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あーちーちーあーちー その1

 コンビニおもてなし5号店でのウルムナギ弁当販売も、どうにか軌道にのった感じです。
 このナカンコンベでは、夕方に追加補充したウルムナギ弁当の方が売れるなんて夢にも思っていませんでした。

 僕がこの世界に来て結構長くになりますが、今まで出店した都市というのはどこも夕方になるとひっそりしてしまうようなところばかりでした。
 酒場もありますけど、酒場の中がとりあえず一杯になる程度のお客さんがいるぐらいで、街道を飲み歩きしているみなさんがいるほど賑わってもいなかったんですよね。
 それもあって、コンビニおもてなしの大半は夕方で閉店しています。
 ナカンコンベは、遅くまで街道を行き来なさっている方が多いものですから閉店時間をやや遅めにはしていましたけど、やはり需要があったんだなぁ、と改めて実感した次第です。
 この街で長く商売をなさっているエラネラさんに助言をいただけなければ、このことにも気づけなかったわけです。
 そういう意味ではエラネラさんには感謝しきりなわけです、はい。

「そんなわけで、何かお礼をさせてもらえないかと思ってるんですけど」
 その日の夜、様子を見に5号店に立ち寄ってくださったエラネラさんに、僕はそう言いました。
 エラネラさんは
「そんなのいいんだよ、別に。今回はたまたま気が向いたからお節介しただけなんだし」
 そう言いながらにっこり笑われていたのですが、
「……たださぁ……どうしてもお礼をしてくれるっていうのならさ……アレを1枚もらえないかなぁ……なんてさ」
 エラネラさんは、珍しく頬を赤く染めながらコンビニおもてなし5号店の一角を指さされました。
 
 そこは、今まさにお客さんが殺到しているウルムナギ弁当売り場でした。
 で、エラネラさんが指さしているのはその上部に張ってある、エラネラさんを撮影したウルムナギ弁当の宣伝ポスターでした。

 以前作ったポスターは、パラナミオやイエロ達を起用して『みんなで楽しく食べよう』的なコンセプトだったわけです。
 パラナミオ達が写っているもんですから、いつものようにテトテ集落のみなさんが
「弁当10個買うからポスターを1枚くれんか」
「こっちは20個買うから」
 そんなことを言い出されるのはわかりきっていましたので、テトテ集落に限り
『ウルムナギ弁当購入者の方1人1枚ポスター進呈』
 というサービスを実施しました。
 これなら弁当を1個購入すればポスターが行き渡りますので、弁当を無理して複数購入していただく必要がなくなるわけです。
 また、この企画には「何個買っても1人1枚だけですよ」っていう意味も含まれているわけです。
 ですので、ポスター目的で弁当を複数個購入することも抑制出来るわけです。
 これのおかげでクリスマスの時のような騒動にはならなかったのですが、
「みんながポスターを入手出来るように配慮してくださるとは」
「さすがは店長さん」
「その恩に報いねば」
 と、一部の方々が別な意味で張り切って、ウルムナギ弁当を購入し続けてくれていたりします。
 まぁ、美味しく食べてくださっているので、僕としてもそれ以上は言えないかなぁ、と思っている次第です、はい。

 で、この5号店で新しく作ったポスターでは
「今日も一日お疲れ様」
 的な意味合いを強めたかったもんですから、エラネラさんにモデルになってもらったんですよね。
 エラネラさんは、僕より一回り以上年上の方ですが、とても美人な方です。
 ちなみに、クキミ化粧品を愛用してくださっているそうです。
 で、まぁ、そういうお疲れ様的なポスターにはこういった落ち着いた系の美人な女性が適しているんじゃないかな、と思ったわけです。

 で、そのポスターを照れくさそうに見つめているエラネラさんは
「こんなおばちゃんでもさ、こんなに綺麗なポスターにしてもらえたら1枚手元に置いときたくなってさ……あ、キャンペーンが終わってからでいいからさ」
 エラネラさんはそう言われました。

 そこまで喜んで頂けているのでしたら、僕としましてもすぐに対応してあげたくなるわけです。
 ポスターのデータはパソコンに保存してあります。
 転移ドアで本店に併設されている巨木の家に戻った僕は、自室のパソコンからポスターを2枚打ち出しました。
 で、5号店に戻って、それをエラネラさんにプレゼントさせていただきました。
「ちょ!? い、いいのかい? こんなでっかいの、結構お金かかってるだろ?」
 エラネラさんは、びっくりと嬉しいと困惑が入り交じったような表情を浮かべながら僕を見つめていました。
 そんなエラネラさんに、僕は
「いえいえ、いつもお世話になっているんですし、今回も大変お世話になったんですからこれぐらいさせてください」
 そう言いながらにっこり笑いました。
 するとエラネラさんは、
「あはは、ありがと……なんか嬉しいよ」
 そう言うと、いきなり僕の頬に唇を……

「う~~~~~」

 ……くっつけようとなさったのですが、そこに転移魔法で出現したスアがですね、水晶樹の杖をのばしてきたんです。
 そのため、エラネラさんの唇は、スアの水晶樹の杖にぶちゅっといってしまいました。
 で、スアはぷぅっと頬を膨らませながらエラネラさんを睨み付けています。
 僕は、そんなスアを背後から抱きしめまして、
「すいません、僕も妻を愛してますので、そういうのはお気持ちだけで」
 エラネラさんにそう言いました。
 するとエラネラさんは、いきなり笑われまして
「ほんと、素敵な旦那さんに、奥様だねぇ」
 そう言うと、いまだに頬を膨らませているスアに顔を寄せると、その頬にぶちゅっとキスをしていきました。
 
 スア……完全に思考停止しています。

 その頬に、キスマークをつけたエラネラさんは
「奥さん、やきもちの焼きすぎは女っぷりをさげちゃうよ、あはは」
 そう言いながらポスター片手に立ち去っていかれました。
 その後ろ姿を見送りながら、僕は苦笑しながら右手を振っていました。
 そんな僕に背後から抱っこされている格好のスアはといいますと……いまだに思考停止中のようです、はい。

◇◇

 そんなことがあったもんですから、この日の夜のスアはかなり頑張ってくれました。
 具体的に何がどう? っていうのは黙秘させていただきますけどね。

 僕とスアは、そんな感じでいつものように仲良く夜を過ごしていたのですが……

 今年のガタコンベのみなさんは、ちょっと困ったことになっているんです。

 この世界には、四季がなんとなくしかありません。
 昨年の夏も、30度近くまで気温があがることは一度もありませんでした。
 比較的過ごしやすいのがいつもなんです。

 ですが

 何を思ったのか、今年の夏はセブの月になった途端に異常気象になっているんです。
 いきなり35度という猛暑日を記録したかと思うと、夜も気温があまり下がらない、いわゆる熱帯夜が発生してしまっているんです。
 コンビニおもてなしにはシオンガンタやユキメノームといったスアの冷製使い魔がいますので、地下の倉庫を冷やすついでにコンビニおもてなし寮まで冷やしてくれていますので快適ですが、街のみなさんは
「昨日も暑かったなぁ……」
「あんま寝れてないよ……」
 朝からそんな会話を交わしながら、あくびをなさっている方々が多数なんです。

 学校から帰ってきたパラナミオ達も
「パパ、ただいまぁ……暑いですぅ……」
 そう言いながら、店内に駆け込んできています。

 コンビニおもてなしの店内は、本店以外はスアの温度調節魔石で店内温度を一定に保っていますし、本店は元々店内に設置されている業務用冷暖房クーラーのおかげで快適なわけです。
 ちなみに業務用冷暖房クーラーは、本店の屋根に設置されています太陽光発電システムで稼働しています。
 で、そんな涼しい店内で、ちょっと一息つかせてもらおうってお客さん達が結構な数、全店に殺到しています。
 みなさん、休ませてもらったお礼とばかりにあれこれ購入していったくださいますので、店的には問題ないわけですけどね。

 しかし……ホント暑いですね……

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