27話 殲滅 ゴーレムの軍勢(2/3)
「来たか! ディスティニーゴーレム!」
「レン! 行くわ!」
エルは舞い上がる。そして掲げた魔剣から永久凍結の吹雪が吹き荒れる。
「私も行くぞ!」
リリーは得意となったフェアリーランスを絨毯爆撃のように放つ。
エルの永久凍結とリリーの絨毯爆撃の二段攻めで、ゴーレムたちは足止めを喰らう。
俺は何か異常を感じていた。今まで制限のあったダークボルトは、事実上制限がない。
百層以降から継続して続いている。
何が起きたのか、そして何が起きるのかまったく予測がつかない。
言えるのは、使える内にゴーレムたちの殲滅だ。侵攻の勢いは想像以上に早い。
背丈は、優に三メートルもある。巨体と頑丈な体を活かした攻撃が主体だ。
長い腕は、そのまま地面に拳が触れられるぐらいに長い。
ゆえにリーチには気をつけないとやられる。
「こいっ! デカブツ!」
一際大きい指揮官クラスのディスティニーゴーレムと俺は対峙している。
このクラスになると、力も速度も耐久性も桁違いになる。
俺の踏み出す一歩とゴーレムの踏み出す一歩はまるで違う。
すでに射程内に入ると、腕を振り抜く音は、唸るような轟音で耳を焼こうとしている。
掲げたゴーレムの右腕はまるで、乳牛が一列に何頭も連なる太さだ。
突風を生み出し、俺に迫る。風圧だけでも押し出されそうな拳圧が迫ってくる。
「チッ!」
思わず舌打ちをするほど、圧が強い。
的としては小さい俺が、ゴーレムの右腕側面をすれ違うように回避。
感じる風圧は、駅のホーム間近で顔を近づけて列車が走り去るようにすら思える。
伸び切ると腕は一瞬止まる。長い腕を活かした攻撃の弱点だ。
俺は手のひらを添えて、打ち出す。
「ダークボルト!」
刹那、木っ端微塵に腕は砕け散り、瓦礫が落ちる。
ゴーレムゆえか、痛みも怯みもしない。無いなあある物を使えばいいと背面から腕を回した。
奴にとって、背面を見せるのは何てことはないのだろう。振り返りまるで回し蹴りだ。
腕がうなり近づいてくる。
ワゴン車が目の前に降ってくるのと同じ状態だ。
さすがに幅が広く、回避が間に合うのか!
「ダークボルト!」
俺は自身を射出する勢いで、背面に飛びながら放つ。ちょうど加速するために放ったのだ。
目論見はうまくいき、距離が稼げた。同時に腕が着地するとあとわずかで下敷きになるところだ。
以前なら、苦戦はしなかったはずだと、俺は思っていた。
やはり、半分ぐらいは人の状態だと威力は落ちるし速度も下がる。
悪魔化は正直見えないリスクがある。とはいえ、力が取り戻せる感覚はクセになりそうだ。
力の渇望こそ、顎骨指輪の思う壺かもしれない……。
俺は、目の前で腕を地面に埋め込んでいるゴーレムの腕を駆け上る。
腕が埋まって動けない様子で、不器用にもがいている。
今がチャンスだ!
肩まで上がると、眼下に頭部が見える。そのまま手のひらを下に向けて、脳天直下に放つ。
「ダークボルト!」
指の隙間から覗くダークボルトのうねりは、頭部を突き破り体内にまでまっすぐ突き進む。
今ので、内部のコアは破壊できただろう……。
ゴーレムは腕が埋もれたまま、動きが止まった。
他の者たちは、リリーとエルが奮戦している。リリーのフェアリーランスは強力だ。
いつ覚えたのか、銃弾のように回転しながら体を穿つ。はっきりいうと強力すぎる。
エルのコキュートスも相性がよく、足を止めさせる。
まさに二人で蹂躙しているかのようだ。
俺は他の逸れた指揮官クラスを見つけ、強襲を開始した。
その時だ、異変のはじまりを吐血で知った。
「ゴホッ! ゴホッ! クッ!」
井戸のおけで水をまくのと同じぐらいの量、血だまりを作った。
なぜ、こんな時にと疑問が過ぎる。ただわかったことは一つこいつだ。
「……よもや、体の方から悲鳴をあげるとはな。汝は苦労するな」
顎骨指輪が唐突にしゃべり出した。ただコイツが語る時は俺が危機的な状況の時だ。
「俺は、まだ死ねない……」
「案ずるな。我がいる……」
「もしやお前が、制限を解除したのか?」
「無論だ……」
「負荷を知っていてか?」
「無論だ……。汝は、あの女神の石造との戦いをくぐり抜けたいのだろう?」
コイツは知っていてわざとしたわけだ。ただ勝つことはできた。
「……」
何もいえない。いや、言いようがない。たしかに制限が外れたことで助かりはした。
「まだ、汝の体はもつ……。今は一時的に弱っているだけだ」
「どの程度もつんだ?」
「汝によるだろう……。我がしるのは、時のみ」
一体何を知って何を待っているんだ……。
「何の時だ?」
「最後の時だ」
「何の最後だ?」
「いずれわかる…‥」
コイツは肝心なことを話さない。俺の残り時間が気になる。
死ぬのは覚悟の上だ、ただし目的を果たすまでは死ねない。絶対だ!
「力を自由に……貸す気は、無いのか?」
「……勇者」
「何?」
「……勇者が現れたら、無条件で今回だけは貸そう。好きにするといい」
「どういうことだ? 何を知っている?」
「……いずれだ」
少なくとも今は制限がない。顎骨がいう力は感覚的にボルテックスだろう。
ならば、この手は敵を屠るためにある。
まだいける。
行くぞ! 俺は再び指揮官ゴーレムに向けて駆けていく。