熱い大会
今日はある大会の会場に来ており、大会が始まるまでの間、入念にウォーミングアップをしている。どんな大会かというと、全部で3種目で構成されていて、まず一つ目は腕相撲。くじ引きで選ばれた3人と戦い、何勝できるかを競う種目だ。腕力がものを言う競技であるが、運の要素も大きい。
2つ目は炎魔法を使ってどれだけ熱い炎を出せるかを競う種目だ。普通に炎の温度を測って順位をつける。
3つ目はどんどん温度が上昇していくサウナで何秒耐えられるかを競う種目だ。毎年担架で運ばれる人がでるほど過酷な競技だ。
以上3種目の合計得点が1番高い人が優勝となる。
どの種目も俺が得意としているものばかりだ。今回こそは優勝を勝ちとってやる!
「いよいよ大会が始まるね、ロテス」
「ああ、この日のために厳しい特訓に耐えてきたんだ。絶対良い結果が出せるはずだ!」
「頑張ってね!もし私が優勝しちゃっても恨まないでよ」
「冗談言うなよー。俺が優勝するに決まってるだろ」
「そんなのやってみなきゃ、わかんないじゃん」
「まぁな。せいぜい頑張りなよ」
「なんだか私燃えてきた」
ナレアとおしゃべりをしているうちに時間は過ぎ、腕相撲が始まった。
まず一人目の相手は筋肉ムキムキのガタイのいい男だ。これはもしかしたら苦戦するかもしれないと思ったが、予想に反してあっさり勝ってしまった。見掛け倒しにもほどがある。試合開始1秒で勝ってしまうなんてまるで大人と子供の戦いだ。相手は悔しそうにしていたが、もしかしてその程度の力で勝つ気でいたのだろうか?
2人目の相手は大体俺と同じぐらいの背格好の男だ。いい試合ができそうだと予感した。その予想は見事に当たり、両者一歩も譲らぬ接戦となった。
「ぬおー、うぐぐ」
「ふぬーぬぬぬ」
押しては引き、押しては引きを繰り返していた。どちらが勝ってもおかしくない。お互いに疲れてきた頃、ついに俺の腕が地につきそうになった。
ここまで頑張ったがもうダメだ…いい勝負だった。と、勝つ事をあきらめた瞬間!
「はっくしょん」
なんと相手がくしゃみをしてしまった。相手は力がぬけて、俺は一気に相手の腕を地につけた。
「よっしゃー!」
今日は運がいいぜ!だいぶ危なかったがなんとか勝つ事ができた!次の試合も勝って全勝目指すぜ!
「いよいよ最後の試合だね、ロテス」
「ああ、次も絶対勝ってやるぜ!」
俺は拳を握りしめた。
「ロテスならやれるよ!そういえば、見てたと思うけど私も2勝してるんだよ」
「ナレアもなかなかやるじゃないか!今まで苦労してきたかいがあったな」
「うん、私も全勝目指して頑張るぞ!」
少しの休憩をはさんでついに最後の試合を始めるために2人がリングに上がった。最後の相手はかわいらしい女性だ。一瞬心を奪われそうになったがすぐに正気を取り戻した。
いかん、いかんこんな事で心を乱すようでは俺もまだまだ修行が足りないな。
「お手柔らかにお願いします」
相手の女性は丁寧におじぎをした。
「いい試合ができるといいですね」
俺も軽く頭を下げた。
こんな可憐な女性の腕を傷つけたくはない。やさしく負けさせてあげよう。俺のやさしさに触れて俺に惚れちゃったりして…きひひひ。
俺は紳士的に勝つ姿をイメージした。
「それでは手を組んで下さい」
2人は手を組んだ。
温かいぬくもりが伝わってくる。なんてかわいらしい手なんだろう。すぐに壊れてしまいそうだ。そーっと、そーっと、扱わないと!
「ファイト!」
試合が始まった。俺はそーっと相手の腕を倒そうとした。しかし…
あれ?おかしいな?腕が動かない…これは一体どういうわけだ?
俺は仕方なく思いっきり力を込めた。
だが、やはり相手の腕は微動だにしなかった。
そんなバカな!俺は全力で押してるんだぞ!なんで全く動かないんだ!?
俺が混乱していると、相手は「ふっ」と不敵な笑みを浮かべて、一気に勝負を決めにきた。
ドカン!!!
俺の腕は勢いよく地にたたきつけられた。
俺は完全に負けてしまった。
相手は立ち上がると俺を見下ろし、微笑みながら言った。
「あなたかなり強いわね。強い男って好きよ。これからも頑張ってね。あっ、私の名前はヒロルよ」
負かされた相手にそんな事言われても全然嬉しくない。こんなかわいい子に負けてしまうなんて屈辱だ。俺もう立ち直れないかも…
「俺はロテス。あなたみたいな強い女性にそう言ってもらえると嬉しいです。お互い頑張りましょう」
はー、心の中では俺の事バカにしてるんだろうなぁ…
「んふ、またね」
ヒロルは素敵な笑顔をふりまいて去って行った。
「見てたよ、試合残念だったね」
ナレアが悲しそうな顔で言った。
「すんだ事は気にしないようにしてるんだ」
ちくしょー、なんで負けてしまったんだ―――!!くそっ、くそっ、くそっ。
「そーは見えないけど…まぁまだ2種目も残ってるわけだし挽回のチャンスはあるよ」
「そうだな。ナレアは試合どうだったんだ?」
「私は全勝したよ」
「え?マジで!?すげぇーじゃん!」
「まあね。当たり前の結果って感じかな」
ナレアは胸を張った。
ぺちゃくちゃしゃべってるうちに全試合が終わり、火力勝負が始まった。
数ある炎魔法のうち自信のある炎魔法を使って、みんな懸命に炎を測定器にたたきつけている。今回の参加者達はレベルが高い。俺でも知らないような魔法ばかりだ。色んな炎魔法が見られてとても勉強になる。
「おっと、これはすごい!3000度が出ましたー」
驚異的な数字を見て、皆驚いている。確かにすごいとは思うが絶対に超えられない壁というわけではなさそうだ。
「次はロテスさんです」
俺は壇上に上がり、測定器の前で構えた。
「バリス!」
俺の手の平から勢いよく炎が飛び出し、測定器にぶち当たった。
「なんと、驚きの数字が出ましたー!3200度です。ロテスさん今の所1番です」
やったぜ!圧倒的な数字だ!俺の数字を越せる人なんているわけないぜ!
「ヒロルさん壇上に上がってきてください」
ヒロルは静かに階段をのぼり、測定器の前に立った。
腕相撲では負けてしまったが、この勝負は俺の勝ちだろう。いくらなんでも3200度以上なんて出せるわけがない。
俺は安心して見ていた。
「オロヌス!」
ヒロルの手の平からとんでもない炎が飛び出てきた。まるで竜巻のような炎だ。すごすぎて測定器が燃え尽きてしまいそうな勢いだ。
い、いったい何度なんだ?
「4000度です!こんな数字見た事がありません!私興奮しすぎて鼻血が出そうです。これはもう1番間違いなしですね!」
ヒロルは一息つくと、これといった変化も見せずに静かに階段を下りていった。
このヒロルという女性はいったい何者なんだ?どうやって修行すればそんな炎が出せるというのだ!?あまりにもレベルが違いすぎる…
この後も何人かの選手達が頑張っていたが、ヒロルの数字には全く及ばなかった。結局ヒロルが堂々の1位となった。そして俺は2位だった。
「あのヒロルっていう人すごいね!腕相撲でもロテスに勝ってたし」
ナレアはヒロルの方を見ながら言った。
「ああ、こんな桁違いな人には会った事ないよ」
「ヒロルさんの弟子になったら?」
「うーん…女性の弟子になるのはちょっとなー…」
「え?もしかして男女差別?」
ナレアは目を細めて、軽蔑するような目で俺を見た。
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
「まぁいいわ。それより次がいよいよ最後の種目だね」
「気合入れて臨まないとな!」
「私サウナはちょっと自信ないなー」
しばしの休憩をはさんで、サウナ対決が始まった。
初めのうちはとても気持ちのいい温度だった。
くはー、やっぱりサウナは最高だなー。汗がジワジワ出てきて汗と一緒に俺の中のよくない気も抜けていくような感覚になる。これぐらいの温度だったらいつまででも入っていられるのになー。
俺は最初のうちは笑顔だった。しかし温度が上がっていくにつれてだんだん俺の顔から笑みが消えていった。
あつい!一体何度なんだ!?なんだかあつすぎてイライラしてきた!いや待て、イライラすると余計にあつく感じるんじゃないか?関係ないと思うが俺は一応イライラするのをやめてみた。まったく体感温度は変わらなかった。
あついと思っているのは当然俺だけではない。我慢できずに次々に脱落していく。俺ももう諦めてサウナから出た方がいいのかもしれない。しかしここまで頑張ったわけだしもうちょっと耐えてみるか。
そうだ!バレないように氷魔法を使ってしまおう!もうそれしかない!なんの魔法も使わずにこんな温度に耐えられるわけがない!
俺が耐えきれずに氷魔法を使おうとしたその時…
「氷魔法を使うのは反則です。あなた失格です。部屋から出てください」
え?まだ何もしてないぞ?なんで俺が失格なの?
スタッフが近寄り、俺の隣りの人を連れてサウナから出ていった。
なんだ、隣りの人が魔法を使ってたのか。まったく、イカサマをしてまで勝ちたいのか!けしからん奴だ!恥をしれ!
気が付けば残ってる人はもうわずかしかいない。ナレアもヒロルも出て行ってしまったようだ。
もう少しだ…もう少し耐えれば1位になれるんだ…何かアツさをしのぐいい方法はないか?なにか…
はっ!楽しい事を考えよう!そうすれば気がまぎれるはずだ!
俺は楽しい事を考え始めた。しかし、アツさは一向に変わらなかった。
もう限界だ…出るしかない…早くここから出ないと死んでしまう…死んでしまっては元も子もないんだ…残念だけどここまでだ…
俺が立ち上がろうとした瞬間!
最後の一人が飛び上がり、急いでサウナから出てしまった。
え?って事は…
俺は周りを見渡した。誰もサウナの中にはいない。
よっしゃー!俺が1位だ――!ついにやってやったぜ!
俺はすぐにサウナから出た。外はひんやりしていてとても気持ちがいい。まるで天国に来たかのようだ。1位をとれた事は嬉しいがそれ以上に外に出られて嬉しかった。
「やったじゃんロテス!1番なんてスゴイよ!」
ナレアは手を叩きながら喜んでくれた。
「死ぬかと思ったぜ」
「ちょっと体を休めた方がいいね。無理しすぎ」
「この競技は次回から外した方がいいかもしれない。そのうち死人が出るよ」
「気を失ったらすぐにスタッフが助けてくれるから大丈夫だよ」
「だといいけど」
少し休憩して、結果発表の時がきた。
「それでは3種目の合計得点の結果を発表します。見事3位をとったのは………ロテスさんで―――す!」
「おめでとーロテス」
そう言うとナレアは俺の背中をポンっとたたいた。
「ありがと。優勝できなかったのは残念だけど3位ならまぁいいか」
「2位にランクインしたのは………レマロフさんで―――す!」
え?誰?
「そして栄えある1位に輝いたのは………ヒロルさんで―――す!」
やっぱりヒロルが1位か。これだけ実力に差があると悔しいという感情もわいてこないな。俺は拍手でヒロルをたたえた。
表彰式も終わり、帰り支度をしていた時、1人の男が近寄って来た。
「お前さっきのサウナ対決の時、魔法使ってただろ?」
男は因縁をつけてきた。
「何の魔法も使ってない。負けたからって変な言いがかりをつけるなよ」
「うるせぇー!俺にはわかってんだよ、このインチキ野郎!」
男は俺の胸倉をつかみ背負い投げをしてきた。俺は地面にたたきつけられた。しかし、ちゃんと受け身をとったのでそれほどダメージはない。すぐに起き上がり、男に右ストレートをかました。しかし、男は防御してクルっと1回転すると裏拳を放ってきた。俺は軽くよけて足刀をみぞおちに叩き込んでやった。
「おごぇ」
男は苦しんでいる。
「ふん、相手が悪かったな」
俺は立ち去ろうとした。しかし、どういうわけか体が動かなくなった。
しまった…魔法をかけられたのか!
俺は必死に動こうとするが動けない。
「え?なんで私まで?」
ナレアも動けないようだ。
「はぁー…はぁー…よくもやってくれたな!お返しだ!おらっ!」
男は俺の顔面を殴った。
いてぇー!!
次に俺の腹に蹴りをいれてきた。俺は耐え切れず倒れてしまった。
すると、男は馬乗りになり、ボカスカ俺の体を殴り始めた。
だんだん意識が遠のいていく。
ああ、俺ここで死ぬんだな…太く短い人生だったな…
死を覚悟したその時!
「タリオス!」
いきなり男が吹き飛んだ。
「大丈夫か?ロテス。今魔法を解いてあげる」
ヒロルが助けてくれたのか。
「ありがとう、ヒロル。君ってホントにすごいね。いったい何者なんだい?」
「実は私はロシアスの弟子なんだ」
「え?ロシアスってあの世界最強の魔導士の?」
「そうだ」
「どうりで強いわけだ。今度鍛え方教えてくれないか?」
「いいよ。君ならもっと強くなれる」