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コンビニおもてなしクエスト 番外編

フレイムゾンビドラゴンを倒したことで、夏が一気に快適になりました。
 それなりに暑くはあるのですが、先日までの暑さに比べれば全然大したことはありません。

 それを受けまして、コンビニおもてなしでは悪いことといいことがありました。

 まず悪いことですが……
 氷嚢が、すっごく売れ残りました。
 フレイムゾンビドラゴンを倒した僕は、ルアのもとへすぐに出向きまして、以後の氷嚢の生産を取りやめてもらうようにお願いしようとしたのですが、
「ルア、ちょっとお願いが……」
 そう言って駆け込んだルア工房の中には、木箱に入って山積みになっている氷嚢がありまして……
 
 ……はい

 一応その場でこれ以上の増産はストップしてもらったんですけど、その時点でかなりの量出来上がっていたんですよね……
 えぇ、もちろん契約ですからそのまま買い取りさせていただきました。
 随分減っていたコンビニおもてなし本店の倉庫の中が久しぶりに賑やかになった感じです。

 そしていいことです。
 ヤルメキスとケロリンが頑張って作ってくれているアイスクリームが引き続き大好評です。
 涼しくなったものの、
「このアイスクリーム美味しいわ」
「暑さに関係なく食べたいわ」
 みなさんそんなことを口々に言われながら、コンビニおもてなし各店舗にあるヤルメキススイーツコーナーへ殺到なさっているんです。
 確かに、僕が元いた世界でも
「アイスは冬、こたつに入って食べるのがいいんだよ」
 なんて言ってた友人もいたぐらいですしね。
 とにもかくにも、これは本当に嬉しい限りです。

◇◇

 そんなある日のこと……
 5号店で勤務していると、ドンタコスゥコが上機嫌でやってきました。
「おや、ドンタコスゥコ、何かいいことでもあったのかい? すごく嬉しそうじゃないか」
「ふっふっふ、わかりますかねぇ、やっぱり」
 ドンタコスゥコはそう言うと、嬉しそうに笑みを浮かべました。
「実はですねぇ、あの砕けた門番(ゲートキーパー)の弓が無事高値で売れたんですねぇ」
「え? そうなの!?」
「はいですねぇ、あの弓の破片を展示販売してたらですねぇ
『この破片からは伝説の剣の波動を感じる……』って言い出した冒険者の方が現れましてですねぇ、こちらの言い値で買ってくださったんですよねぇ」
「え?……伝説の……剣?」
「はいですねぇ、私がいくら『それは伝説の弓ですねぇ』って説明してもですねぇ『いや、これは伝説の剣の残骸だ、俺にはわかる』と言われ続けたんですよねぇ」
 ドンタコスゥコの言葉を聞いた僕は、どうにも苦笑するしかありませんでした。
 でもまぁ、相手の人も、その人なりに納得して買っていったみたいだし、よかった……って、ことでいいんだろうか……

 僕に、弓が売れたことを報告したドンタコスゥコはスキップしながら向かいのドンタコスゥコ商会へ帰ったいったのですが、そんなドンタコスゥコと入れ替わるように、僕の目の前に巨大な魔法陣が出現しました。
「な、なんだぁ!?」
 僕が目を丸くしていると、その中からセルブアが姿を現しました。
 セルブアは、やけに焦った様子で僕へ歩み寄ってくると、
「店長、確かこの店で、夜寝るときに体を冷やす道具を売っていませんでしたか?」
 そう聞いてきました。
 その顔は、妙に焦っているといいますか、焦燥感がおもいっきり顔に出ている感じです。
「えぇ、中に圧縮氷を入れて冷やす氷嚢ならありますけど……」
 僕がそう言うと、セルブアは
「あるだけ売ってください! 今すぐ! 急いで!」
 そう言いました。

 で

 僕は転移ドアをくぐって本店に戻り、倉庫に詰め込んだばかりの氷嚢が詰まった木箱を取り出してセルブアへ渡しました。
 セルブアは、
「ありがとうございます店長、助かります」
 そう言うが早いか、氷嚢の入っている木箱を魔法袋に詰めていき、そそくさと帰ってきました。

 ……これは憶測の話ですが………
 先日、セルブアは急遽フレイムゾンビドラゴンを処分しなければならなくなったのです。
 ですが……どうも廃棄先を見つけることが出来なかったらしくて、どうも神界のどこかにとりあえず置いているみたいなんですよ。
 そのため……神界がかつてない暑さに見舞われているんだ、と、神界でヤルメキススイーツの店を営業しているマルンが教えてくれたんですよね。
 で、あの慌てっぷりからして……

 ・フレイムゾンビドラゴンの死骸を神界に遺棄しているのがばれた。
 ・とにかく、みんなが少しでも涼しくなる方法を提供しなければ。

 そんなことを考えた結果、コンビニおもてなしで氷嚢を売っていたことを思い出して大急ぎで買い付けに来たのでしょう。

 まぁ、こうして買い物に来ている時点で、首にはなっていないみたいだし、とにかくガンバレと、僕は心の中でセルブアへエールを送っておきました。

 でもまぁ、セルブアには申し訳ないのですが、僕的には在庫をさばくことが出来て安堵だった次第です、はい。

◇◇

 その翌日のことでした。
 今日は、本店の厨房の手伝いをしていたのですが、珍しく魔王ビナスさんが背後から負のオーラを出しまくっています。
 笑顔は笑顔なのですが、その笑顔が……その、どう言えばいいのでしょう……まるで般若を思わせるような笑顔になっているんですよね。
「……あ、あの……ビナスさん……ひょっとしてご自宅で何かあったのですか?」
 僕がおそるおそる聞いて見ると、魔王ビナスさんは、首をギギギ……と、音がするんじゃ無いかってくらいゆっくり動かしながら僕へと視線を向けてきました。
「いえ~、大したことではないのですわ……ですけどねぇ……」
 そう言った魔王ビナスさんの背後から再び煙りのような負のオーラが湧き上がってきました。

 ……で

 お話を少し詳しくお聞きしてみたところ、
「いえね……旦那様がですね……ゴミを高値で買ってこられたものですから、少々立腹してしまっただけですわ」
 そう言うやいなや、魔王ビナスさんは、両手の拳をゴキゴキ言わせ始めました。
「いえね~。私も旦那様の趣味に口を挟むつもりはなかったのですわ。ですが旦那様ってば、
『これは伝説の剣にちがいない』といって『伝説の弓の残骸』を買って来たのですから少々怒ってしまっているいのですわ」
「え?」
「旦那様ってば、先入観で先走る癖がおありでして……どうも今回もその悪い癖のせいで、お店の人の話をよく聞かないまま、その弓の残骸を買ってきちゃったみたいなのですわ」
 魔王ビナスさんのお話を聞いた僕は、頬に冷や汗がつたうのを感じていました。

 はい……間違いありません。
 ドンタコスゥコが、あの壊れた弓を販売したのが、魔王ビナスさんの内縁の旦那さんだったのでしょう……
 僕が、とりあえず苦笑を浮かべていると、魔王ビナスさんは、
「まぁですね、この弓を旦那様に打ち付けた相手は、近日中に見つけ出して、然るべき仕打ちを……と、思っておりますの」
 そう言って笑いました。

 確か魔王ビナスさんの旦那さんて、宝剣コレクターだったはずです。
 しかし……まさか弓と剣を間違えるなんて
 僕は苦笑することしか出来ませんでした。

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