4.第一王子テオドール登場
ドアが開き、緊張した空気の中、第一王子のテオドール殿下と婚約者のアデールが入ってくる。
広間には1段高くなっている場所に椅子があり、そこにテオドールとアデールが座った。
テオドールは少し団員達を見回したあと、口を開く。
「おもてをあげよ」
その声は威厳に満ちているが、少し若さも感じる声だった。
その言葉に団員は一斉に頭を上げた。
レーヌは身長の高い男性陣の隙間から2人を凝視にならない程度に眺める。
テオドール殿下は金色の髪と瞳を持っていて、輝くばかりの美しい人物だった。
隣に座っている、婚約者のアデールはブロンドの髪をアップにしており、瞳は透明感のある明るい水色をしていた。
アデールもまた、匂い立つような美しい人で、美男美女だなぁ、とため息をつきながら見ていた。
隣にいるリディは目を輝かせながら2人を見つめていた。
テオドール殿下は団員を見回し、
「ようこそ、我が王城へ。忙しい時に集まって頂き感謝する」
と述べた。
「本日は警護団の在り方についてみなから意見を聞きたいと思い、この場を設けた」
その言葉に団員達はざわつく。
「だが、しばらくは歓談の時間を作ろうと思う。みな寛いてくれ」
その言葉で慰労会は始まった。
警護団の男性達が少し散らばって、殿下が座っている席を改めてみると、その後ろにリアムがいた。
そこにアルシェが近くにやってくる。
「……リアムは近衛だったのか」
と殿下の後ろを見てつぶやく。
「近衛?」
レーヌは聞きなれない言葉に首を傾げた。
「ああ、騎士とかに興味がなければ、みんな一緒に見えるよな。近衛というのは王族だけを守る騎士のことで、高位の貴族しかなれない立場だ」
リアムは貴族だろう、となんとなく思っていたが、身分の高い貴族だったようだ。
その言葉はレーヌの近くに一緒にいた、リディとイネスも聞いており、驚いた顔をしていた。
「ああ、そうだ。食事はとったか?」
アルシェは話題を変えて、女子チームに問いかけてくる。
「めったにない王城の食事だからな。遠慮なく食べたほうがいい。それとケーキはすこぶる美味しいぞ」
と口元に笑いを浮かべながらアルシェは言う。
その言葉を聞いて、女子チームは足早にケーキコーナーに向かう。
テーブルの上にいちごを使ったケーキ、ロールケーキやフルーツをたくさん使ったゼリー、レモンを飾ったタルトなどが並んでいた。
どれも一口サイズなのだが、彩りがきれいで、見ているだけでも楽しい。
リディは欲張ってテーブルに出ていた全種類のケーキをお皿に乗せた。
レーヌはロールケーキといちごケーキ、イネスはフルーツゼリーとチョコレートケーキを皿に乗せた。
フォークをもらい、テーブルを少し離れたところで立ち止まり、
「イネス、チョコレートケーキが少しほしいわ」
と上目遣いにおねだりしてみた。
「しかたないですね」
と困ったような口調なのに笑顔を浮かべて、フォークでチョコケーキを取り分け、レーヌの口の前に持っていく。
それを、ぱくっと食べると目を輝かせ、
「苦みがしっかりとあって、美味しいです。リディはチョコレートケーキ食べられるかしら?」
その言葉を聞いたリディは、
「子供ではないから、食べられます!」
とむっとした口調で、チョコレートケーキを口に入れたが、
「……にがい……」
と涙目で言う。
その様子をイネスと2人で微笑ましく見ていた時、ふいに後ろから声が聞こえた。
「レディたち。デザートはいかがかな?」
振り向くと、テオドール殿下がすぐ近くにいた。
慌てて、礼をしようとしたところ、
「ああ、いいよ気にしなくて。とつぜん声を掛けて悪かった」
近くで見ると殿下はとても若く、あまり年齢が離れていないように思えた。
殿下は腰を低くしリディに、
「小さなレディには、苦すきたかな?いちごのケーキは甘いから食べてごらん」
とリディの皿にのっているいちごのケーキをフォークで食べさせている。
「はい、甘いです!」
にっこりと笑ったリディに殿下もまた、満面の笑顔でこたえていた。
「リアムから、君たちの活躍は聞かせてもらっているよ」
気さくに柔らかな声で話しかけている殿下に三人とも緊張している。
「とくにレーヌ嬢は討伐中に団員を身を挺して守ったことがあったと聞いた」
名指しされたレーヌは膝をおり、軽く頭を下げる。
「その勇気に敬意を払いたいと思う」
と優しく微笑んだ。
「殿下」
と声を掛けたのはリアムだった。
「そろそろ時間になります」
と伝えると、
「邪魔をして悪かった。またあとで」
といい、王座に向かっていった。
その姿を何気なく目で追っていると、婚約者のアデールが王座に座ったまま美しい顔に似合わないほど怖い顔をしてこちらをにらみつけていた。
(うわぁ、嫉妬かしら?)
レーヌは身震いをすると、ケーキを食べることに意識を向けた。
女子チーム3人がケーキを食べ終わったのを見計らったのか、王座の近くの侍従の声が聞こえた。
「テオドール殿下から最後の言葉があります!」
その声におしゃべりをやめ全員王座を向いた。
「短い時間ながら、警護団についての話を聞かせてもらい、感謝する」
テオドール殿下の声が響く。
「今日、話しを聞いていて思ったのは、警護団がいなければこの王都はすぐに魔物の餌食になるだろう、ということだ。いままでよく守ってくれた」
テオドール殿下の言葉に少しざわつきが起きる。
「また、警護団の中には自分を犠牲にしても人を助ける人間がいると聞いた」
その言葉に全員の視線がちらっとレーヌに向かう。
「そんな人間こそが我が国の王妃としてある姿だと感じた」
と突然テオドール殿下が立ち上がり、隣に座るアデールを見る。
「ところが、我が婚約者は目の前に助けを求める人間がいても手を差し伸べることはしない」
アデールはじっとテオドール殿下の顔を見上げている。
「貴殿は今まで、どれだけの人間を見殺しにしてきたのかな?そんな人間がこの国の王妃としてふさわしいと思っているのか?」
テオドール殿下の声がだんだんと厳しいものになり、それに比例してアデールの顔色が悪くなっているが、膝の上の扇子をぎゅっと握ると、
「殿下、何をおっしゃっているのか、わかりませんわ」
と震える声だが笑顔で否定をするが、テオドール殿下は暗い笑みを見せ、
「そうか、こちらは貴殿の行動など、すべて調査済みだ」
アデールの体の震えが離れているところからでも確認できるほど動揺している。
その様子を見て、テオドール殿下は、
「アデール・イアサント嬢。あなたとの婚約は破棄させてもらう」
と冷たい声で宣言した。
その場に居合わせた団員は突然の出来事にただ、見守るしかなかった。
震えるアデールを横目に見てから、テオドール殿下は正面を向きレーヌを見つめると、
「レーヌ・アストリ嬢。貴殿を我の婚約者として指名する」
レーヌは名指しされたけど、何を言われているのかわからず、ポカーンと立ったままだったが、テオドール殿下の次の言葉で、何か起きているな、とだけ思った。
「リアム、レーヌ嬢を部屋に案内しろ」
リアムは頭を下げると、王座の裏から出てきて、まっすぐにレーヌの元にくると、
「ということで、今日からここで生活してもらう」
と宣言した。
レーヌは呆然と王座で震えているアデールを見つめ、団員達はリアムに連れて行かれるレーヌを呆然と見送ることしかできなかった。