コ・コンビニおもてなしクエスト? その3
目を覚ましたスアがフレイムゾンビドラゴンの周囲に魔法壁を張り巡らせた途端に、周囲の温度がストーンと下がった気がしました。
「やっぱり、この異常な暑さの原因はこのフレイムゾンビドラゴンだったのか……」
僕は思わずそう呟きました。
そんな僕の後方では……
「そ……そんな……あんまりですよねぇ……ひどいですよねぇ」
目を見開きながら体を震わせているドンタコスゥコと、
「そ、そんなことを言われましても……私も困りますわ」
困惑の表情を浮かべているシャルンエッセンスが互いに顔を見合わせていました。
そんなシャルンエッセンスの手の中には、先ほどフレイムゾンビドラゴンを退治した際に使用した門番(ゲートキーパー)の弓が握られていました。
……真ん中で真っ二つに折れた状態で……
はい、それはもう見事に折れています。
折れて2つになっちゃってます。
やはり遺跡から発掘された遺品は遺品ってことなんでしょう。
シャルンエッセンスが一発放ったところで、弓としての耐久力の限界を超えてしまったんでしょうね。
その、あまりにも無残な状態の門番(ゲートキーパー)の弓を見つめながら、ドンタコスゥコはマジ泣きしています。
「こ、これでは、売ろうにも売れないですよねぇ……て、手にいれるのに結構苦労しましたのにねぇ……」
そんなドンタコスゥコの前方では、困惑した表情を浮かべ続けているシャルンエッセンスが立っています。
「と、とにかく私は、あのフレイムゾンビドラゴンを倒しただけですわ。それであなたのお命もお救いしただけですわ、それで堪忍してくださいませ」
そう言うと、シャルンエッセンスは手にしていた門番(ゲートキーパー)の弓をドンタコスゥコに押しつけるようにして返却すると、僕の背後に隠れるようにして逃げ込んできました。
「あ、あのさぁ……ドンタコスゥコ……これは1つの提案だけどさぁ……その弓の残骸をさ、『伝説の魔獣と戦って砕け散った伝説の武具』ってことにして売ってみたらどうだろう?……そういうのが好きな人も、ひょっとしたらどこかにいるかも知れないしさ」
僕が必死に言葉を続けていると、ドンタコスゥコは
「……そ、そうですねぇ……その方向で頑張ってみるのもいいかもしれませんねぇ……」
そう言いながら、門番(ゲートキーパー)の弓の残骸を魔法袋に詰め込んでいきました。
◇◇
とりあえず、門番(ゲートキーパー)の弓問題は一段落したんですけど……僕達は新たな難問に出くわしていました。
スアが魔法壁で覆っているフレイムゾンビドラゴンをどこに廃棄するかです。
何しろ、このフレイムゾンビドラゴンの残骸は、未だに紅蓮の炎で包まれているんです。
「スア……このフレイムゾンビドラゴンって、どれぐらい燃え続けるんだい?」
僕の質問に、スアは少し首をひねると、
「……そうね、百年より短いことはない、と、思う」
そう言いました。
え? なんですか?……つまりこのフレイムゾンビドラゴンの残骸って最低百年はこの状態で燃え続けるってことなの?
僕が困惑の表情を浮かべていると、スアは大きなため息をつきながらシャルンエッセンスへ視線を向けました。
「……胸にある放熱コアを先に壊していれば、こんなことにはならなかったのに、ね」
「そ、そんなこと、知りませんですわよぉ」
スアの言葉に、シャルンエッセンスは僕の背中の服を掴みながら半泣きになっています。
そんなシャルンエッセンスを再度見つめたスアは、
「……うん、気を失っていた私も悪かった、わ」
そういうと、地上近くで浮遊しているフレイムゾンビドラゴンへ視線を向けていきました。
「……スア、今からでもその放熱コアってやつを壊したら駄目なのかい?」
「……頭が壊れちゃったから……もう、無理」
「あ~……」
その言葉を聞いた僕は、スアと2人してシャルンエッセンスを見つめていきました。
そんな僕とスアの視線の先で、シャルンエッセンスは
「そんなぁ、リョウイチお兄様までそんな目で私を見ないで頂きたいですわぁ」
そう言いながら、半泣き状態になっていました。
◇◇
すっかりしょげてしまったシャルンエッセンスは、とりあえずあとで励ますとして、……大真面目にこのフレイムゾンビドラゴンをなんとかしないといけないわけです。
スアによりますと、今はスアの防御壁で覆われていますのでなんとかなっていますけど、この防御壁も永遠ではないそうなんですよね。
「……私が寝たら、消える」
……スアが思いっきり不穏な言葉を口になさったところで……どうにかしたんですけど……どうしたらいいんでしょうかね、マジで……
その時、しばらく考えこんでいたスアが、おもむろに魔石を取り出してそこに向かって話しかけていきました。
「……セルブア……ちょっときなさい」
『え? スア様ですか? ちょっとこっち今忙しいんですけど』
「……伝説級の魔獣流出案件よ」
『……2秒お待ちください』
そしてきっちり2秒後
僕達の前に魔法陣が展開したかと思うと、そのから1人の少女が出現しました。
半身が幼女、半身が骸骨で、ボロボロの外套を身にまとっているその少女……神界の使徒兼地の盟約の執行管理人の1人セルブアです。
セルブアは、スアの手の先を見るなり、
「え? え? なんでこの世界にフレイムゾンビドラゴンがいるんですか? 普通地獄界にしか出没しないはずですよ」
そう言いながら頭を抱えています。
すると、そんなセルブアに、スアは
「……とにかく、早くなんとかして」
そう言いました。
するとセルブアは、途端に困惑した表情を浮かべました。
「……なんとかと言われましても……こいつ、やっかいなんですよねぇ……死んでも熱を発しますから……なんで放熱コアを先に壊さなかったんですか?」
「あああああああああああああああああ」
セルブアの言葉を聞いた途端に、シャルンエッセンスが頭をかかえました。
さすがにこれは可愛そうなんで、僕はシャルンエッセンスの肩に手を置きまして、
「いや、シャルンエッセンスは頑張ったから、うん。実際お前がああしてくれなかったら僕達みんな死んでたかもしれないんだしさ」
「……ほんとに? ほんとにそう思ってくださいますか? リョウイチお兄様?」
僕がこんな感じでシャルンエッセンスを慰めている間に、スアとセルブアは喧々囂々話し合いを続けていたのですが……
「……わかりました、私の負けです。確かにこの魔獣がこの世界に出現したんは神界のミスです。認めます・神界で責任をもって引き取りますから」
そう言うと、セルブアは巨大な鎌を取り出すとそれを一振りしました。
すると、スアの手の先にあったフレイムゾンビドラゴンの死体が一瞬にして消えてしまいました。
「……で、では、私もこれで……」
そう言うと、セルブアも一礼しながらその姿を消していきました。
……とまぁ、こうして、以上今日の原因だったフレイムゾンビドラゴンはこの世界から姿を消したのでした。
「……リョウイチお兄様、ホントにホントにシャルンエッセンス、頑張ってました?」
「うん、ホントにホントに頑張ってたから……」
◇◇
そんな出来事があった翌日のことです。
本店の厨房に魔法陣が展開したかと思うと、
「店長さん、ファラさん、ヤルメキスさんとケロリンさんもお疲れさまです~」
コンビニおもてなしの制服に身を包んだマルンが姿を現しました。
このマルン。
もとはセルブア同様に神界の使徒兼地の盟約の執行管理人だったのですが、ヤルメキススイーツにはまったあげく、神界に「ヤルメキススイーツのお店」をオープンし、定期的にヤルメキス製のスイーツを仕入れに来ているんですよね。
「で、店長さん、今日は仕入れを少し変更したいんですよ」
「変更? 何を変えるんだい」
「えぇ、最近こちらで製造を開始されたバニラアイスを大量に購入させて頂けたら……」
「バニラアイスを? 急にどうしたんだい」
「いえ、それがですね、昨日から神界が異常な暑さになっていましてですね、そのせいで冷たいお菓子を求めてこられるお客様が殺到しているんですよ」
マルンはそう言いながら笑っています。
ですが
その言葉を聞いた僕は冷や汗が頬を伝うのを感じていました。
(まさかセルブア……あのフレイムゾンビドラゴンを神界に持って行ったんじゃ……)
僕はそんなことを考えながら、ひたすら作り笑いを浮かべていました。
(もしそうだとして、それが黙って行われていたりしたら……どうなるんだろう)
そんな事を考えながら、僕はマルンに販売するバニラアイスの準備を進めていきました。
……うん、今は考えないことにしよう
そんな僕の前では、僕の後を引き継いだファラさんが、マルンと値段交渉を繰り広げていたのでした。