38話 召喚士アルアゾンテ
「レン、久しいな……。言いたいことはわかっておる」
アルアゾンテは降下して、最初の言葉を優しく俺に投げかけた。まるですべてわかっているような素振りでもある。
すると突然俺に、投げてよこした銀色の輝く物があった。
「何だ?……」
一見どうみてもただの装飾もない、表面は滑らかな銀色の指輪だ。あの顎骨とは異なる。
「左手の人差し指に指すといいだろう。端的にいうとだな、指輪のある力でラファエルを呼び戻す」
「呼び戻してもこの傷だと、蘇生は厳しくないか?」
「傷は、我が治そう」
アルアゾンテはなんの予備動作も無しに、瞬間移動したのかと思う速さでエルの前にきた。横たわるエルの傷口に右手のひらをかざすと、金色の粒子がゆっくりと降り注ぐ。逆再生をみている様に、みるみるうちに塞がると、何事もなかった様な状態に戻った。
「本当に、まるで寝ているみたいだ……。アルアゾンテ感謝する」
「気にすることではない。ただ、感謝は素直に受け止めとくとしよう。そこで本題だ」
俺とリリーを交互に見つめ、改まって発する声を準備しているかの様だった。
俺は思わず待ちきれずに先に聞いてしまった。
「エルは蘇生できるのか? 俺は、何をすればいい?」
すると俺の左手人差し指に刺さる指輪をさす。
「結論から言うならば、蘇生はできる。ただしいくつか準備が必要だ」
俺とリリーは思わず顔を見合わせて、互いに希望という思いを再確認した。
「儀式かなにかに必要な、素材でも集めるのか?」
そうだと言わんばかりの仕草で、おうようにうなずく。
「そうだ。方法を先に言うならば、その指輪で使い魔を召喚する。そこで呼び出す相手が鍵だ」
「使い魔をか?」
「ああそうだとも。その使い魔がラファエルの魂を探しいく」
「別の者の魂を持ってくることは、ないのか?」
俺たちにとって見いな領域でわからない以上、何をもってきてこられても疑いようがない。
エル当人以外の魂だってありえることだ。
「安心したまえ。肉体に宿っていた魂は、元の肉体が無事なら引き寄せられる。この原理は変わらない」
「なるほどな。見つけたあとは?」
アルアゾンテの言うことを鵜呑みにするなら、間違いはないのだろう……。
「発見後は体に納める役割をはたす。魂の探偵家業とも言うべきかもしれない」
「探して、体に入れ直してくれるのが、その使い魔の役割か……」
「そうであるな。しかもこの現世に肉体が存在したまま、魂を探しにいける稀有な存在だ」
「使い魔の現世に残る体と意識は、大丈夫なのか? 俺たちは戦うことが多い。毎回庇えないぞ」
俺たちは今でも追手に変わらず追われている。シュラウドが諦めることはありえないからだ。
それに今襲撃が少ないのも、この迷宮内の最下層にいるためだ。
通常町中では、襲撃される可能性の方が高い。その度に守る必要になると、足枷にしかならない。
追手たちは、何が俺たちの弱点か常に見極めているから、リスクは最小限にしたい。
「心配無用だ。現世に意識がある。戦いも可能だ」
「それなら、問題ない。探している間の遺体はどうなる?」
「一時的に保管をする。使い魔は、その能力も合わせもつ。」
恐らくは、異空間保管だろう。俺がギャルソンに施してもらったのと似ている気がする。
今は、ヴォルテックスのおかげで、一時的に肉体を顕現できている。
そう考えると、顎骨指輪からもたらされた技術に近い物を使い魔が使えるなら、技術の出所は、使い魔の本体がいる世界側なのかもしれない。
「気になるのは、使い魔が死んだらエルの遺体は、取り戻せないのか?」
「厳密にいえばな。これから呼び出す使い魔は現世では死ねない。ゆえに安心するといい」
俺は、気がかりなことの一つが解決したと思った瞬間だ。使い魔は、戦闘特化であることの方がまれだ。
ゆえに、保険はつけておきたかった。
「わかった。多くの事をするんだ。その分、対価を要求するのでは?」
「もちろんだ。その対価は相手による。呼び出す手筈は整えよう」
「何が要求されるやらな……」
相手次第で、弱みを握られた状態……。不利な要素しかない。
「相手との交渉はレン、汝次第だ。我はそこまで、関与はできない」
「そうだな。そこまで甘えられないな……」
「わかってくれて何よりだ」
俺は、概ね状況は理解したつもりだ。タイミングがあまりにも良いアルアゾンテの行動は、不自然にも思えた。仮にそうだとしても、俺たちにとって不利になる要素は何一つない。むしろ良いことづくめだ。
唯一気になるといえば、使い魔からの対価要求についてだけだ。
俺はアルアゾンテからさっそく、使い魔の召喚方法を聞きだした。今回の血は、少なく済む物の時間がかかるらしい。付き添いでアルアゾンテもいてくれるとのことなので、不慮な事故が起きても対処が可能だ。
使い魔召喚は簡単なようでいて、実は難しい。難しくさせているのは、呼び出した本人以上の強い者が現れてしまい、呼び出した本人が使い魔として、契約させられてしまうことがあるという。
ただ、俺の場合に限ると、ありえないらしい。俺ぐらいの強さの使い魔は、存在しないとのことだ。もしいたら、使い魔と偽装して近寄る”魔人”と呼ばれる類の者という。倒したら、魔剣に変わるユニークな存在とのことだ。もし遭遇した時は、積極的に倒した方が良いとまで言われた。
つまりこの使い魔召喚指輪は、何度でも使えるとのことだ。俺自身の強さを偽ることはできない物の、ヴォルテックス化する前に呼び出せば、魔人が釣れるかもしれないとのことだ。
魔人が人を釣るつもりが、自分自身が釣られてしまうのは、非常に面白い。片っ端からやって見るのも良さそうだ。しかも魔剣になれば体内に納めることが可能になる。荷物として増えることもない。エルの魔剣も何かそのように、相手を倒して魔剣化させて手に入れたのかもしれない。どこかそんな風に思えてきた。
いよいよ試すべく、指輪に俺の血を一雫たらした……。