弱者の味方
俺は「サンミリア」という町で探偵事務所を営んでいるロテスという名の20才の男だ。髪は黒で長身、細身で目つきが鋭いとよく言われる。大きな長い耳が特徴的だ。生まれつきこの耳だったので特になんとも思ってはいない。この大きな長い耳が後に起こる大事件の引き金になるとは今は誰も知る者はいない。幼馴染のナレアと2人で探偵事務所を経営しており、魔法を巧みに使い、様々な案件をこなしてきた。探偵といっても業務の内容は幅広く、迷子の猫さがしのような小さな案件もあれば、モンスターの討伐やお偉いさんの護衛など多岐にわたっている。
おっと、お客さんが来たようだ。
「お客様をお連れしました」
ナレアが扉を開け、お客様と共に部屋に入ってきた。ナレアはオレンジ色の髪をした、猫目の美少女でスラッとした長い足が自慢らしい。年は俺と同じ20才で、独身である。俺はナレアの事を恋愛の対象として見た事はないが、大抵の男達はナレアを見れば、一目ぼれしてしまうほどの美しさだ。
「はじめまして、ロテス探偵事務所の社長のロテスです。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「最近息子の様子が変なんです。自分の部屋でいきなりギャーギャーわめき始めたり、食事を全然食べなかったり、私が何か聞いても何も返答しなかったりするんです。以前はこんな事なかったのに…」
お客さんは悲しそうな表情で静かに語った。
「息子さんはいくつですか?」
「15才です」
「その年頃は色々と心の変化がある時ですから、それほど気にしなくてもいいのでは?」
「でも、明らかにおかしいんです。何があったのか調べてもらえませんか?」
「わかりました。息子さんの写真はありますか?」
「はい、あります。名前はレオトと言います」
お客さんは息子の写真を差し出した。
なるほど、背が低くて、眼鏡をかけてて、ぽっちゃり体型か…この情報だけで何があったのか大体の想像はつく。
「わかりました。すぐにとりかかります。何かわかりましたらテレパシーで伝えます」
テレパシーとは頭の中で考えただけで相手と話ができる魔法である。
「よろしくお願いします」
お客さんは深く頭を下げ、部屋を出て行った。
「今回の案件はすぐに片づけられそうだね?」
ナレアが笑顔で言った。お客さんの前では敬語で話しているが、お客さんが帰るとタメ語になる。同い年なので当然ではあるが、事務所の中では本来ずっと敬語で話すべきなのかもしれない。
「どうだかなぁ。まぁとりあえずやってみるか」
俺は魔法でレオトの昨日の記憶を探った。顔がわかれば誰の記憶でも見る事ができるのだ。
いつもこの魔法を使ってる俺が言うのもなんだが、この魔法の使用に関して法律できちんと制限した方がいいと思う。絶対に悪用する不届き者が現れるに決まっている。世の中、善人だけで構成されているわけではないのだから。とはいっても、この魔法を自由に使えなくなると俺はとても困るのだが…
レオトの昨日の様子が見えてきた。
「レオト、お前はサンドバッグなんだからじっとしてろよ!おらっ」
1人の少年がレオトの腹を殴った。
「い、いたい…も、もうやめてよ…アラン君」
レオトは半べそをかきながら、小さな声で言った。
「サンドバッグが口きいてんじゃねーよ!」
アランが今度はレオトの顔を殴った。
「い、いへ―――」
「お前達も順番に殴っていいぞ」
アランの手下どもが次々にレオトを殴りつけた。レオトは泣きながら必死に耐えていた。
これ以前の記憶をたどってみても同じような事が繰り返されていた。
やはりイジメが原因だったみたいだな。それにしてもこんな生活よく耐えられるな。なんで誰かに相談しないのだろう?相談しても無駄だと思っているのか?いや、レオトも男だから誰かにイジメられてるなんて言いたくない気持ちもわからないでもない。しかし、じっと耐えているだけでは一向に事態は好転しない。何かを変えなければ状況は悪化していくだけだ。このまま放っておくと自殺したっておかしくはない。
レオト、今助けてあげるからね。
俺は魔法でレオトが今見ている映像を俺の頭の中に映し出した。
どうやらまたアラン達にイジメられてるようだ。すぐ近くなので俺は急いで現場へかけつけた。
だが待てよ…俺がアラン達を退治するのは簡単だが、それで問題が解決するのだろうか?明日からもっとひどくイジメられたりしないだろうか?やはりレオトが自分の力でアラン達を撃退した方が効果的か…
俺は魔法でレオトの体の自由を一時的に奪う事にした。
「おらっ!もっと泣けよレオト!」
アランはレオトを蹴ろうとした。しかし、俺が操っているのでレオトはアランの蹴りを軽くかわした。
「お前は限界を超えてしまった。少々痛い目にあってもらうぞ」
俺はレオトの声を操り、アランを脅した。
「レオトのくせに生意気言うなー!」
アランは右ストレートを繰り出した。レオトはさっと左に移動して攻撃をよけると同時に右のジャブを放った。アランはなんとか左腕でガードした。レオトは前蹴りを打ち込もうとしたが、ギリギリの所でかわされてしまった。しかし、レオトの猛攻は止まらない。パンチや蹴りを次々に繰り出した。アランもかなりの運動神経の持ち主のようで、なかなか勝負がつかなかった。だが、アランの回し蹴りをかわした時、ついにアランは体のバランスを崩した。
ここだ!
レオトは渾身の力で右ストレートをアランの顔面にたたきつけた。
「げほっ」
よろめいたアランの腹にとどめの足刀を打ち込んだ。
「い、いぎ―――、ひ、ひげぇ…」
アランは腹を押さえながら転げ回っている。
レオトはアランの髪をつかみ頭をもちあげると、低い声ですごみをきかせながら言った。
「もし今度俺にちょっかいを出してみろ、こんなもんじゃ済まさないからな」
「は、はひ。す、すひませんでした」
アランがそう言うとそばで見ていたアランの手下達は一目散に逃げて行った。
これで一件落着かな。俺が役目を終えて帰ろうとした時!
突然レオトの体が燃え始めた。
「よくもうちの子を痛めつけてくれたね」
どうやらアランの親が出てきたようだ。炎魔法の使い手か。
俺はすぐに水魔法を使って、火を消した。アランの親までレオトに戦わせる必要はないと判断して、俺自身が戦いの場に身を投じた。
「誰だか知らないが邪魔するなら容赦しないよ」
アランの親は顔を紅潮させて怒りながら言った。
子供のけんかに親が出て来るなよなー。
あっ、俺も子供のけんかの加勢してるんだった…
「バリス!」
アランの親は炎魔法を使った。炎がまっすぐ俺めがけて飛んできた。
俺はまた水魔法を使い、防御してやった。
「今度はこちらからいかせてもらうよ。ダバシャ!」
俺は無数の弾丸のような水滴を相手に浴びせた。
「へぐぉ」
アランの親は奇声を発し、その場に倒れた。
「いい大人がむきになってみっともないですよ」
倒れてるアランの親に諭すように言った。
「お、おまえだって…ひ、ひとのこと言えないだろうが…」
まぁ、それもそうか。
「誰だか知りませんがありがとうございました。本当に感謝しています」
レオトは頭を下げて言った。
「いいの、いいの、気にしないで」
俺は明るく振る舞った。やはり人から感謝されるというのはいいものだな。
俺はテレパシーでレオトの親に問題は解決したからもう心配はいらないと伝え、事務所に帰った。
「どうだった?うまくいった?」
ナレアがニコニコしながら聞いてきた。
「ああ、完璧にこなしてきたよ。これでもう安心だ」