③
「俺は今日、遅番だから送ってってやれないしなぁ」
そのあと言われたことには嬉しくなってしまった。
送っていく、なんて。
実際にしてもらったことはないのだけど、そう言ってもらえるだけで嬉しいではないか。それに自分の家はお世辞にも立派な構えではないので、見られるのは少し恥ずかしいから、言ってもらえるだけでいいのだ。
シャイは「またサボってあがっちまおうかな」なんていうのでサシャは「あんまりサボると干されちゃうわよ」なんて混ぜ返す。「だよなぁ」とシャイもおかしそうに笑うのだった。
「もうすぐクリスマスかぁ」
話題を変えて、シャイはもう一度窓の外に視線を遣った。確かに、樹々にいくつかの赤や緑、金色などのボールがついている。まだ飾りつけ途中なのだろう。その量は多くなかったけれど。
「今日のサシャちゃんの服も、クリスマスみたいだねぇ」
シャイに言われて初めて気づいた。
緑のワンピース。
赤いパンプス。
緑と赤を基調としているクリスマスの色だ。まるで先取りしたようでおかしくなってしまった。
「かわいいよ」
「ありがとう」
ほわっと胸があたたかくなった。無意識にクリスマスカラーの服を選んでいた少しのおかしさよりも、彼が自分の服装をきちんと見てくれていたことのほうが嬉しい。
「でもクリスマス、ちょっと面倒なんだよなぁ」
珍しくシャイがぼやいたので、サシャはクッキーをかじっていた手がとまってしまった。彼がこのような物言いをするのは珍しい。
「そうなの?」
不思議そうに訊いたけれど、シャイは端的な理由を言った。
「うーん、オヤがパーティーするのが好きだもんでね」
パーティーのなにが憂鬱だというのか。楽しそうではないか。
きっとシャイの家は、家族円満なのだろう。パーティーをやるなんてくらいには。そのくらいに思ってサシャは笑っておいた。
「うちはパーティーなんて縁がないから、羨ましいわ」
「サシャちゃんがきてくれるなら楽しいだろうけどね」
言われることにはまた嬉しくなってしまう。
「パーティーなんて行ったことないから、うまく振舞えるわけないもの」
「うまくやる必要なんかないさ。料理食ってればいいんだから。一応、美味いもんが出るんだぜ」
それでその話はおしまいになってしまった。そこから発展した、バーのクリスマスの話へ行ってしまう。
でもそのクリスマスの話はサシャの胸を少し躍らせてしまった。
クリスマス。恋人同士の日。
隣にいる、ほんのり恋をしているシャイと過ごせたらどんなに愉しいだろうか、と思ってしまったせいで。
でも彼は、その親の開催するパーティーとやらに出るのだ。それは叶わないだろう。自分だってバーでクリスマス向けの歌を歌う日であるのだし。だからまた、こうして二人で会えるだけでじゅうぶんじゃない。
思ってサシャはストロベリーティーを飲み干して、「もう一杯どうぞ」と勧めてくれたシャイに「ありがとう」とにこっと微笑むのだった。