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 そして『シャイ≠ロイヒテン様』の図式が覆ってしまう出来事が早々に起こってしまった。
「こんにちは」
 冬も深まったある日。サシャはカフェ・シュワルツェのドアを叩いた。
 買い物に来たのだ。シュワルツェは茶葉も扱っている。
 もうすぐクリスマスなのだ。クリスマスくらいは良いお茶を淹れて、友達とお茶会でもしようと思っている。その茶葉を見繕いにきたというわけ。
「はーいいらっしゃ……サシャちゃん」
 くるっと振り向いたシャイは、サシャを見て、ぱっと顔を輝かせてくれた。
 あれから本当になにも変わらなかった。シャイは時折バー・ヴァルファーへおつかいや飲みにやってきてくれるし、サシャも二度ほどシュワルツェへお茶を飲みに来た。そのときは友達と一緒だったけれど。
 仲のいい友達、ロイヒテン様の話をしたビスクとストル。彼女たちもシャイのことを知っているので、店を訪ねたときには「こんにちは」「お久しぶりだね」くらいはやりとりをしていた。
 そのとき少し心配になった。シャイが「あのとき本で見たロイヒテン様と似ているね」なんて思われてしまったらどうしよう、と。
 しかしストルが「いつもサシャがお世話になってます!」と言い、ビスクが「お母さんか!」なんてツッコミを入れて、あはは、という笑いが溢れる程度で終わってしまった。二人にとってはそれほど良く知らない男のひとだ。黒髪に琥珀の瞳なんてこの国ではありふれているカラーリングであるし、気付かなくても当たり前だ。
 ほっとしてサシャはそのとき、安心してお茶を飲んで話に興じることができた。なので、シャイから聞いてしまった話も「それとて彼の一部」くらいに思うようになっていたのだけど。
「今日はおつかい?」
 サシャが一人であるのを見てとってだろう、シャイはそう言った。
 確かにヴァルファーからのおつかいでカフェに来ることも、たまにはある。シャイがヴァルファーにおつかいにくるのと同じだ。
 ヴァルファーはバーではあるが、もちろんソフトドリンクも提供している。そのひとつにアイスティーやホットティーがあるので、たまにではあるが茶葉も必要になるのだ。なので二、三ヵ月に一回程度ではあるが、ヴァルファーからのおつかいでシュワルツェにくることもあるのである。
「ううん、私個人的なお買い物よ」
「そうか。紅茶かな」
 売っている茶葉の並んでいく棚へ行くと、シャイもやってきてくれた。一緒に見てくれるらしい。
 ちょうどお店は空いていて、お客さんたちもおしゃべりに興じていたり、もしくは静かに本などを読んだりしていて、すぐにウェイターを呼びそうな雰囲気ではなかった。シャイはお客さんが呼びたそうな雰囲気を出せばすぐにそれを察せるので、それまで見てもらってもいいかな。なんて思ってサシャは紅茶選びに付き合ってもらうことにする。

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