②
「うん。おすすめはある?」
紅茶であれば大概のものが好きなのだけど、旬のものがやはりいいだろう。
「そうだねぇ、この間のストロベリーティーもいいけど……ミルクティーにすると美味しいのは今度新しく入ったこれかな。ロイヤルミルクティーにすると、すごく濃厚で美味しいんだよ」
ロイヤルミルクティー。ミルクで茶葉を煮出して作る、濃くて美味しいミルクティー。冬にはぴったりの飲み物だ。
シャイが次に取ったのは、なんだか不思議な缶だった。
緑の筒状の缶。側面には紙が巻かれて、柄の入った紙を切って散らしたような模様が入っている。見慣れないものだけど、とても綺麗だった。
「あと、新しいのといえばこれね。海の向こう……」
言いかけて、シャイはちょっと言葉を切った。サシャがどきっとしたのがわかったからだろう。でもすぐに続けた。
「ああ、もっともっと遠くだよ。地球の半分もしそうなくらいの遠い国のお茶なんだけど。リョクチャっていうやつも入ったんだ。このへんじゃ珍しいよ。今、並んでるぶんしかないんだ」
「へぇ……緑のお茶なのね」
サンプルが他の紅茶と同じような小さな缶に入っていたけれど、それは深緑をしていた。紅茶とはまったく違う。
「ああ。味見をしたけどちょっと渋めだな。サシャちゃんにはもっと甘いのがいいと思うな」
くすくすと笑いながらからかわれるので、サシャは、ちょっとむっとしてしまう。
「もー! 子どもじゃないのよ!」
「あはは、ごめんごめん」
一通り笑って、サシャが「じゃあ、やっぱり新しいこれにするわ」とロイヤルミルクティー向き紅茶を選んだあと。
会計の前に、シャイが言った。
「『海の向こう』って言えばさ」
もう一度どきりとした。どうしても意識してしまう、その単語。
「またヒミツの話をしない?」
三度目だった。どきりとさせられるのは。
そして今までの比ではなかった。こんなお誘いをされれば当たり前であるが。
「え、……私はいいけど」
でも断る理由もない。サシャはちょっとだけ言い淀んだものの、受け入れる。シャイは何故かほっとしたような顔をした。
「そう。じゃ、……明日はどう? サシャちゃんお仕事あるかな」
「あるけど歌わない日よ。だからお夕飯くらいはお付き合いできるわ」
「そっか。じゃ、前と同じようにしようか」
それで予定の取り付けは済んでしまって、サシャは茶葉を購入して、紙袋に入れてもらった。
「じゃ、またね~」
帰るときにはシャイがひらひらと手を振ってくれて、サシャもにこっと笑って「またね」と店を出た。紅茶の入った袋を抱えて家路につきながらどうしても考えてしまう。
ヒミツの話、ってなんだろう。
前回と同じ言い方をするに、『ロイヒテン様』関係の話かもしれない。それならちょっと緊張してしまう、と思う。嫌ではないけれどどうしてもかまえてしまうだろう。