現世の罪1
今日も身が凍えるくらい寒い。確か今日の気温はマイナス1度と言っていた。冬真っ盛りな12月現在、雪もちらちらと降っている。
―― 私、
少しでもアーティストっぽく見えるように髪形はショートボブで色は少しだけ茶色に染めている。
趣味は音楽を聴く事と歌う事で、小さい時はテレビの画面越しに映るアイドルに指さして『ルーもコレになりたい』とお母さんに言っていたらしい。
ヒラヒラな衣装がもの凄く可愛くて、きっらきらな笑顔にとても癒された。
だけど、いつしか私がなりたいものはアイドルではなく、アーティストになっていった。今思えばこの世はなんて汚いんだろうと思った時から、私の心もドス黒く汚れていったように感じる。
どうしようもない心の奥底に秘めている闇を作詞し、ギターを片手にメロディーをつけて作曲して歌にする。
歌にする事で心の何かが吹っ切れた気がした。そして歌は私の生き甲斐となり褒められる事が嬉しくて、『歌手になれるよ』と言う友達の甘い言葉で私は調子に乗りまくった。
制服の上からコートを羽織って、いつものごとく喉を押さえる。
「あーあー。うん、よし。大丈夫」
軽く声を出した後、用意していたホッカイロをスカートのポケットに突っ込み、手にもこもこの白い手袋をして3万円もした白色のワイヤレスイヤホンを付けてリュックを背負う。
今日は念願の高校生新人歌手オーディションに参加するべく、ウキウキ気分で家を出た。
好きなアーティストの音楽を聴きながら外を歩くのが好きだ。バイトをして一生懸命貯めたお金で買ったばかりだけど、この重低音が響く感じがなんとも言えない。まるで音を生で聴いているようだ。
外の音が聴こえなくても注意をすれば事故らない。今までもそうだったし、今日もこの先も気を付けていれば大丈夫と思っていた。
――この時までは。
クラクションに気づかず、『あ、ヤバイ』と思った時には自分が自分では無くなっていた。
真っ暗な暗闇の中、呆然と立ち尽くす。
――寒くない。寒いとか暑いとかの体感気温すら感じない。
何が起きたのかも分からない。自分がどうなってしまったのかも分からない。
ただ分かっている事は念願の歌手になるべく、オーディション会場に向かっていたという事だけだ。