36話 妨げられた女神の悪意(1/2)
私はリリー。
今、戦いの最中だというのに思わず手を止めてしまった。
女神のあの一撃はすざまじく、到底レンは避けられず、致命傷の可能性がたかかった。回避すべく決死の覚悟で、エルは身を挺して、レンの命を救う。
私たちの攻撃では間に合わない。唯一可能なのは、エルの高速移動で自身の身を盾にすることだ。本当に実践して、悲しみとともに今に至る。
「レン生きて……」
エルの声が頭の中で、何度もこだましてくる。そして、レンは呆然としていた。
ところが、切り替えは早かった。目の前に敵がいるからだ。それでも私は、何か得体のしれない物を今度は、レンから感じとっていた。
ふらつきながら立ち上がるレンを、私と敵である女神は凝視していた。
なぜか女神は手を出さないでいる。何か考えがあるのかわからない。
ただ言えることは、先とは表情に焦りが見えることだ。レンの変化だからだろうか……。
「何んだ!」
私は思わず声に出してしまう。今の一瞬全身を突き抜けていった波動は何なのか。突如として、今までにきいたことのない低く、体に響く声がレンの方から聞こえてくる。
「汝よ……。ついに、きたか……」
「無は嘆き、彼方の思い、色褪せて。相続するは、死の香」
「目覚めよ……。”悪魔の子よ”」
一体何が始まろうというのだ。この声の主は一体誰だ? レンの方から聞こえる?
するとレンが突如叫び出した。私はこのようなレンを未だかつて、見たことがない。
何が起きるのだ!?
「うぉぉおおおおおー!」
レンが突如叫び出した。まるで悲しみを吠えているようだ。
「エミリーもエルも女神で死んだ!」
「女神! 最後の戦いだ!」
何かの力が膨れ上がる、そんな波動が私の体の隅々まで響いた……。
「ヴォォル! テッー! クス!」
黒の光があるとするなら、きっとレンのためにある物だろう。
私は、レンの体にまとわりつくように溢れ出す、黒い霧も合わせて目撃した。
肌は赤黒く、少し筋肉質な体つきになり背中には、黒いコウモリ状の悪魔の羽を生やす。
髪は突然長髪になり、肩にまでかかる長さに変化した。肌で感じる波動はまるで違う物だった。
本当にレンなのかと疑ってしまうほどの姿かたちであり、覇気だ。しかも何が起きているのか砂や小石が、地面から次々とゆっくり浮きあがってくる。あの紅虹彩が見つめる先は、女神がいる。
一瞬のうちに、突風が体を突き抜けた気がした。風もないのにだ。
すると、瞬きする間もなくレンのダークボルトが、無数に放たれて女神に殺到していた。
当然予想外の出来事で、女神も対応できずに四肢が四方八方に飛び散り、砕けちる。
それでもレンは、攻撃の手を緩めず今度は、その四肢に対してダークボルトを打ち続ける。
私から見て、少し恐ろしいとまで感じるほどの気迫だ。もし闘神がいるとするなら、
レンのためにいるような物だ。
レンは知っているのだ。あの女神がこの程度で死ぬわけがないと。再び再生してくると。
だからこそ、チリすら残さない勢いで攻め抜く。当然女神側は何もできないままである。
仇を撃つ。なんて悲しい響きなんだろうと、このとき私は思い知らされた。
倒してもエルは戻ってこない。なのに、今は攻めるしかないし消滅させなければ今度は自身の番だ。
それでもこの悲しみは止まらないし、今の私にできることはなんだろう……。
一時的にもその悲しみを消すすべがあるとしたら、女神を抹殺すること、今はそれだけ……。
レンの猛攻は続く……。
私は、エルの遺体を可能な限り、影響が少ない場所に移動させた。
彼女は目を閉じたまま動かない。意思が消えてしまった者はこんなにも冷たくて切ない。
まただ! 何の前触れもなく、女神が食らってしまったあの光は、再びバラけた部位ごとに宿って光る。
金色の粒子が辺りに散りばめられたかと思うと、まるで川の上流で急な水流が流れゆくかのように
金と銀の粒子が流れている。眩さがある意味、部位がどこにあるのか目眩しにさせている。
私の力では歯が立たないどころか、歯牙にも掛けないぐらいの者として認識されている。
そのためか、こうしてレンと女神の戦いを見守れている。エルとともに……。
この視界では、女神の部位がどこにあるのかわからなく、レンも同じで今度は出鱈目にダークボルトを放ち始めた。
あのダークボルトの嵐の中をどうかいくぐったのか、突如復活した女神はレンの背後をとり
再び、ダークランスを放った。気になるのは、私の使うフェアリーランスにそっくりなとこところだ。
闇でできた悪意は、レンを突き刺そうと迫る。ところが、ダークボルトで迎え撃つとさらに、倍以上の数をレンは放ち女神を仕留めようとする。それにしてもよくあの状態で復活できたものだと思う。
見た目の気配から察する限り、あの女神は何か別の者になったようにも見える。
最初の頃の意思や意識はなく、何か動物的な感覚をもつ二足歩行の生き物とすら感じる。
怒りに震えるレンですら何か感じている様子である物の、だからどうしたと言わんばかりの顔つきで、再び女神を消滅させようと迫る。
悪意は放たれた。ではレンは……殺意を放つ。