バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

3.慰労会の当日になっちゃいました

 12月3日。慰労会当日。

 天候は冬晴れのよい天気の日。

 レーヌはお昼前から夕方の慰労会に向けて湯あみを始めていた。
 
 ドレスはやはり、オーダーメイドだと時間がかかるということで、既製品を流用しサイズの修正と飾りを多くしてもらった。

 レーヌの瞳に合わせ、ブルーグレーのシンプルなAラインのドレスに胸元には金剛石で花の形をしたブローチを飾り、全体を真珠と金剛石がちりばめられている。
 肩から首元までは白のレースで覆われていて、肌の露出を少なくしている。

 レーヌの誕生石の黄色のシトリンを使い、ネックレス、イヤリングを誂え、髪飾りはサファイヤで誂えてもらった。
 左手にはリュカからもらったブレスレットをつけてドレスの袖の内側に隠した。
 仕上げに両手にグローブをつけて完成だ。

「お嬢様、お綺麗です!」
 アラベルは化粧を施し終えたレーヌを見て、ため息をついた。
 レーヌも鏡を見て、いつもと違う自分に驚き固まっていた。
 
 この国では16歳で社交デビューとなるが、15歳のレーヌは社交デビュー前なのでここまで飾ることがなかった。
(そうか、16歳になったら体形を整える下着をつけて、こうやって飾るのね)
 それを想像して、げんなりしているところに、執事のルーが父親のマルクと母親のクレールを連れてレーヌの部屋にやってきた
娘のドレス姿を見て、2人とも感激したように涙を浮かべていた。
「本当にきれいね、あなた……」
 マルクはクレールの言葉にただうんうんと頷いているだけだったが、
「気をつけて行ってこい。何があっても、アストリ家の娘だからな」
 マルクの言葉の意味が分からずレーヌは首を傾げてしまい、意図を聞こうとしたところで、ルーが
「イネス様がお迎えにいらっしゃっています」
 と告げたため、急いで玄関に向かう。

 馬車の中にいたイネスもまた、着飾っていてドレスは淡い紫色で、腰の部分を同じ色のリボンを使い背中で結んでいる。髪を一つにまとめ、アメジストの髪飾りでまとめている。
 ネックレスとイヤリングは金剛石を使い、いつもより華やかな雰囲気になっていた。

「レーヌ、ごきげんよう」
 イネスはにっこりと微笑むと、
「とうとうこの日がきてしまいましたわ」
 と残念そうな、嬉しいような複雑な表情を顔に乗せ呟いた。
「イネス、ごきげんよう。それでもリディのドレス姿が楽しみだわ」
 その言葉にイネスも笑顔で頷いた。
 
 今日はシリカの店で待ち合わせし、みんなで馬車で王城に行くことになっている。

 集合場所は周囲の雰囲気とは違ってその場所だけ浮き上がって見えた。
 男性陣は落ち着いた色合いの黒、グレーのスーツを着用しているが生地が光沢のあるシルクのせいか、華やかさを感じる。

 警護団の総リーダーのリアムは王城で騎士をしているので、団員を王城で迎えるためにここにはいない。
 かわりに魔法部隊のリーダーアルシェが場を仕切り、女性3人を同じ馬車に乗せると、男性16人は4台の馬車に分散して一路王城へとむかった。

 レーヌはイネスとリディと同じ馬車に乗り、王城へと向かっていた。

 リディの装いを見ると、ドレスはピンク色で二の腕あたりが膨らんでいる、可愛らしいドレスで、クリスタルで髪飾り、ネックレス、イヤリングを誂えており、それもまたかわいい雰囲気を増していた。
 全体的にかわいい、という言葉がしっくりとくる恰好だった。
「リディ、今日はいつもと違くて、とても大人っぽい姿ですわ」
 イネスは目を細めてリディを見ながら言った。
「初めてのドレスは自分で選べなかったのでお店の人に協力してもらいました」
 リディはいつもと口調も変わり、淑やかに話している。
「リディ、緊張している?」
 その言葉に、頷いて肯定を示した。
「そうよね。私も緊張していたけど、いつも会っている顔をみたら、緊張がゆるんだわ」
 レーヌは少しいたずらっこのような笑顔を浮かべ、リディに声を掛けた。
 
 馬車の中でとぎれとぎれになりながら会話を交わしていると、王城が見えてきて、あっという間に正面入り口へと到着した。
 馬車のドアを開けて、リアムが王城の騎士の正装で出迎えてくれて、リディを馬車からおろすと、イネス、レーヌも馬車から降ろした。

 警護団員全員が馬車から降りたのを確認したリアムは人数を確認すると、全員に聞こえる声で、
「これから移動する」
 と伝え、ドアを開けて王城へと進んでいった。

 10分程歩いただろうか?
 王城の雰囲気にのまれ、誰一人しゃべることなく慰労会の会場である、広間に到着した。
 リアムは広間のドアの前にいた騎士に警護団員が到着したことを伝え、ドアを開けてもらった。

 初めて入る広間は圧巻だった。
 広間は30人も入れば狭さを感じるほどの広さで、天井は漆喰で彫刻が施され、そこから下がるシャンデリアは光を反射し、きらきらと輝き、庭に面した窓は大きく取られ庭を眺められるようになっていた。
 足元には模様が入った絨毯が敷かれていた。

 所どころに食事と飲み物が置かれているテーブルがあり、ここが慰労会の会場であることを再認識した。

 男性の団員の中には社交デビューしている者もいるが、その者たちは臆することなく部屋を歩き、慣れていないものは、恐る恐るゆっくりと移動していく。

 リアムが部屋の中央に集まるように声を掛けると、リアムを半円状に囲むように集合する。
「今日、国王は体調が悪く出席されないが、第一王子のテオドール殿下とその婚約者のアデール様が出席される。それまでは各自この部屋から離れずにいるように」
 全員が静かに頷いたのを確認したリアムは、
「私はこれから用事があり、ここを離れる。何かあれば、部屋にいる騎士たちに伝えてくれ」
 と伝え、リアムは部屋を出た。

 残された団員達は近くにいる人と話したり、飲み物を取りに行ったりしている。
 こういった場に慣れていない女性3人を目の当たりにしたアルシェとエタンは飲み物と食べ物を持ってきてくれた。
 飲み物はアルコール入りのものはなく、水か葡萄水だった。

 リディは葡萄水をもらうと、一口飲み、一口サイズのサンドイッチを頬張った。
「おいしい……!」
 リディはもぐもぐと嚙みながら口を押えて感嘆の声を上げていた。
「2人も少し食べたほうがいいよ」
 とエタンに勧められたので、サンドイッチを頬張り、葡萄水を飲んだ。
 それは本当に美味しくて、また食べたいと思った。
 
 とそこにラッパの音が響いたので、きょとんとしていたら、エタンが、
「ドアが開いたら、正面を向き淑女らしく、少し膝をおり、頭を軽く下げろ」
 と教えてくれた。
 その言葉に3人は慌てて、居住まいをただし、正面を見た。
 
 ドアが開く音が聞こえたので、団員全員が頭をさげ、王族を出迎えた。

しおり