竜の国5
「マクスウェル!! これはどういうことだ」
私を案内した金色の瞳の人に国主が怒鳴りつける。
「国主様、恐れながら申し上げます。
乙女は、稀有なる魔法の力を間違いなく持っております」
金色の瞳の人がマクスウェルと呼ばれていた。
名を知らぬ訳ではないのかと思った。名前を伝え合うのにふさわしいマナーが恐らくあるのだと。
それよりもそのマクスウェルが言った、私が魔法の力を持っているという言葉の方が衝撃だった。
私には魔法の力はない。契約できた精霊もいなかった。
けれど、この人はまるで確信が持てるかのように魔法の力が私にあるのだと言った。
あり得ないのに。
待っていたところに丁度この国に来たのが私だったから勘違いしているのかもしれない。
「あの、私にそのような稀有な力はございません。
精霊とも契約ができていない私が使える魔法など何もありません」
せめて誠実であろうと決めた。あの預言はこの問答にどのような意味をもたらすのかは知らないけれど、私の故郷は聖女様が守ってくださるだろう。
であればせめて誠実に嘘を付かず言葉にしようと思った。
「……とのことだが?」
「“見るもの”の力をお信じくださいませ」
見るものという言葉には不思議な響きがあった。それがどのようなものかわからないけれど、魔法の一種なのだろうか。
けれどそれがなんにせよ私には魔法の力が無い。だからこの国に来た。
国主はじっとマクスウェルをみてそれから私をじいっと眺めた。
「マクスウェル。そなたはまだ成人になっておらん。
そのため見間違えたという事は?」
「あり得ません。
この名に誓って」
成人していないという言葉に少し驚く。社交界デビューもせずにこの国に来た私が言うことではないかもしれないけれど、彼の応対には多分に慣れたものを感じたし、それになにより余裕の様なものが滲んでいた。
だから私は彼を信じた。
「ならば、それを証明してみせよ」
静かに国主様は言った。
私に証明できるものなど何もない。
このマクスウェルという人が私が無能なばかりに恥をかくのも、罰を受けるのも嫌だと思った。