48章 転機
アカネは家とテントを足して、2で割ったようなところに案内された。
「ここです。ここに娘がいます」
フユは死後硬直が開始したかのような状態だった。生きているというより、死んでいるといった方がしっくりとくる。
フユに回復魔法をかけると、あっという間に元気になった。人間だけでなく、ロボットらしき生物にも効力があるようだ。
回復魔法で復活したばかりの女性は、ゆっくりと目を開く。その後、おかあさんを強く抱きしめていた。
「おかあさん、おかあさん」
娘が助かったにもかかわらず、母親は口元をあんぐりとさせている。目の前で起きたことについて、頭がついていかないようだ。
「フユ、フユ・・・・・・」
サクラとサクラの母親をふと思い出す。あの二人も同じようにしていた。
「私を誰が助けてくれたの」
アカネが助けたばかりの娘はこちらに視線を向ける。人間だとわかったことで、全身から敵意むき出しだしになっていた。
「人間じゃないか。悪い奴は懲らしめる必要があるな」
人間=悪という固定概念が植え付けられてしまっている。
母親は攻撃をしようとする娘に、ストップをかけていた。
「フユ、この人があなたを救ってくれたんだよ」
「人間が我々を助けるなんてありえない。私は絶対に認めないよ」
娘は自分の助けられたところを見ているわけではない。おかあさんもしくは他の人に助けられたと考えても不思議はない。
現実を認めようとしないフユに対して、最初に攻撃を仕掛けてきた住民が事情を説明する。
「フユが人間に助けられたのはれっきとした事実だ。そこについては素直に認めなさい」
フユという少女は泣き崩れてしまった。
「人間に助けられるくらいなら、死んだほうがよかったよ」
アカネに向けられた言葉ではあるものの、フユを誕生させた母親の方がダメージは大きかった。自分なんか生まれなければよかった、といっているに等しい。
母親は娘の言葉を聞き、地面に膝まづいていた。自分が生んでしまったから、娘を苦しめていると考えているのかな。
アカネは長居をしてはいけないと思い、家からいなくなろうとする。その後ろを、フユの母親がついてきた。
母親は瞳から液体が流れていた。水色だったため、涙なのかオイルなのかは区別がつかなかった。
「娘の命を助けていただきありがとうございます」
私の生みの親である、静香はどのように思っているのかな。娘が先にあの世にいってしまったことを悲しんでいるのだとすれば、申し訳ないことをした。
「人間にも優しい人はいるんですね。少しだけ見直しました」
裏世界における人間の評判の悪さは沁みついてしまっている。一〇〇年後であったとしても、消えることはないと思われる。