竜の国4
その部屋に並んでいる地の国の人々をみて、何故驚かないようにと言われたのかが分かった。
この国の人々は私達の様な人間とは違う人々が暮らしている国の様だった。
首元に鱗の様なものが見えるもの、手の甲がびっしりと鱗でおおわれて鋭い爪が生えているもの、それから瞳に白目らしきものが無いもの、耳の形が違うもの。
私たちが精霊と呼ぶものの人型に近しい見た目に見える。
これは驚かぬようと言われていなければ、精霊と勘違いしてしまったかもしれない。
精霊には動物に近い物、植物が混ざった人の様な形をしたもの様々だ。
けれど、ここに集まっている人は皆一様に爬虫類の様な特徴をもったものが多い。
「竜の国へようこそ」
そう声をかけられる。目の前の真ん中にいるのが恐らくここで一番高貴な方だろう。
名は名乗ってはいけない。
それが嘘か本当かは分からないけれど、信じるしかない。
恭しく礼をすると、目の前の人はふわりと笑った。その顔をみてようやくその人が王冠をかぶっていることに気が付く。
酷く緊張してまともに周りが見えなくなっていることにようやく気が付く。
王の後ろにかけられた幕には竜と剣の意匠の施された見事な紋章が描かれているのにそれすら目に入っていなかった。
「魔法の国のお嬢さん。ようこそ我が国へ」
王が私に向かってそう言った。
魔法の国? 私の国はそうは呼ばれていない。
けれどこの方も地の国へようこそとは言わなかった。この国の人々は私たちの事を魔法の国と呼んでいるのかもしれない。
けれど、私は魔法が使えない。
私は魔法を使える国の人ではない。
彼らが魔法を待ち望んでいたのだとしたら、とんだ見当違いだ。
「さて、さっそくだが、あなたのその稀有なる魔法を披露していただけないだろうか」
私の悪い予感は的中してしまった。私は魔法が使えない。それは稀有なものかに関わらず何も使えないのだ。
「まことに申し訳ありません。
私は魔法がつかえません」
私がそう答えるとその場がざわつく。
預言に間違いがあったのだろうか。
地の国に必要だったのは魔法の使える人間らしい。
それとも、地の国に不利に運ぶことが預言の趣旨だったのだろうか。