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異世界転移

「たけし!いつまで寝てるんだい!もう学校行く時間だよ」

 おばさんの声で目が覚めた。眠い目をこすりながら、ベッドから起き上がった。辺りを見回すと俺はビックリして腰をぬかした。
 どこだ?ここは?
 全く知らない世界が目の前に広がっていた。誰の部屋なんだここは?そして窓の外から見える景色は一体なんだ?見た事もない建物が立ち並んでいる。俺はさっきまでサラと冒険していたはずだが…サラは一体どこに行ったんだろう?このおばさんは誰だ?色々と疑問はあるが、とにかくまずはここがどこかを知らなければ。

「あの、ここはどこですか?」

 あれ?俺の声じゃない。なんでこんな声が出るんだ?

「は?何言ってるんだい、日本の東京でしょ!寝ぼけてるんじゃないよ」

 二ホン?トウキョウ?聞いた事がない地名だ…なんでそんな所にいるんだろう?そしてこのおばさんは一体どこのどなたなのだろう?

「あの…貴方は誰ですか?」
「お前を産んだ母親でしょうが!寝ぼけるのもたいがいにしな!それとあんた寝ぐせひどいわよ、鏡で見てみな」

 このおばさんはちょっとおかしいんじゃないだろうか?俺の母親はとっくに死んでいるし、こんなおばさんとは似ても似つかない。
 このおばさん寝ぐせがどうのこうの言ってたな。こんな時に寝ぐせなんてどうでもいいが、一応確認してみるか。俺は自分の姿を鏡で見てみた。
 え?誰これ?
 鏡にうつっていたのは見た事がない男だった。
 俺だよな?なんでこんな姿になってるんだ?
 俺はわけがわからず気が狂いそうになった。一体何がどうなってるんだ!?誰か説明してくれー!!!
 はっ!もしかしてこれは夢なのだろうか?そうか!そういう事なら納得だ!
 俺は自分のほっぺをつねってみた。
 痛い!夢じゃないのか!?
 現実だとするとどうこの不思議な現象を捉えればいいのだろう?いや、待てよ、昔じいさんに異世界転移の話を聞いた事があったな。その時は信じられなかったが、これがその異世界転移というやつなのか?そうだとするとどうやって元の世界に帰ればいいんだろう?
 疑問ばかりが浮かんでくるが、考えるよりまずは行動だな。この世界の事をもう少し詳しく知らなければ!

「さぁ難しい顔してないで、ごはん食べて、高校行きな!」

 おばさんは俺の背中を押しながら言った。
 俺はごはんを食べ、服を着替えた。するといきなり女の子が部屋に入ってきた。

「遅いぞーたけし!遅刻しちゃうじゃん。さぁ行くよ」

 女の子は俺の腕を引っ張った。

「ちょ、ちょっといいかな…君は誰だい?」
「はい?あんたのクラスメイトの早苗でしょ!寝ぼけてんの?」

 俺は引きずられながら、早苗と一緒に学校に向かった。
 道を歩いていると、鉄の塊が前から走ってきた。
 なんなんだ、これは!?一体どういうメカニズムで動いてるんだ!?俺は早苗に質問した。

「早苗ちゃん、その鉄の塊はなんだい?」
「え?自動車の事?どうしたの?なんか今日のたけし変だよ」

 自動車というのか。あれはなんだろう?

「早苗ちゃん、あの青と赤と黄の物体はなんだい?」 
「信号でしょ、もーどうしちゃったのよ!記憶喪失?」

 学校までの道のりで疑問に思った事はすぐに早苗に質問した。早苗にとっては当たり前の事ばかりだったらしく、俺の頭の具合が悪いのではないかと本気で心配された。
 なんとか学校にたどり着き、教室に入るとクラスメイトが話しかけてきた。

「よっ、たけし!もうすぐ修学旅行だよなー、お前は行きたい所あるのか?」
「俺は天空都市メンディアにまた行きたいな」
「そんな所聞いた事ないけど…海外なのか?」

 ただこの男が知らないだけかもしれないが、たぶんこの世界にはメンディアなんて存在しないのだろう。

「あ、ああそうだよ。とってもいい所だよ」
「ふーん、おっとそろそろ授業始まるな!席につこうぜ」

 俺は自分の席を教えてもらい、イスに座った。この世界でも学校の机とイスは俺の世界と大体同じなんだな。なんだかちょっと安心する。
 しばらくすると先生が教室に入ってきた。

「えー、ではさっそく授業を始める!教科書の22ページを開いて」

 俺は教科書を開いた。
 なんだこりゃ!?一つも問題がわからない。なんてハイレベルな事をやってるんだコイツら!この世界の連中はみんなこんな難しい問題が解けるのか?どうやら天才だらけの世界に来てしまったようだぜ…とてもじゃないがついていけない。

「…であるからしてここの問題はこうなるわけです。さて、じゃあ次の問題は誰に解いてもらおうかなー」

 先生は問題を誰に解かせるか選んでいる。
 頼む!俺をさすなよ、先生!こんな問題できるわけない、恥をかくだけだ。
 俺は手をあわせて、先生に「俺だけはささないでね」と目でうったえた。

「おお、そんなにこの問題を解きたいのか、たけし。じゃあやってみろ!」

 ふざけんじゃねー!解けないって目で言ってんだろー、わかってくれよ先生!

「あ、あのそれが…」
「ん?どうした?さぁやってみろ、たけし」
「わかりません」
「え?嘘だろ?この問題がわからないのか?1年生でも解ける問題だぞ!お前勉強得意だったじゃないか!熱でもあるのか?」
「いや、体調は普通です」
「そうか、まぁいい。座りなさい」

 クラスメイト達はクスクスと笑っている。
 くそー、さっそく恥をかいちまったぜ。でもまぁいいか、どうせすぐに元の世界に帰るんだし!ひらきなおって俺は終始ボーっとしながら1時間目の授業を終えた。

「2時間目は体育だな!道場行こうぜ!」

 俺はクラスメイトに道場まで案内してもらった。
 俺達が道着に着替えるとすぐに先生がやってきた。

「それでは体術の授業を始める!構えて!」

 よしっ!体術なら大得意だ!やっといい所を見せられるぜ。
 俺は先生の掛け声に合わせて突きを放った。

「おお、なかなかいい突きだな、たけし。ちょっと近藤と組手やってみろ」

 こっちの世界の男がどれだけ強いか楽しみだ。
 俺は近藤と向かいあい、構えた。

「それでは、始め!」 

 近藤が右のジャブを打ってきた。俺は左手でガードして、すぐに態勢を整えて右足で回し蹴りを放った。するとキレイに相手の左のわき腹にきまった。

「一本!それまで」

 え?もう終わり?あっけないなぁ。いや、たぶんたまたまこの人が弱かっただけだろう。
 しかし次の相手と戦っても秒殺で勝ってしまい、その次もあっという間に勝利してしまった。

「すげー、たけしってこんなに強かったんだ」

 クラスメイト達がざわついている。
 この世界の男達は勉強はできても、戦いはあまり得意じゃないのかな?あまりにも弱すぎる。全然本気を出してないのに連勝してしまった。もっとはりあいのある相手はいないのだろうか?
 この後も組手を続けたが、結局一回も負ける事なく、授業を終えてしまった。なんともつまらない授業だった。
 体育の後の授業もなんとか乗り越えて、帰る時間になった。 

「たけし、ボーリング行こうぜ!」
「ボーリングってなんだ?」
「そんなギャグはいいから、さっさと行こうぜ!」

 俺はクラスメイトとボーリングをする事になってしまった。
 ボーリング場に着くと、みんな丸い玉を投げてピンを倒して遊んでいた。
 なるほど、何本ピンを倒せるかという玉遊びか!面白そうだな!
 俺はどの玉がちょうどいいか持ち上げてチェックした。この玉なんてよさそうだな!俺は玉を運ぼうとした。しかし、うっかり手がすべって玉を足の上に落としてしまった。

「いってぇー」

 おもわず大声を出した。

「ははは、大丈夫か?たけし」

 クラスメイトは笑っている。
 俺は慎重にボールを運ぶと、自分のレーンまで行って構えた。

「それ!」

 俺はボールを勢いよく転がした。ボールはまっすぐ転がり、ピンに当たった。なんと驚いた事にすべてのピンが倒れた。

「ストライク!すごいじゃん、たけし」

 クラスメイトは拍手してくれた。

「まぁな、結構面白いな、ボーリングって」
「来てよかっただろ?さぁ俺も負けないように頑張らないと」

 俺達は何時間もボールを転がし続けた。何度かガーターを出してしまったが、スペアとストライクもちょこちょこきめていたので、初心者とは思えないスコアをたたき出してやった。こんな面白い遊びがあるならこの世界での暮らしも悪くないかもなんて思ったりもした。
 指が痛くなってきた頃、クラスメイトが用事があるからと言ってボーリングはお開きとなった。

「じゃあな、たけし!また明日学校で会おうぜ」
「ああ、またな」

 クラスメイトと別れ、俺はたけしの家に向かった。
 ひとけのない道を歩いていると、女の子が3人の男共にからまれている現場に遭遇した。

「はなして!」
「いいじゃねぇかよ、ねえちゃん」

 近づいてよく見ると、その女の子は早苗だった。
 色々教えてもらった事だし、助けてやるか!

「おいお前、その子をはなせ」

 俺は早苗にからんでいる男の腕をつかんだ。

「なんだてめぇはー、俺達の邪魔すんじゃねーよ!」

 男は殴りかかってきた。俺はさっと身をかわし、ローキックで反撃した。

「いてぇー!こ、こいつ…ふざけやがって…ぶっ殺してやる!」

 男はナイフを取り出して、振り回してきた。俺は全ての攻撃をかわし、みぞおちに足刀をたたきこんだ。

「おぎぇー!」

 男は倒れ、痛そうに腹を押さえている。

「今度は俺が相手だ」

 傍で見ていたガタイのいい男が攻撃してきた。この男の攻撃はけっこう速い。ギリギリでよけて、回し蹴りをくりだした。しかし、ガードされてしまった。予想外の動きだ。ガタイのいい男は右ストレートを打ってきた。俺は左手でガードすると、アッパーをおみまいした。しっかりと顎をとらえ、ガタイのいい男はダウンした。

「お前もやるか?」

 俺は残った一人の男に言った。

「ひ、ひぃえー」

 残った男は戦おうとはせず、怯えて逃げて行った。

「すごーい、たけしがこんなにケンカ強いなんて知らなかったよ」

 早苗は目をキラキラさせながら、俺を見ている。

「大丈夫だったか?何かひどい事されなかったか?」
「いきなりナンパしてきて、断ったんだけど、しつこく言い寄られて困ってただけだから大丈夫だよ」
「それなら良かった」
「何かお礼しなきゃね…そうだ!こんなのどうかな」

 早苗は俺の唇にそっとキスをした。
 すると、どういうわけかいきなり目の前が真っ白になった。そして、ぐるぐると目の前が回転し始めて、パッと真っ暗になった。少しして誰かの呼び声が聞こえてきた。

「…ロル、アロル!しっかりして!」

 サラの声だ!俺は目を開けた。

「サラ…ここは…」
「良かった!死んじゃうかと思ったよ!今そこで倒れてる男に触れられて異世界に魂だけ飛ばされてたんだよ。叩きのめして気絶させたら魔法がとけたみたい」

 そういう事か。無事に帰ってこられて良かったが、もうちょっと異世界で暮らしてみたかったな…

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