66章 発掘屋
適当にぶらぶらしていると、「発掘屋」という店を発見する。アカネは興味をそそられたので、店内に足を踏み入れることにした。
店内に入ると、20歳前後の女性が椅子に座っていた。
「いらっしゃいませ」
頬が完全に削げている。目の前にいる女性は完全に栄養失調だ。
女性店員は客の顔を見た直後、瞳をウルウルさせていた。
「アカネさんにお会いできて、光栄に思います」
一般人ではなく、英雄さながらの扱いを受けている。アカネはそのことに対して、悲しさを感じることとなった。
「アカネさんが空を飛ぶところを拝見しました。感動のあまり、涙を流してしまいました」
感動するのはいいけど、涙を流すほどのことではないような気がする。
「私も一度でいいので、空を飛んでみたいです」
スキルがあるからこそ、空を飛ぶことができる。常人にはまず不可能といっていい。
アカネは店内を見回す。店の内装はいたって普通だった。何かを発掘するようには見えなかった。
「ここはどんなことをするんですか?」
「恋愛をする相手を見つけるところですね。自分にとって相性のいい異性を発掘します」
「発掘屋」は恋愛相談所のようなところなのか。それならば、「恋愛祈願店」の方がしっくりとくる。
「恋愛については1年で50人ほどの紹介となります」
予想していたよりも数は少なめだ。お金のない街なので、自力で見つける人が多いのかもしれない。
「恋愛の紹介料が高いのかもしれません。1件当たり、30000ゴールドとなっています」
現実世界では10万円以上はしていた。それを考えると、安すぎるような気がする。
「他には宝探しの場所を紹介しています」
ダンジョン以外においても、お金を稼げる場所はあるのか。一度でいいから、そちらに足を運んでみたい。
「こちらでは収入が少ないので、一獲千金を夢見る人はたくさんいます。そういう人に好評をいただいております」
一獲千金を夢見るのは、現実世界と何ら変わりない。宝くじのようなものを売り出せば、大金を得られそうだ。
「運気上昇のアイテムの販売もしています。アイテムはこちらになります」
運気上昇アイテムとして恋愛成就、金運上昇、健康祈願などが販売されている。種類としては現実世界と変わりなかった。
形は大きく異なっていた。現実世界では長方形タイプが主流なのに対し、こちらではいろいろな形となっていた。恋愛成就はハート型、金運上昇は硬貨を表す丸型となっていた。ものごとの特徴を表す形にしているようだ。
健康祈願については、✖の形となっていた。病気の原因となるものを、退治しようという意味だと思われる。
学校は存在しないため、合格祈願のお守りは見当たらなかった。勉強をしないのに、合格を祈願する必要はない。
「お守りの1番人気は金運上昇のお守りです。1日あたりで、1000個くらい売れますね」
お金に悩んでいる人が多いので、お守りでお金を呼び込もうということか。実に分かりやすい思考である。
「健康祈願のお守りが2番人気です。1日あたりで、150個くらい売れますね」
過労で倒れるものが多いので、健康を祈願している。こちらも生活と密接に結びついている。
お守りのことを考えていると、女性から思ってもみないことをいわれた。
「アカネさんをモチーフにしたお守りを作りたいです。協力していただけますか」
有名人の顔を出すことで、利益を上げようということか。こちらの世界においても、便乗商売は存在するようだ。
「生活は大変苦しく、日々の食べ物に苦労しているんです」
「セカンドライフの街」は裕福な生活をできないところなのかな。現実で苦労したのだから、あの世くらいは楽な生活をさせてあげてほしい。
20くらいの女性は深々と頭を下げる。現状を打破しようとしているのが、はっきりと伝わってきた。
「アカネさん、お願いします」
売名行為みたいで、気乗りはしなかった。アカネは断ることにした。
「お守りには協力できません。申し訳ないですけど、他をあたってくれませんか」
「願いをかなえることはできませんか?」
「無理です。他をあたってください」
最後の希望をなくしたことで、気力を失ってしまった。目の前の女性を見ていると、悪いこと
をしているわけではないのに、罪悪感を感じる。
女性をこのままにするわけにはいかないので、回復魔法をかけることにした。死人さながらだった女性の顔色は少しだけよくなった。
離せる状態になった女性に対して、アカネは笑顔を向ける。
「『セカンドライフの街』に付与金を納めてきました。どれくらいになるのかはわからないけど、住民に分配されるみたいですよ」
お金をもらえると知ったことで、女性は少しだけ明るくなった。
「どれくらいなのかはわからないけど、分配金を楽しみにしています」
100億ゴールドを分配すると、1人当たりのどれくらいの金額になるのかな。少なく見積もったとしても、10000ゴールドくらいはもらえるのではなかろうか。10000ゴールドあれば、数日くらいはやりくりできる。
「充分な分配金をもらえたら、食事代に回したいと思います。電気代、ガス代、水道代などを払うのがいっぱいいっぱいで、満足に食べられていませんでした」
アカネは満足に食べられていない女性を、食事に誘おうかなと思った。
「よかったら、どこかに食べに行かない。食事代くらいなら弾むよ」
20代の女性は即答した。一瞬の迷いも感じられないのは、彼女のお腹のすき具合を表している。
「アカネさん、ありがとうございます」
「何を食べたい?」
「肉、ラーメン、うどん、そば、パン、果物などを食べたいです」
肉が最初なのは、普段から食べていないからだと思われる。「セカンドライフの街」の住民にとって、肉はぜいたく品なのかもしれない。
「わかった。全部を食べに行こう」
「アカネさん、いいんですか?」
「いいよ。好きなだけ食べてよ」
「ありがとうございます」
女性がゆっくりと席を立った。生足を見ているわけではないのに、骨と皮だけでおおわれていることが伝わってきた。