やってやるぜ、大武闘大会! その1
先日から、コンビニおもてなし本店が店員でごった返しています。
いえね、本店で実地研修を行うことになった6号店の店員達が加わったためなんですけどね。
「では皆様、頑張ってまいりましょう!」
実地研修初日の本日、店内にチュパチャップの元気な声が響いていきました。
その声に、6号店の店員達が
「「「はい!」」」
と、一斉に元気な返事を返していきます。
ですが
「ひゃあ、挨拶で頭を下げすぎたぁ!?」
「きゃあ、わ、私のスカートぉ!?」
……なんで挨拶で頭を下げただけですっころんで、自分の前に立っているチュパチャップのスカートをずり下ろしちゃうかなぁ、アレーナさんってば……
まぁ、未成年のリンさんに向かわなかっただけ、よしとしましょうか。
ちなみに、制服を必死に下げながら下着を隠そうとしているチュパチャップを
「おほぉ! これは眼福で、たーる!」
と言いながら、ガン見していたタルマンさんは
「女の敵ですわ!」
「まったくですわ!」
元シャルンエッセンス家のメイド、パナとピナにタコ殴りにされていた次第です……
ちなみに、僕は転移してきたスアが目の前に水晶樹の杖をあてがってきたもんですから、まったく見えていませんのでパナとピナに攻撃されることはありませんでした。
◇◇
と、まぁ、いきなりハプニングがあったりしましたけど、研修を兼ねた本店の営業は滞りなく進んでいまました。
ずっと真面目にコンビニおもてなしの仕事をこなしてきたチュパチャップだけに、何をやってもきっちりこなしています。
6号店店員予定の新人達から質問を受けても
「あ、これはこうしてください」
「これはこうですね」
と、的確に指示を出している次第です。
時折、
「ひゃあ!? また転んだぁ」
「きゃあ!? わ、私のスカートぉ」
という声が響くのがあれなのですが……
で
ここで少々困ったことが発生しているのです。
えぇ……6号店の店員候補のみんなの実地研修ということで、みんなの働きぶりを厨房から見つめている本来の本店店員である僕や魔王ビナスさんが、することがないんです。
本来であれば、みんなから質問を受けてそれに応えたり、必要があれば指導をしたり、レジがにっちもさっちもいかなくなったらヘルプに入ったりする予定にしていたのですが、チュパチャップがテキパキと的確な指示を出してすべてを取り仕切ってくれている物ですから、何一つ手を出す必要がないんですよ……
「店長様、とても暇ですわねぇ」
「うん、そうだね」
魔王ビナスさんとお茶をすすりながら、僕は、笑顔で接客をこなしているチュパチャップ達6号店のみんなの活躍ぶりを眺め続けていた次第です。
本来であれば喜ぶべきところなのですけど……ちょっと複雑ですね……
僕がそんなことを思っていたときでした。
「店長殿! きましたぞ!」
店内に入ってきたイエロがそう言いながら僕の元に駆け寄ってきました。
狩りを終えて戻って来たのでしょう、その後方にセーテンも続いています。
で、2人は僕の前にやってくると、手に持っていた書状を手渡してきました。
その書状を開いてみると、そこには、
『バトコンベ大武闘大会招待状』
と書かれています。
「バトコンベ大武闘大会……って、あぁ、あれか、辺境都市バトコンベってとこで開催されたイベントか」
「そうでゴザル!」
「アタシとイエロに招待状が届いたキ」
そう言いながら、2人は気合い満々な様子で腕を振り回しています。
この大会は、年に1度、辺境都市バトコンベってところで開催されるイベントなんだけど、要は誰が一番強いかっていうの決める大会なんですよね。
前回は、イエロ・セーテン・ルアの3人がチームを組んで参加したんだけど、コンビニおもてなしの業務の関係で予選だけ参加してあとは辞退したんだった。
ちなみに、3人のチームは予選全勝だったんだよね。
「よしセーテンよ! 今年は優勝を狙うでござるよ」
「当然キ」
2人はすっかり参加する気のようです。
で、そんな2人を見ていて、僕はあることを思い出しました。
いえね
去年のこの大会の時って、僕はコンビニおもてなしの屋台を会場に出したんですよ。
それがかなり好評でして、結構な売り上げを記録したんです。
日程を確認してみると、大会は数日後に2日かけて実施されるみたいです。
その頃は、まだ6号店は開店していませんので本店は今日のような感じで、6号店のみんなで人手が足りてしまい、元々の店員である僕や魔王ビナスさんは暇を持て余している頃合いです。
「そうだな、本店のみんなでイエロとセーテンの応援を兼ねて屋台を出すのもいいかもね」
「まぁ、楽しそうですわね。私もがんばりますわ」
魔王ビナスさんは僕に向かって笑顔で力こぶを作っておられます。
基本、魔王ビナスさんもせっせと働いているのが好きなお方ですからね、この手持ち無沙汰な状態から脱出出来るとあって嬉しいのでしょう。
そんなわけで、僕達はバトコンベで開催される大武闘大会へ向けて準備を始めることにしました。
この大会は個人戦と、3人一組で参加する団体戦の2部門あります。
イエロとセーテンはどちらにも参加する予定にしているのですが、団体戦に参加するにはもう1人足りません。
当初、前回同様ルアを考えていた2人なんだけど、
「あ~、無理無理、今、オザリーナ商会温泉施設の建設が忙しくてそれどころじゃないよ」
そう言って断られた次第でして……
その結果、イエロの弟子的存在となっているグリアーナがこれに加わることになりました。
「イエロ師匠、こ、こ、こ、このグリアーナ、命に代えましてもお役にたってみせるでござる」
そう言いながらグリアーナは深々と頭を下げていました。
「うむ、期待しているでござるが、グリアーナの実力はまだまだでござる」
「大会まで猛特訓キ」
そう言うと、イエロとセーテンはグリアーナを連れて森へと向かっていきました。
この日、森から戻ってきたグリアーナは、ボロ雑巾のようになっていてですね
「なりませぬ……なりませぬ……」
と、半分気絶した状態で意味不明な言葉を口走り続けていた次第です……
まぁ、その横でイエロとセーテンは笑顔で丼飯を食べていただけに、2人の言っていた「実力はまだまだ」っていうのは、的を得ていたってことなんでしょうね。
さて、今度は僕達の準備ですね。
前回、会場でよく売れたのは弁当と飲み物です。
駅弁を売って歩く人のように、商品の入った入れ物を首からさげて、
「コンビニおもてなし特製弁当はいかがですかー スアビールもありますよー パラナミオサイダーもありますよー タクラ酒も買ってくれたら嬉しいなー」
てな具合に、会場内を売り歩こうと計画しています。
入れ物が倉庫の中に2つありましたので、これをそのまま使う予定にしています。
当日、会場で売り子をするのは、僕・魔王ビナスさんを予定しています。
「さぁ、張り切りますわよ」
魔王ビナスさんは、キモノをたすき掛けして当日販売するお弁当を早くも作り始めています。
まだ数日ありますけど、魔法袋に入れておけば大丈夫ですしね。
もし、小さくてもいいので屋台を出せることになったら、そこでヤルメキス達にスイーツを中心に販売してもらおうかな、とも思っている次第です。
屋台の目処が立ちそうなことを確認した僕は、スアに転移ドアを出してもらって辺境都市バトコンベへと出向きました。
都市の中は、多くの人々でごった返しています。
あちこちに
『大武闘大会』
と書かれた旗や横断幕が飾られていまして、お祭ムードが最高潮ですね。
僕とスアは、バトコンベ役場へ出向きまして
「あの、大武闘大会の会場で屋台か移動販売を行いたいと思っているのですが」
そう申し出たところ、これがあっさり承諾されました。
しかも、移動販売と屋台の両方です。
「なんか、幸先良いね」
僕はスアと顔を見合わせると笑顔を交わしていきました。
さぁ、頑張らないといけませんね。