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運動大会

「色んな魔道具が売ってるね」

 ナレアが商品を手にとって見ている。

「そうだな。この町は質の高い魔道具を作ってる事で有名なんだよ」

 俺達は今「ペリオットス」という町で買い物をしている。
 この町に来た目的は今日開かれる運動大会で魔法を使い、イカサマをして優勝させてほしいという依頼を達成する事である。イカサマなど使いたくはなかったので最初は断ったのだが、どうしても勝ちたいと言って、大金をつまれたので、しぶしぶ承諾してしまったのだ。
 依頼者の名前はトドス。パッと見た感じではそれほど太っているわけでもないし、やせすぎているわけでもない。身長も平均的なので運動ができないようには見えないのだが、本人が言うには相当の運動音痴らしい。自分で言うのだから間違いはないと思うがそんな人をいくら魔法を使うからといっても優勝させるなんて事ができるのだろうか?俺はちょっと不安だった。
 なぜイカサマを使ってでも勝ちたいのかと聞いたら、最近好意をよせていた女の子から運動ができない人は嫌いだと言ってフラれてしまったかららしい。もし、今回の運動大会でうまく事が運んだとしてもどこかでボロがでてしまうような気がするが、そこまでは責任を持てない。

「ねぇ、テレパシーで会話ができる魔道具だって!ロテスが魔法でいつもやってるやつだよね?」
「そうだよ、そんな魔道具まで売ってるのか…」
「あっ、こっちには恋が成就する魔道具が売ってるよ!私買おうかなー」
「ナレアは好きな人いるのか?」
「へへへ、ひみつ」

 お店で暇をつぶしているうちに、運動大会が始まる時間になった。俺達は会場へ入り、応援席についた。選手達が争う競技場は目の前だ。これだけ近ければ魔法は届く。距離がありすぎると使えない魔法もあるので、ちょっと心配していたが、杞憂に過ぎなかったようだ。

「皆さん、大変ながらくお待たせしました。それではこれよりペリオットス体育祭を始めたいと思いま―――す!最初の競技は100メートル走です。いくつかのグループにわかれて走って頂きます」

 トドスは1番はじめのグループだ。入念に準備運動をしている。そこだけ見ると運動ができそうな感じに見える。

「それでは位置についてー…よーい…スタート!」

 トドスは獲物を狩るハンターのような顔つきで走り始めた。その表情を見て、もしかしたら手助けなど無用なのではないか?と、思われたが、やはり勘違いでスタートしてすぐにビリになってしまった。
 俺はなんの魔法を使うか迷ったが、トドス以外の選手の足もとの地面に少し突起物を作り、転ばせる事にした。体を操る魔法は1人にしか使えないのでここでは使用を断念した。ちなみに体を操っている時は自分は動く事ができない。
 作戦は見事成功して、選手達が次々に転んでいく。なんとかトドスを1番に押し上げる事ができた。いいぞ、いいぞ、このまま一気にいってしまえ!俺はトドスの勝利を確信してガッツポーズをとったその時。

 ビタン!

 トドスまで転んでしまった。打ちどころが悪かったのか足をおさえて、なかなか起き上がれない。しばらくしてやっと立ち上がり走り始めた。が、ゴールした時にはビリだった。
 せっかく助太刀したのに、何の意味もなかったな。これは完全にトドスが悪いんだから俺の責任ではない。あとで文句を言われる事もないだろう。

「トドスさんって運が悪いのかもね」

 ナレアはため息をついた。

「せっかく助けてあげたのに台無しだよ。ホントに運動音痴なんだなぁ」

 俺はちょっと不満な表情をうかべた。

「トドスさんだって一生懸命やったんだからそんな事言わないの」
「本人には聞こえてないんだから何言ったっていいだろう?」
「そういう問題じゃないでしょ」

 少々の休憩をはさんで、次の競技である走り幅跳びが始まった。俺は選手達に重力を重くする魔法をかけて跳ぶ距離が少し短くなるようにした。バレないか心配だったが、みんな体の調子が悪いと思っているだけだったようなので安心した。次々に選手達が跳び、トドスに順番が回ってきた。   
 今度は転ばないでくれよ!
 トドスは思いっきり助走をつけて、キレイに跳んだ。
 よしっ!1番の記録だ!今度は成功した!と、喜んだのも束の間。

「トドスさん、跳ぶ時に線をふんでしまったので失格です」 
 
 そんなー…
 またしても失敗である。しかし、今回もトドスに非があるので、俺が非難される覚えはない。俺は全力でやったよ。それにしてもトドスって本当に運動と縁がないんだなぁ。

「私なんだかトドスさんがかわいそうになってきた」

 ナレアが悲しそうな表情をした。

「まぁ、仕方ないよ。自分が悪いんだから」
「そりゃあそうだけどさぁ…」
「でも確かにちょっとかわいそうだよな」
「でしょ?全部終わったら励ましてあげないと」
「そうしなよ。きっと喜ぶだろうよ」

 そうこうしているうちに最後の競技の1500メートル走が始まった。また今回も魔法を使ったとしても何らかのトラブルが起こって勝てない気がするなぁと思いながら、しばらく競技を見ていた。
 トドスは予想通り1番後ろを走っている。このままではビリは確実だ。俺はまた選手達の重力を変えて体を重くした。すると、トドスは次から次へと選手達をぬいていき、トップに躍り出た。
 どうせまたよからぬ事が起こって、ビリになっちゃうんだろうなぁと心配していたが、今度は良い意味で予想を裏切り、ずっとトップを走っている。あと残り100メートル。
 いけ―――!!!
 トドスは死にもの狂いで走りぬけた。

「ゴ―――ル!1番はトドスさんで―――す!」

 やった―――!今度こそ1番だ!
 運動大会の総合優勝はできなかったけど、1種目でも1位をとれば満足だろう。これで約束は果たした。と、思ったが司会者がなにやら良くない情報を話し始めた。

「今、審査員の方々が魔道具を使い、魔法を使ったイカサマがないか判定した所、何者かが魔法を使っていた痕跡がある事が判明しました。よって、1500メートル走の結果は白紙に戻させて頂きます」

 げっ!そんな魔道具が存在してたのかよ!よくこれまでの競技でバレずにすんだな。これでトドスはこの運動大会いいとこなしになってしまった。なんだが申し訳ない、お金返そうかなぁ。
 俺が悩んでいると、いきなりイノシシ型のモンスターの群れが現れ、町を襲った。通常のイノシシより3倍くらい大きく、牙が鋭い。もし突き刺さったりすれば致命傷だろう。

「モンスターだ―――、みんな逃げろー」
「キャ―――、誰かなんとかしてー」

 町の人達は逃げまどっている。

「いくぞ、ナレア!モンスターどもを成敗する」

 俺は気持ちを切り替え、戦闘モードに入った。

「ええ、みんなを守らなきゃ」

 ナレアは腕まくりをした。

「うまそうな人間がいるな、いただきまーす」

 1匹のモンスターが大口をあけて突進してきた。

「ボラステ!」

 俺は雷魔法を使い、雷をモンスターの頭上に落とした。

「へびぇ」

 モンスターは1撃で倒れた。

「そっちの男は結構強いな…こっちの女を狙え!」

 別のモンスターがナレアを襲おうとした。

「へロスタス!」

 ナレアは岩石魔法を使い、大きな岩をモンスターにぶつけた。
 モンスターはなすすべなく、のされてしまった。

「よし、どんどん行くぞ!ナレア」

 俺達は次から次へとモンスターを打ち倒していき、20匹ぐらい片付けた所で群れのボスと思われる輩と遭遇した。

「お前がボスか?」

 俺は怖い顔をしてそのモンスターに問いかけた。

「いかにも俺がリーダーのテメスだ。貴様らよくも仲間達をやってくれたな!許さん!」
「お前らが攻めてきたからだろうが!ボラステ!」

 俺は雷を落としたが、テメスは平気な顔をしている。

「私がやるわ!へロスタス!」

 テメスはまともに岩石魔法をくらった。しかし、全く効いていない。

「なかなか頑丈だな。仕方ない、奥の手を出すか。ボロデスタ!」

 俺は必殺技を使った。轟音と共にピカっと光ったかと思うと次の瞬間テメスは倒れていた。

「テメスがやられちまった…みんな逃げろー」

 モンスターの群れは蜘蛛の子をちらすように逃げ去って行った。

「相変わらずすごいわね、ロテス」
「まあな。でもモンスターどもは倒したけど、運動大会の方は失敗しちゃったからトドスさんに何か文句を言われそうで怖い」

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