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体育祭

 俺達は今、草以外何もない広大な大草原の中にいる。起伏もないのでとても歩きやすい。これまで通ってきた獣道や砂地や岩場と比べると雲泥の差だ。スタスタ何の障害もなく歩ける事がこんなにも喜ばしい事だとは思わなかった。それにしてもいい景色だ!遮るものが何もないので地平線まで見える。感動的な風景だ。だが、一体どこまで続いているのだろうか?歩いても歩いても終わりが見えない。歩き疲れてきた頃、前方の空間に歪んでいる場所がある事に気が付いた。

「俺の目がおかしくなったのかなぁ?なんか空間が歪んで見える」

 俺は目を大きく見開いた。

「私も歪んで見える。一体なんだろう?」

 俺達はその歪んだ空間に近づくと、その空間はパァっと光を放ち、その光に包まれたかと思うと俺達はワープさせられてしまった。気が付くと50平方メートルぐらいのとても小さな島にいた。島の周りは海で囲まれている。

「これ海だよね!?私初めて見るー」

 サラは海の水をバシャバシャさせながら楽しんでいる。

「俺も初めて海に来たよ。ちょっと海水を飲んでみよう」

 俺は海水を手ですくって飲んでみた。

「うげっ!しょっぱい、本当に海水って塩水だったんだなぁ」
「でも感動してる場合じゃないよね?ここからどうやって抜け出そうか?」

 サラは急に真剣な顔つきになり言った。

「どうしようもないな…まさか泳いでいくわけにもいかないし…」

 俺達が途方に暮れていると、遠くの空に大型の鳥のモンスターが見えた。

「あのモンスターでも狩って今日の食事にしようか?」

 俺は提案してみた。

「そうね、じゃあ頼んだわよ、アロル」

 俺が構えて魔法を出そうとした時、モンスターの背中に人が見えた。

「おーい、アロル、サラ」

 なんとモンスターの背中に乗っていたのはサリアだった。
 モンスターは島に降り立った。

「久しぶりだなサリア!弟さんはどうしたんだ?」

 俺は笑顔で尋ねた。

「弟はちょっとわけあっておいてきた。それよりこんな所で何やってるんだ?」
「実はこの島にワープさせられちゃってここから出られなくて困ってたの…」

 サラは悲しそうな表情を浮かべながら言った。

「なんだ、だったらこのウサゴに乗っていきなよ!3人だったらなんとか運べるはずだから」

 サリアは鳥のモンスターを指さして言った。

「ありがとう、助かるよ」

 俺達はウサゴに乗り、島を飛び立った。自分で空を飛んだ時もとても気持ちが良かったがモンスターに乗って空を飛ぶというのもなかなかいいものだ。それにしても3人も乗せているというのにすごいスピードだ。あっという間に海を抜けてしまった。本当はもうちょっと海で遊んでいたかったが、またの機会という事で。
 しばらく飛んでいると、「ヒルデノス」という町に着いた。とても活気があっていい町だ。町民は皆いきいきとしている。
 この町ではちょうど今日体育祭が開かれるらしく準備をしていた。

「なぁ俺達も体育祭参加してみようか?」

 俺は両腕を回しながら言った。

「そうだな、自分の力を試してみたい」

 サリアが俺の意見に賛成してくれた。

「私もー!」

 サラも同意見のようだ。
 俺達はさっそく受付に行き、必要な書類にサインをして、準備運動をしながら始まるのを待った。次々に参加者が集まってきた。ザっと100人ぐらいはいるだろうか?ひととおり参加者が集まると遂に体育祭が始まった。
 まずは100メートル走だ。俺は短距離走は得意だからこの競技には自信があった。

「いちについてー、よーいスタート!」

 俺は全力で駆け抜けた。思いっきり走っているとまるで風になったような気分になる。
 俺はチラッと周りを見た。一緒に走っている人達は皆、俺の後ろにいる。
 よし、一番だ!このままゴールまでつっきるぜ!
 ゴールまであと数メートル。やっぱり俺は最速だ!俺にかなう者などいないのだ!と、うぬぼれた瞬間、なんとつまずいて転倒してしまった。なんて事だ!せっかく1番だったのに…
 見ている人達は俺を見て笑っている。そんなに転び方が面白かったのだろうか?俺はすぐに起き上がり残り数メートルを走り終えた。
 次の組も走り終わり、参加者全員が走り終えたようだ。さっそくランキングが発表された。俺の順位は100人中100番だった。予想通りビリだ。
 くそー、転んでさえいなかったら俺が100人中1番だったかもしれないのに…

「どんまいアロル!次があるさ」

 サリアが優しく声をかけてくれた。しかし同情されるなんて屈辱だ。

「アロルの転び方面白かったよ、くくく」

 サラがからかってきた。1発殴ってやろうか…
 そうこうしているうちに次の種目である走り幅跳びが始まった。
 よーし、この種目で名誉挽回させてやるぜ!おらー!
 俺は思いっきり跳んだ。自分でもかなりの手ごたえを感じた。今度こそ1番なんじゃないか?

「フライングです。アロルさん失格」
「えー、そりゃないよー」

 俺はがっくり肩を落とした。

「あははは、アロル面白い!」

 サラがケタケタと笑っている。

「うるせぇー、ぶっとばすぞサラ!」
「フライングじゃなかったらきっと1番だったね」

 サリアがフォローしてくれた。ありがとうサリア。
 全員跳び終わり、結果が出た。当然俺はビリだった。
 少しの休憩をはさんで、とうとう最後の競技である1500メートル走が始まった。
 今度という今度は絶対1番とってやるぜ!
 俺は走り出した。快調に足を運んでいく。始まってすぐになんと俺は1番に躍り出た。いい調子だ、このままぶっちぎってやる!どんどん2番との差を広げていき、今度こそは1番がとれるかと思われた。しかし、長距離を走る訓練はあまりしていなかったためすぐに息がきれはじめた。
 はじめは調子が良かったがどんどん抜かれていき、今の順位は20位である。俺はなんとか順位を上げようとペースをアップさせようとするが、体がいうことをきかない。苦しくて死にそうになりながらなんとかゴールした時には30位だった。
 結果はあまりよくなかったが、今後の課題を見つける事ができたと思えば参加して損はなかったか。

「それでは3種目の合計得点の1位から3位までのランキングを発表したいと思います。まず1位を勝ち取ったのは…ベルニーニョさんでーす!」

 100メートル走で俺と同じグループだった奴だ。俺が転ぶまで2位だったくせにー。

「続いて2位は…サルケチーノさんでーす!」

 見た目はそんなに運動できそうじゃないのになぁ…

「そして3位は…サリアさんでーす!」
「やったー、私ってやっぱり運動神経いいほうだったんだ」

 サリアは喜んでいるようだった。

「おめでとう、サリア」

 サラが手を叩きながら祝福した。

「よかったな、サリア。お前ならやれると思ってたよ」

 俺は悔しさを押し殺しながらサリアを称えた。
 体育祭が終わり、みんなでわいわい楽しんでいると突如体長3メートルぐらいの狼型のモンスターの群れが町を襲った。

「人間どもを食いつくせー」
「一人残らず食ってやるぜ」

 人々は恐れおののき、逃げ出し始めた。

「キャー、モンスターに食べられるー」
「誰かー、なんとかしてー」

 せっかく楽しんでいたのに台無しにしやがって、許さんモンスターども。

「サラ、サリア、モンスターどもを成敗するぞ」

 俺は腕をまくった。
 1匹のモンスターが俺の方を見ている。

「お前うまそうだな、いただきまーす」

 モンスターが大口をあけて襲いかかってきた。

「メサオ!」

 炎が一直線に向かっていき、モンスターは一気に火だるまになった。

「その男は結構強いな…じゃあこっちの女どもだ!」

 別のモンスターがサラとサリアを襲おうとした。

「ガトリングシャワー!」
「ブリラスター!」

 サラとサリアの同時攻撃をくらい、モンスターは一瞬でのされてしまった。

「なんだか張り合いがないわね」

 サリアは物足りなさそうだ。

「よし、どんどんいくぞ!」

 俺達は次から次へとモンスターを退治していった。それにしてもよくこれだけ多くのモンスター達を統率できたものだ。俺は少し感心しながら、攻撃を続けた。
 俺とサラとサリアだけで30体ぐらいのモンスターを倒し、俺達にも少々疲れのいろが見えてきた頃、遂に群れのリーダー風の奴を発見した。

「お前がこの群れのリーダーか?」

 俺はモンスターに尋ねた。

「ほう、よくわかったな。俺がリーダーのパナオだ。お前達かなり強いようだが、その程度では俺の体を傷つける事はできんぞ」

 パナオは自信満々だ。

「それじゃあ、さっそく試してみようかな、メサオ!」

 炎はまっすぐパナオに向かっていき、パナオの体を覆った。しかし、炎はすぐに消えてしまった。パナオの体は全くの無傷だ。

「私がやってみる、ガトリングシャワー!」

 サラの攻撃は確かに当たったが、やはりパナオは無傷だ。

「私が仕留めるよ、ブリラスター!」

 サリアの雷攻撃も見事に命中したが、パナオは平気な顔をしている。

「しょうがない、俺のマフトーバできめよう」
「私のダイバクフで倒すわ」
「私が必殺技でやっつけるよ」

 3人共自分の技で仕留めたいようである。

「じゃあじゃんけんで決めよう」
「いいよ」
「いいわよ」

 なんとこんな時にのんきにじゃんけんをするつもりのようだ。

「じゃーんけーんぽん」

 俺とサラがグーで、サリアがパーだった。

「やったー、私の勝ち!」

 サリアがじゃんけんに勝利した。

「ちぇっ」
「俺がきめたかった」

 俺とサラは愚痴をこぼした。

「それじゃあ、いくよ、ラスピーノ!」

 ピカっと光ったかと思うと次の瞬間、パナオは倒れていた。一体何が起こったというのだ!?光っただけでどうなったのかまるでわからなかった。こんな恐ろしい技を使われたら俺でもひとたまりもない。サリアには本気で戦っても勝てないかもしれない…

「ひぃえー、パナオがやられちまったー、逃げろー」

 残りのモンスター達は逃げ出していった。

「すごいねー、サリア。私より強いかもー」

 サラも俺と同じ感想のようだ。

「どうだろうねー。さて、モンスターどもも片付けたし、私もそろそろ行こうかな」
「えっ、もう行っちゃうの?」

 サラはあからさまに寂しそうな顔をした。

「またすぐに会えるさ、じゃあね」

 サリアはウサゴに乗り、飛び立っていった。
 サリアよ、頼むからもう二度と敵にはならないでくれよ。

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