バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ララコンベどったんばったん その4

 オザクザク商会温泉郷に、スアの転移ドアで到着した僕達は、工事現場の近くにある森の中へ姿を隠しました。
 僕達が辺境駐屯地の皆まで連れだってやって来ていることが相手にバレてしまうと、ひょっとしたらそのまま逃亡されてしまうかもしれませんからね。
 
 森の中に身を潜めた僕達は、オザリーナの上司であるオザクザク商会の会長が温泉郷案件を持ち込んできた女と一緒に姿を現すのを待ち続けていました。
 当然、僕達の周囲にはスアが隠蔽魔法をかけてくれています。
 相手の中に魔法使いがいる可能性が高いですが、なにしろこの魔法を使用しているのはこの世界最強最高の魔法使いであるスアですからね。まず問題はないでしょう。

 その状態で待つことしばし……

 温泉郷建設地に向かって一台の馬車が向かってきました。
 すると、スアが眉をひそめました。
「……あの中、魔法使いがいる、わ……周囲を索敵しながらやってきてる」
 そう言いました。
 その索敵魔法で僕達がいる一帯も索敵されたみたいですけど、馬車はそのまま温泉郷建設地の中へと入っていきましたので、どうやらバレてはいないようですね。

 僕達は、森の中に身を潜めたままその馬車を見つめていました。
 しばらくすると、その馬車に向かってオザリーナが駆け寄っていきました。
 馬車の戸を開け、降りてきた人々に深々と頭を下げています。
 馬車から降りてきたのは6人です。
 3人は護衛の衛兵のようですね。おそらく金で雇われた傭兵でしょう。
 残りの3人のうち、

 1人は、魔法使い
 1人は、オザクザク商会の会長
 そして最後の1人が、どうやら温泉郷の案件をオザクザク商会に持ってきた女のようですね。

 スアは、魔法でその女の顔をとらえると、僕の眼前にその映像ウインドウを展開してくれました。
 僕だけではなく、ゴルア達辺境駐屯地の皆も、僕の後方からそのウインドウを見つめています。
 
 で

 そこに投影されていたのは、異常に濃い化粧をした女でした。

 アイシャドーも 
 頬紅も
 口紅も

 すべて異常なまでにどぎつく塗りたくっているその女……その姿はまるで自分の素顔を隠そうとしているかのうようです。
 
 そこで、スアが魔法を使用しました。
 ウインドウに写っているその女の顔から化粧を削除していったのです。

 まずアイシャドー
 次に頬紅
 そして口紅

 ……すると、そこには、見覚えのある顔が浮かび上がって来ていました。

「これ……どう見てもポルテントチーネだよね……」
 僕は無意識のうちにボソッとそう言いました。
 その言葉に、僕の背後にいるゴルア達辺境駐屯地の皆も一斉に頷いていました。

◇◇

 その、どうみてもポルテントチーネ達は、オザクザク商会の会長とともにオザリーナの説明を受けているようです。
 僕達は、スアの隠蔽魔法をかけられたままの状態で森を出ると、そのままポルテントチーネ達の周囲を取り囲んでいきました。
 途中、どうみてもポルテントチーネが連れている魔法使いが何度か不審そうな表情をその顔に浮かべていたのですが、スアの隠蔽魔法の方が勝っていたらしく、それ以上の行動を起こすことはありませんでした。

 そして

 説明を続けているオザリーナ達の背後に回った僕は、スアに目で合図を送りました。
 スアは僕に向かって頷くと、僕の周囲にかかっている隠蔽魔法を解除しました。
 僕は、その状態でオザリーナ達へと歩み寄って行きました。
「やぁ、オザリーナ」
「あ、タクラ店長さん」
 僕の姿を確認したオザリーナが深々とお辞儀してくれました。
 そんなオザリーナに、僕は笑顔で手を振っています。
「オザリーナよ、こちらの方はどなたじゃな?」
「あ、はい、会長。ララコンベ温泉郷にお店を出しておられるお方でして、私達オザクザク商会温泉郷にご協力くださっているお方です」
「ほう、では先ほどの説明でオザリーナが言った、協力者というわけじゃな?」
 そう言うと、オザクザク商会の会長は僕へと視線を向けてきました。

 この人に見覚えはありません。

 問題はその横の女です。
 僕はその女に視線を向けているのですが、その女は明後日の方向を向いたまま僕と視線を合わせようとしていません。
 そんな中、オザクザク商会の会長は僕に笑顔で右手を差し出してきました。
「オザリーナから話は聞いておりますぞ。私がオザクザク商会会長のオザクザクじゃわい。そしてこちらが、私とともにこの温泉郷を開発しておる、ウスシオーネ商会のウスシオーネさんじゃわい」
 僕と握手を交わしながら、オザクザクさんはそう言いました。
 紹介されてしまったことで観念したのか、その女はようやく僕に向かって、その厚保化粧な顔を向けてきました。
「はじめまして店長さん。私がウスシオーネ商会の会長、ウスシオーネですわ」
 満面の笑顔で右手を差し出してくる、その自称ウスシオーネ。
 僕は、そのウスシオーネに向かって言いました。

「……お前、ポルテントチーネだろ?」

◇◇

 そこからは、怒濤の展開でした。

 僕が出て来たことで自分の正体がばれたと直感していたらしいポルテントチーネは、僕の言葉を聞くなり、下手な反論をすることなく
「お前達、やぁっておしまい!」
 自分が連れて来ていた魔法使いや衛兵達を僕に向かってけしかけてきました。

 そこに、スアの隠蔽魔法を解除されたゴルア達が
「お尋ね者のポルテントチーネとその一味よ、おとなしく正義のお縄をちょうだいしろ!」
 一斉に突っ込んでいきました。
 ポルテントチーネが連れてきていた衛兵達もかなりの手練れではあったのですが、ゴルアと副隊長メルアの敵ではありません。
 ゴルア達は3人の衛兵をあっという間に取り押さえてしまいました。

 その横では、スアがポルテントチーネの魔法使いを魔法の荒縄で縛り上げています。
 ポルテントチーネにとってはこれが一番の誤算だったようですね。
 後でスアに聞いたのですが、
「……あの魔法使い、確かに相当な魔法の能力を持ってた、わ」
 スアがそういうくらいの魔法使いだったみたいなんですよね。
 おそらくポルテントチーネ的には衛兵よりもこの魔法使いの方が最終兵器的な存在だったと思われます。
 まぁ、スアにかかれば赤子の手をひねるようなものだったようですが……

 残り1人となったポルテントチーネは
「えぇい小癪な! おぼえてらっしゃい!」
 捨て台詞を残してその場から逃げだ……そうとしたのですが、そうはいきません。
 その周囲を完全に重囲していた辺境駐屯地の皆が一斉にポルテントチーネに襲いかかっていきました。
 とはいえ、かつて王都の衛兵相手にたった一人で相当な抵抗をしたことがあるポルテントチーネだけに、多勢をものともせず、大暴れしていきました。
 ですが、そんなポルテントチーネの頭上にスアが巨大なハンマーを出現させ、それでポルテントチーネの頭を一撃したことで状況は一変しました。
 その一撃で意識朦朧となったポルテントチーネを、ゴルア達が一気に捕縛していったのでした。

 こうして、自称ウスシオーネこと、ポルテントチーネは逮捕されたのでした。

◇◇

「……ホント、しつこいなポルテントチーネってば……」
 スアの転移ドアで、王都の中央衛兵局へポルテントチーネ一味を移送していくゴルア達を見つめながら僕は苦笑していました。
 そんな僕の視線の先で、ポルテントチーネは
「見てなさい! アタシは絶対にまた戻ってやるんだから! アイルビーバックよ!」
 そんな声をあげていたのですが、その声はすぐに衛兵局の建物の中へと消えていきました。

 ……さて

 これで、諸悪の根源は絶たれたわけですが……
 僕は、呆然としているオザクザクさんとオザリーナへ視線を向けていきました。

しおり