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ララコンベどったんばったん その3

 管が発覚してから数日が経ちました。
 現在のララコンベの立ち位置としましては

『静観』

 で、皆意見が一致している次第です。
 もっとも、皆と言いましても商店街組合の蟻人達と僕、それに一部の商店街の役員さん達だけなんですけどね。

 なぜ一部の人にしか情報を伝達しなかったかと言いますと、簡単に言えば「情報漏洩の防止」です、はい。
 確かに管はオザクザク商会が開発を進めている温泉郷から伸びています。
 ですが、現段階でその管を本当にオザクザク商会が設置したという確固たる証拠が何一つないわけです。

 これには、スアの検索結果が大きく関与しています。
 と、いうのがですね……
『……管は魔法使いが伸ばしてる……でも、あの建設地帯に魔法使いはいない、わ』
 と、言うのです。
 魔法使いが管を伸ばした痕跡があるにも関わらず、その管を実際に設置した魔法使いがいない……なんでこんなことになっているのでしょう。
「オザクザク商会が意図的に魔法使いを遠くに隠しているとか……で、夜とか人の目が少ない時にやってきて魔法で作業させてるというのは考えられないかな?」
 僕の言葉に、スアは首をひねっています。
「……それも考えられる……というか、今は何もわからない」
 そう言うと、スアは水晶樹の杖を取り出し、魔法で何か作業を行っていきました。

◇◇

 それから3日経過しました。
 ララコンベの温泉宿では湯量が戻り、普通に温泉が出るようになっています。

 いえね

 スアがあの管に魔法で蓋をしたんですよ。
 そのおかげで、オザクザク商会が建設を進めている温泉郷へお湯が送られなくなっているのです。
 あと2本伸びていた管も、スアがそれ以上伸びないように魔法をかけているため、完全に伸びが止まっているようです。
「スア様のおかげでホントに助かったですです」
「スア様々ですです」
 ララコンベ商店街組合の蟻人達は口々にスアにお礼を言ってくれました。
 スアは、照れくさいらしく真っ赤になりながら僕の後ろに隠れています。
 でもまぁ、こうして奥さんがみんなに感謝されるのって嬉しいもんですね。

 僕達が商店街組合の建物の中でそんな会話を交わしていた時でした。

「あ、あの~、少しお邪魔してもよろしいでしょうか~?」
 そこに現れたのは……忘れもしません、オザクザク商会のオザリーナだったのです。
 
 ただ……

 オザリーナは以前ここにやってっきた時とはうって変わって真っ青な顔をしています。
 髪もボサボサで、気のせいか髪の毛に土がついているようにも見受けられます。
 心なしか目も潤んでいるような気がしないでもないオザリーナは、
「あの~……こちらの皆様を~、温泉経営の先輩と見込んでご相談をさせていただきたいのです~温泉の源泉が急に枯れてしまったら~、ど、どうしたらいいのでしょうか~……」
 そう言うと、オザリーナは深々と頭をさげました。

 ……って、え?

 オザリーナの言葉を聞いた僕達は、互いに顔を見合わせていきました。
 一度、オザリーナに背を向けて顔を付き合わせた僕とスア、そして蟻人達はひそひそ話を始めました。
(自分達があの管を伸ばしてたのならこんなことをわざわざ言ってはこないんじゃないかな?)
(いえいえ、ひょっとしたらしらばっくれて様子を見に来たのかもですです)
(とはいえ、ホントに憔悴しているように見えるですです)
 しばらくそんな会話を交わした僕達は、改めてオザリーナへ視線を向けました。
 僕達の視線の先のオザリーナは……やはり憔悴しきっているように見えます。
 先ほどまでは目が潤んでいる程度だったのですが、いつの間にかその目から涙がこぼれ始めていました。
「う~……このままではオザクザク商会が倒産してしまいます~……」
「……倒産って……どういうことなんですか?」
「はい~……実はですね~……」
 そう言うと、オザリーナはゆっくりと話始めました。

 オザリーナが勤務しているオザクザク商会は王都にお店を構えているそうなんです。
 ですが、主に取引をしていたグリード家という貴族が様々な不正行為を行っていたとかで失脚してしまい、儲けがなくなってしまったんだとか。
 慌てて営業活動を行ったものの、不正をおこなっていた貴族と関係していたオザクザク商会にいい返事をしてくれる人はいなかったそうです。
 途方に暮れていたオザリーナ達オザクザク商会に、ある日一人の女性が訪ねて来たそうです。
「オザクザク商会さん? ちょっと大きな儲け話があるんだけど、お話を聞いていただけません?」
 その女性が申し出たのは、温泉郷の経営をしてみないか、とのことだったそうです。
「私の商会が所有している辺境地で温泉が出たのですわ。これを使えば大規模な温泉郷を開発して大儲け出来ること間違いなしなのです。ですが、私の商会はあまりお金を持っていないものですから、開発に協力してくださる商会を探しているのですわ」
 その女の話に、オザリーナは懐疑的だったそうなのですが、彼女の上司である会長が
「うむ、ここは商会の残りの金をすべて使って大勝負してみようじゃないか」
 そう言いだし、この話にのることになったんだとか……

「私は~……会長に任されて~、この温泉郷の開発を行っていたのです~…… 先日までは~順調にお湯が出ていたのですけど~……」
 そう言うと、オザリーナは再び顔をくしゃくしゃにしていきます。

 ……うん……なんだこの話は……

 オザリーナの話を頭の中で反復した僕は、ある一つの結論にいたりました。
「オザリーナさん」
「はい~?」
「温泉のお湯云々の前に、その話を持ってきた女性に合わせてもらうわけにはいきませんか?」
「あ、はい~……それは問題ないかと~……」

◇◇

 オザリーナの話によりますと、その女性は会長と一緒に週に1度視察にやってくるそうです。
 で、明日がその視察の日なんだとか。

 僕はオザリーナに、
「では明日、そちらのオザクザク商会温泉郷へお邪魔させていただきますね」
「はい~わかりました~」
「あ、それからですね」
「はい~?なんでしょう~?」
「僕がそちらに行くことは内密にお願い出来ますか?」
「はぁ~……それは別にかまいませんけど~……」
 僕の言葉に首をひねりながらも、オザリーナは首を縦に振ってくれました。

 温泉郷にお邪魔した際に、温泉のお湯も調べさせてもらうと伝えたものですから、オザリーナは嬉しそうに笑顔を浮かべながら帰路につきました、
 
 で、

 オザリーナを見送った僕達は、その場で顔を見合わせていきました。
 なんでしょう……なんか嫌な予感しかしないんですよね……その会長と話を持ってきた女……
 特に、その女はですね、会長にしか名刺を渡していないため、オザリーナも名前を知らないんだそうです。

 とにかく、全ては明日ですね。
 スアにはもちろん同行してもらうことにして、あと、念のためにゴルア達辺境駐屯地のみんなにも事情を説明して同行してもらった方がいいかな、と、思った僕は、スアに転移ドアを出してもらいまして、早速辺境駐屯地へ移動していきました。

 その日は、そんな感じであれこれ準備をこなしていきました。

◇◇

 そして翌日……

 僕達はララコンベ商店街組合に集合していました。
 スアの転移魔法で移動してきたゴルア達辺境駐屯地の皆さんも一緒です。
「では、行きますか」
 僕がそう言うと、スアが転移ドアを出現させました。
 スアがその戸を開けると……その向こうには工事が続いている街並みが広がっていました。
 どうやらここがオザクザク商会温泉郷のようですね。

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