし、相手は後ろにずれて攻撃をかわし、右ストレートを打ってきた。俺は左腕でガードすると、前蹴りを繰り出した。当たりそうだったが、おしくもはずれてしまい若者の足刀が飛んできた。俺はギリギリの所で横に移動して難を逃れた。隙をついて相手の腹めがけて思いっきりパンチを打った。攻撃は見事に命中し、若者は倒れるかと思ったが、俺の顔面に向かってパンチを突き出してきた。俺は少し油断していたので、相手のパンチをもろにくらってしまった。
この後も互角の戦いを繰り広げ、お互い疲れてきたころ。
「お前がこんなに強いなんて思わなかったぜ」
若者から思いがけない言葉が飛んできた。
「お前もなかなかやるじゃないか」
「俺はウスロフっていうんだ。さっきは悪口言って悪かったな。1回ラーメンを値切ってみたかったんだ」
仲直りしたいみたいだな。しょうがない受け入れてやるか。
「俺はロテスだ。気にすんな、済んだことだ」
「俺のおすすめのうまいラーメンでも食いに行くか?」
「おっ、いいね。行こうぜ」