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 それで、一応の実質『暴露』は済んで。シャイは事情をぼそぼそと話してくれた。
「王子って立場じゃあるけど、俺は国王になりたいわけじゃないんだ。大体、なれるはずもないし」
 ぐいっとワインを飲み干して、ウェイターにもう一杯頼んだ。そして来たワインを見つめて言う。
「継承権も相当下だし、そのせいで王室でもそれほど重要な立場じゃない。だから父上……ああ、ミルヒシュトラーセ国王だけど。父上も、俺が実質、国を出て放蕩してるようなもんなのをほったらかしてるんだろうさ」
 放蕩。
 違う国にきて、庶民のするような仕事をしていること。
 それは王族という立場からしたら『放蕩』になるのだろう。サシャのような、庶民も庶民からしたら立派に働いている状態なのだけど。
「でもまぁ、一応勘当とかされたわけじゃないから。たまに呼び戻されるんだよな。式典とかそういうときには」
 その説明でサシャは理解した。
『金曜日は普段ならかまわないんだけど、今週の金曜日はちょっと予定があるんだ』
『ちょっと週末にかけて用があるもんだからね。今週にしてくれるなら、木曜とかどうかな』
 シャイが自分で言った、ちょっと不思議なこと。
 接客業についている人間としては、あまり無いこと。
 週末まるまると用事がある、など。それがやっとわかった。
 『海の向こうの国』。生家であるミルヒシュトラーセ王家の外交に参加する用事だったのだろう。そのとおりのことを、シャイは言った。
「ここの隣の街だな。週末、泊りがけの外交に参加してこいなんて言いつけられてさ。妹と一緒に来たってわけ」
 そこで、やっぱり、はーっと息をついた。
「まさかサシャちゃんがきてるとはな……馬車で走るのなんてほんの数十分だったのに、なんてタイミングだよ」
 確かにその通りだ。
 サシャの住んでいる街へくるのならともかく、普段いない場所だ。おまけに馬車が走って庶民に顔を見られるなんて僅かな時間だっただろうに、そこに遭遇してしまうなど。
「あんまり知られたくなかったなぁ……サシャちゃんの前では、俺はただのカフェウェイターの『シャイ』でいたかった」
「そっ、……か。ごめんなさい」
 ぽつりと言われたことに、サシャの胸が痛む。まるで彼の秘密を暴いてしまったようで。
 それを悟ったように、シャイは慌てて言った。
「ああ、悪い。気ぃ使わせちゃったな。うん、でも。俺のことはこれからもシャイって呼んでほしいし、扱いも変えないでいてくれたら嬉しい」
 にこっと笑って、言われて。
 サシャはほっとした。つられたように笑う。
「ええ。シャイさんがそれでいいなら」
「うん。そうしてくれよ」
 空気は穏やかになっていた。
「あーっ、気分でも変えよ! 甘いもの食べようぜ。ここ、ジェラートが美味いんだ」
 気分を変えたい、と言ったそのままに明るい声を出して、シャイはメニューを取り上げた。
 ショコラにするか。ヴァニラにするかとか選びはじめる。その様子を見て、サシャはほっとしてしまった。
 変わらないのだろう。
 ここにいるひとは、馬車に居た『ロイヒテン様』ではなく『シャイ』。それだけだ。

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