①
その日は買い出しだった。それも隣町までだ。
休日、サシャは当たり前のように学校が休み。でも時々バーで昼間の雑務を担うことがあった。
バーも夜だけ運営しているというわけではないのだ。むしろ、仕込みは昼間がメイン。マスター以外にも厨房担当、バーテンダー担当などといろいろな担当がいるのだが、昼間は皆でそれぞれ仕込みや準備をするくらいには、バー・ヴァルファーは小さな店なのであった。
今日もそのたぐいで、隣町まで『おつかい』を命じられた。
買ってくるのは煙草だ。あまり重いものではないので、少女であり非力といえるサシャが買いに行ってもなんら困らないというわけだ。
普段、煙草くらいは店に出入りする業者から買っている。業者が店に届けてくれるのだ。
ただ、今日サシャが買いに向かっている煙草は、少し特殊な銘柄でこのあたりでは隣町の輸入店でしか扱っていない。店主が偏屈なのか、それとも余裕がないのかは知らないが、届けてくれるサービスはない。なので一ヵ月に一回程度、店のスタッフの誰かが買い出しに行くのであった。
買うのは毎回、カートンで五つ程度。まぁかさばりはするが、重くはない。この銘柄は隣町でしか売っていない、つまりバーのある街では入手しにくいわけで、たまに「カートンで売ってくれよ」もしくは「個人的に売ってくれよ」などと言われるのだが、マスターは毎回断っている。確かに煙草を売るようにすれば収益は増えるだろうが、そこまで手を出してしまうとバーが回らなくなる、とぼやいていた。
なので、この煙草は『店で吸うため』として、一度につき一人一箱しか毎回売らないことになっている。よって、カートンも五つで足りてしまうというわけ。足りなくなったら早めに買いに走ることにはなるが。
隣町までは少し距離があるので、馬車に乗った。乗り合いの安い馬車。隣町までは三十分程度。
「ありがとうございました」
ぼうっと景色を眺めているうちに隣町に到着して、サシャは運賃を御者に払って馬車を降りた。そして煙草を扱う輸入店へ向かう。しかし店主は居なかった。
「ごめんな、父ちゃん今、仕入れに行ってんだ」
店主の息子……サシャより少し年下の少年……が店番をしていた。そう説明してくれる。
「そうなの。いつ頃お戻り?」
「お茶には戻るって言ってたから、あと一時間とちょっとくらいかも」
「そうなのね」
サシャは少し悩んだが、本当に数秒だった。一時間くらいであれば、どこかで時間を潰せばいい。
煙草を買うくらいであれば目の前の、店主の息子からでいいけれども今日はマスターから、店主への手紙を預かっていた。これを渡さなければいけないのだ。一緒に取引書類が入っているから、店主に直接渡す必要がある。何度も顔を合わせているので少年を信用していないわけではないが、万が一ということもある。
「じゃ、一時間後くらいにまたくるわね」
サシャはそう言い、少年は頷いた。
「わかった。父ちゃんが帰ったら、店に居るように言っとくよ」
「ありがとう」
そんなわけで、サシャは用事が終わらないまま店を出た。