現世の罪2
コレは夢の中なのだろうか。
もしくは死んでしまったんだろうか。
ーー夢の中である事を、心の中で何度もお願いしていると、真っ白な髭を生やしたお爺さんが上から降りてきて私の前に現れた。
…………良かった。これは夢の中だ。夢の中じゃなきゃこんな神様みたいな人は目の前に現れたりしない。
ホッと一息ついてると、
『そなたは今意識不明の重体だ。意識の中を彷徨っとる』
ーーと、静かに喋り出した。
私が意識不明の重体?
『車とぶつかった事は覚えておるか?』
「いいえ………オーディション会場に向かっていた事しか……私、交通事故に遭ったんですか?」
『うむ』
「あなたは私を生き返らせてくれるんですか?」
『……可能じゃが、そなたにどちらか選んでもらおう。わしはそなたの先祖じゃ』
………………………ご先祖様。
『先祖じゃから何でも知っとる。そなたの現世での終わりも、どうなっておるのかも』
………………………現世での終わり。
「現世で私はどうなるんですか? 小さい頃から夢だった歌手は……なれていますか?」
『夢には届かん。そなたは一生涯、フリーターじゃ』
………そんな。一生涯フリーターだなんて………
「変えられないんですか? だってまだ私オーディション受けてない……」
ご先祖様は私の『変えられないんですか?』の質問に答えてはくれず、ゆっくり口を開いた。
『それともう一つは異世界へ行く事じゃ。異世界でそなたは現世の行いを償い悪役令嬢となるのじゃ』
…………は?? 悪役令嬢? 異世界? って、何?
それと現世の行いを償うって何? 私普通に生きてるよ。何も悪い事なんてしてないよ……
「何それ、意味分かんない。私が何したって言うの……」
『そなたはオーディションを受けた際にある人物に
「…………は?」
『その後の人生はもう真っ暗じゃな。そなたの両親は自殺し、そなたが務所から出た際には働き口もなく、一生涯フリーターじゃ』
……………そんな。
「でも今こうしてご先祖様が教えてくれたから、現世での罪は犯さないように生きます……」
『それは無理じゃ。現世に戻ればここでわしと話した記憶は消させてもらうけんの。そなたの運命は変えられん」
「………でも異世界に行ったって……」
『異世界に転生した暁はここでわしと話した記憶と現世の記憶を持っていけるんじゃ。現世の罪を償う為に異世界で悪役令嬢になるんじゃけんの』
「…………悪役令嬢になったって意味ないじゃない! 異世界でどうしろって言うのよ!」
『歌を歌うんじゃ。なんせ異世界は殺し、殺されの世界じゃけんの。異世界で歌を歌って民を幸せに導くのじゃ』
………歌を、歌う……
『それができなけれそなたは悪役令嬢じゃけん死んでしまうけんの』
………ッ。
こんな事聞かされて“現世に戻りたい“なんて言えるワケないじゃない……。私が現世に戻ってしまえばお母さんもお父さんも死んでしまう。
「現世に戻る事を選ばなかったら私はどうなるの? お母さん達は……」
「そなたは意識不明のままじゃ。ご両親も毎日お見舞いに来とる。そなたが悪役令嬢として罪を償い人々を幸せにできたなら意識を取り戻す事ができるじゃろう」
………悪役令嬢として死ななければ生き返る事ができるの?
「でも生き返ってしまったら私は……」
「罪を償ったんじゃ。そうはならん人生になっとる。さて、もう時間じゃ。“現世”か“異世界”か、どっちを取るんじゃ」
私は………
「私は異世界に行きます」