洞窟で鉱石採取
「もう疲れたよー、ちょっと休もうよ、ロテスー」
「もう少しだから頑張れよ」
今、俺達はハリステン洞窟という場所に向かって林道をひたすら歩いている。ハリステン洞窟にあるモリケラン石という鉱石を採掘してきて欲しいという依頼を受けて遠路遥々この地へやってきた。魔道具を作るために必要らしく、結構価値の高い鉱石らしい。暗闇でも青く光るので見つけるのは簡単との事だ。もし、1つでもモリケラン石を見つければその近くに多くのモリケラン石が埋まってる事が多いと言っていた。
採掘する必要があるという事で、今回はバリニンと俺が名付けた人形を連れてきた。この人形はただの人形ではない。魔法で人のように動けるようにしてあるのだ。文句を言う事はなく、疲れる事もないので効率的に採掘を進められるだろう。
俺はバリニンにちょっかいをだすのが大好きだ。また今日もバリニンにちょっかいを出しながら進んでいると、ナレアが何かに気づいたそぶりを見せた。
「ねぇ、あそこの水たまりから湯気出てるよね?」
ナレアは30メートルぐらい先を指さした。
「ホントだ!こんな所に温泉がわいてるんだー。ちょっと入ってくか?」
「入るー!天然の温泉なんてひさしぶり!」
俺達はどちらが先に入るかじゃんけんをして決めた。なぜかこういう大事な時のじゃんけんは弱く、必ずといっていいほど負けてしまうのだ。当然今回も負けて先にナレアが入る事になった。
俺は温泉から20メートルぐらい離れた場所でナレアが出て来るのを待った。
どんな温泉なんだろー、楽しみだなー。はぁー待ち遠しいぜ、こういう時の1分ってものすごく長く感じるんだよなー。まだかなー。
俺はさわやかな風に吹かれながら、今か今かとその時を待った。
………遅い!20分で交代という約束だったのにもう30分も経っている。ナレアは時間を厳守する人間なのに一体今日はどうしたんだ!あまりにも気持ちよくて時間を忘れているのか?いや、待てよ、そういえば前に人間が溺死する1番多い場所が風呂場だという話を聞いた事がある。眠ってしまって溺れている事に気づかずに死んでしまうとか。ホントにそんな事あるのかよと疑ってしまうが、そういう事故が多発しているらしい。まさか…ナレアも死んでるなんて事ないよな?
俺は急に心配になってきた。いてもたってもいられず、ナレアの様子を見に行った。すると…
「キャア!変態!何のぞいてんのよ!」
ナレアに石を投げつけられて、頭に当たってしまった。痛い…俺は心配して来てやったんだぞ…
俺は元の場所に戻った。5分ほど待つとナレアが着替えてやってきた。
「二度と覗いたりしないでよね!」
ナレアはプンプン怒っている。
「お前がなかなか出てこないからだろ」
「何それ!覗きの言い訳?みっともないわよ!素直に罪を認めなさい」
「あのなぁ…」
これだから女は困る。俺はぶつぶつ文句を言いながら服を脱いで温泉に浸かった。
ぷはー!生き返るぜー!これだよ、これ!やっぱり温泉はこうでなくっちゃなー。
さっきまでの不快な気分が吹き飛んだ。ちょうどいい湯加減で実に気持ちがいい。長い間待たされた分、喜びもおおきかった。
俺は頭の先まで温泉に浸かったり、泳いだりしながら入浴時間を楽しんだ。
気分良く入浴していると後ろでガサゴソと音がした。振り返ってみるとナレアがいた。俺はまだ入浴中だというのに図々しく話しかけてきた。
「ねぇ、バリニンがさー…」
「何覗いてんだよ、痴漢!」
けけけ、さっきのお返しだ!
「何バカな事言ってんのよ、裸を見られたからなんだっていうの?そんな事よりバリニンが動かなくなっちゃったんだけど」
お前さっき俺になんて言った?まぁいいか。
「温泉に浸かってる時は精神を休めたいから、魔法使ってないんだよ」
「あっ、そうなんだ」
そう言うとナレアは去って行った。
この後もしばらく温泉に浸かり、充分満喫すると服を着て、再び洞窟を目指して歩き始めた。
温泉から1時間ぐらい歩き、ようやく目的地にたどり着いた。
洞窟の中は暗いため、俺は炎魔法を使って、手のひらにろうそくのように明かりをともし、ゆっくり歩いた。
結構長い洞窟だ。分かれ道が何か所もある。もし目印をつけていなければ確実に帰る時に迷ってしまうだろう。
30分ぐらい進んだ時、ナレアが何かにつまづき転んでしまった。
「いたたたー、もー何が転がってたのよー、ホント迷惑!」
ナレアがつまづいた場所に火を近づけてみた。
「キャアー!がいこつ!」
ナレアが悲鳴を上げた。
なんとナレアがつまづいたものは骸骨だったようだ。
「この形は人のものだね。遭難者か何かだろう」
俺は骸骨を持ち上げながら言った。
「よ、よくそんなもの持てるわね」
「ナレアも持ってみなよ」
「嫌よ!薄気味悪い!」
まったく失礼な事を言う娘だ。成仏してくれよ、南無阿弥陀仏。
俺は骸骨を通路の隅に置き、先に進んだ。
うねうねと道が曲がりくねっていたり、ジグザグ道になっていたり、本当に奇妙な洞窟だ。もう随分歩いたと思うがまだ目的の鉱石を発見する事はできない。こんな奥深くまで来る必要があったのだろうか?というかこんな所にそんな鉱石が存在するのだろうか?俺はふつふつとわいてくる疑念を振り払い、歩き続けた。
「はぁー、おなかへったなー、なんか食べ物持ってない?ロテス」
「さっきあげたパンが最後の食べ物だよ」
「えー、そーだったのー、なんか食べ物落ちてないかなー」
きゅるるる、きゅるるる。
何か音が聞こえる。
「ねー、何の音かな?」
ナレアは音のする方を凝視してみたが、暗くて何も見えない。
きゅるるる、きゅるるる。
だんだん音が近づいてくる。
遠くまで見えるように俺は炎の火力をあげた。すると…
「わっ!コウモリだ!コウモリの鳴き声だったのか。それにしてもでかいな」
なんと体長2メートルぐらいの巨大なコウモリのようなモンスターが現れた。牙がはえていて噛まれたら痛そうだ。
「なぁ、このモンスター食べてみようか?ナレア」
「絶対嫌!コウモリなんて食べたらおなか壊しちゃいそう」
「なんだよ、腹へってるんじゃなかったのか?」
「いくらおなかペコペコでもこんなもの食べられるわけないでしょ!」
きゅるるるー。
コウモリのようなモンスターが襲いかかってきた。
俺は素早く身をかわし、魔法を使う構えをとった。
「バリス!」
モンスターがこげないように火力をおさえて俺は炎魔法を使った。炎はモンスターめがけて飛んでいったが、相手の敏捷性が高く、かわされてしまった。
よーし、今度はもっと火力をあげて打つぞ!
「もう一度、バリス!」
さっきの倍ぐらいの大きさの炎がモンスターを包み込んだ。数秒間苦しみながら飛び回っていたが、すぐにボトっと地面に落ちた。
「さぁ、食べてみるか!」
俺はバッグからナイフとフォークを取り出した。
「えっ?ホントに食べるの?」
「当たり前だろー。食わず嫌いはよくないぞ」
「あとで下痢しても知らないよ」
俺はモンスターによく火をとおし、食べてみた。
もぐもぐ。
………うげっ!マズイ!なんだこの腐ったような味は!とてもじゃないがこんなもの食べられない。
俺はすぐに吐き出した。
「ほらー、だから言ったのにー。そんなもの食べられるわけないじゃん」
ナレアの言うとおりだったな。まぁ、普通は誰もこんなもの食べようとは思わないだろう。しかし、だからこそやってみる価値があったのだ。誰も知らないだけで、もしかしたら、ものすごいうまいかもしれないではないか。斬新な試みに失敗はつきものさ、これにこりずにまたチャレンジを続けよう。人間はチャレンジ精神を失ったらおしまいだよ。
失敗に対して全く反省しようとせずに自分の精神構造を美化すると、ナイフとフォークをしまい、鉱石の探索を続けた。
それにしても一体どこまで続いているんだ。さすがにもう嫌になってきた。もう諦めて帰ろうかな。
「あっ!あれじゃない!?青く光ってる!」
ナレアが大声を出した。
「ああ、間違いなさそうだな。あれがモリケラン石か」
通路一帯が青く光っている。1つや2つどころではない。大きな袋を持ってきたがとてもじゃないが全ては入りきらない。
俺達は近づいて、さっそくモリケラン石を手当たり次第袋に詰め始めた。せっかくバリニンを連れて来たが、そんなに深くまで掘る必要がないため、出番はなかった。
大きければ大きい程価値が高いと聞いたので、なるべくでかいやつを選んだ。袋にパンパンに詰めて、そろそろ引き上げようかという時。
「ねぇロテス、この石だけ若干色が違うよね?ちょっと濃い青だよ。なんでだろう?」
「さぁ、わからないなぁ」
俺はその石を掴み取った。すると…
ゴゴゴゴゴゴゴ。
轟音と共に洞窟全体が震え出した。
「も、もしかして触れてはいけなかったのか?」
「えっ?やだ、何?怖い…」
もしかしたら洞窟が崩れるのかと思ったが揺れはすぐにおさまった。気が付くと新しい道が出来上がっていた。
「どうやらこの石に魔法がかけられていたようだな」
俺は濃い青の石を見ながら言った。
「そんな事より早くこの道の先まで行ってみようよ!」
ナレアにせかされて、新しくできた道を進んだ。30メートルぐらい歩くと広い空洞にでた。空洞の奥の方に箱らしきものが見える。俺達は急いで箱らしきものに近づいた。
「何が入ってるのかな?早くあけてよ、ロテス」
「あわてるなよ。じゃあいくぞー。せーの!」
ギギギギギ。
箱は音を立てながらゆっくりあいた。
箱の中を見てみると小さな指輪が入っていた。
「なーんだ。どんなすごい物が入ってるのか期待してたのに指輪一つか」
「でもキレイな指輪だねー。私ちょっとつけてみようかな」
ナレアは指輪をはめてみた。
「あっ、ピッタリ!ん?なんだろうこの感じ?」
「なんだよ、ま…まさか何か呪いがかけられてたとか?」
俺は後ずさりしながらナレアに聞いた。
「そんなわけないでしょ。何も食べてないのにおなかいっぱいになっちゃったのよ。この指輪はおなかを満腹にする作用があるみたい」
「すごいじゃん!そんな指輪聞いた事ないよ。古代の魔道具かな?ちょっと俺にもつけさせてよ」
ナレアは指輪をはずした。
「あれ?指輪をはずしたら元の空腹に戻っちゃった。指輪つけてないとダメなんだ」
「へー、そーなんだ」
ナレアの指でちょうどいいなら俺の指には入らないかと思ったが、指輪をはめようとするとなんと指輪の大きさが変わりすっぽりと入った。
便利な指輪だな。
「ホントだ。腹いっぱい食べた時と同じ状態になったよ。この指輪があれば食べる必要ないんだな」
「ねぇ、この指輪どれぐらいの価値があるのかな?」
「確かに気になるなぁ…よし、鑑定士に見てもらおう」
俺達は来た道を戻り、洞窟を出た。そして近くの町まで行き、鑑定士に指輪をみてもらった。
「これはかなり歴史的価値の高いものですな。満腹機能までついているなんて…少なく見積もっても2000万ヘラスぐらいはすると思います」
大体りんご一個が100ヘラスである。
「2000万へラス!?ど、どうするロテス!売っちゃう?」
「まぁ、そんなに焦って売る必要もないだろ。色々と役立ちそうだし、とりあえず持って帰ろう」
「それもそうね」
俺は指輪をはめて店の外に出た。しばらく歩いていると後ろからついてくる男がいる事に気が付いた。なんだか少し気味が悪いが気にせず歩いた。
ひとけのない通路に入った。
ダダダダダ。
後ろからついてきていた男が走ってきた。
「おい、さっき鑑定士に見せてた指輪を俺に渡せ!さもないとひどい目にあうぞ」
「ほう、それは面白い。奪ってみたらどうだ?」
「クソがっ!」
男はいきなり右のジャブを繰り出した。俺は左腕でガードして、ローキックをくらわせようとしたが、男は素早く後ろに下がり攻撃をかわした。
なるほど、少しはやるようだな。
男は右ストレートを打ってきたが、俺はサッと横にずれてよけると、今度は上段回し蹴りを放った。男は腕でガードしたが、俺の力が強かったからか腕を痛そうにしている。
もらった!!!
男の隙をついて腹に足刀を叩き込んだ。
「うげご」
男は腹をおさえて転げ回っている。
「いい運動になったな。さぁ行こうか」
俺は立ち去ろうとした。
「ま、まちやがれ…」
男はよろよろしながら立ちあがった。
「もうやめておけ。戦える体ではないだろ」
「うっせー!ぶっ殺してやる!ハミルーン!」
男の手から渦巻く風が出てこちらに向かってきた。
「ハミルーンってのはなぁ、こうやるんだよ!」
俺は男の出した風の何倍も強力な風をおこして、男の風を飲み込み、男にぶちあてた。
ここまでよくやったがとうとう男は力尽きて失神した。
「あーあ、かわいそう。でも私達に向かって来るから悪いのよ」
ナレアは胸をはって言った。
「お前は何もしてないだろ」