あーちーちーあーちー その2
ガタコンベ一帯だけでなく、少し離れている場所にあるナカンコンベも結構な暑さになっています。
「こ、これはちょっとありえない暑さですねぇ」
ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコもよほどこの暑さが堪えているのか、いつもはピシッとした冒険者の衣装を着込んでいるのに、今日はハーフパンツに薄手のシャツ1枚という軽装です。
ドンタコスゥコ商会の店舗内は冷属性魔石をあちこちに設置しているおかげでかなりひんやりしているのですが、一歩外にでるとそうは行きません。
「それに本当に大変なのは夜なんですよねぇ」
「夜?」
「はいですねぇ……冷属性魔石は少々高価ですからねぇ……一般家庭ではおいそれと使用出来ませんからねぇ」
ドンタコスゥコの言葉に、僕も思わず頷きました。
と、いうのもですね、冷属性魔石はコンビニおもてなしでも販売していまして目下飛ぶように売れています。
ですが、購入していかれるのはだいたいお店をしている方々でして、店内を冷やすのが主な用途になっています。
この冷属性魔石は、本来は冷蔵庫の中に入れて使用します。
冷蔵庫程度の密閉空間で使用していれば1個で1年くらいもちます。
ですが、お店のように広い空間を冷やすのに使用しますと、スア製の高品質な冷属性魔石でも1週間程度しかもちません。
それでもお店をしているみなさん的には、現状、店内を冷やす唯一の手段であるこの魔石を集客のために買わざるを得ないわけです。実際、涼を求めて来店なさるお客さんがどの店も軒並み増えているそうでして、この魔石代金もどうにかまかなえているそうなんです。
……ですが、一般家庭ではこうはいきません。
本来、冷蔵庫用に1年に1回買えばよかった冷属性魔石を毎週購入となると普通の家庭では相当痛い出費になってしまうわけです。
スア的にはもう少し安く売ってもいいそうなのですが、それをやってしまうと冷属性魔石を作って販売している魔法使い集落のみなさんが困ってしまいます。
スアは魔法の能力がすぐれているので少々粗悪な魔石でも高品質な冷属性魔石に仕上げることが出来るのですが、魔法使い集落のみなさんの魔法の能力では、ある程度品質のいい魔石を使わないと高品質な冷属性魔石を作ることが出来ません。
その材料になる高品質な魔石を入手するのにコストがかかっていますので、販売価格をこれ以上引き下げてしまうと魔法使い集落のみなさんから買い取りする冷属性魔石の買い取り値も引き下げないといけなくなってしまいますので、結果的に魔法使い集落のみなさんが困ってしまうわけです。
コンビニおもてなしの社員やバイトのみなさんにしても、シャルンエッセンス達のようにコンビニおもてなし寮に入っている人達は、スアの使い魔のみんなのおかげで快適にすごせているのですが、小屋に住んでいるセーテンや、アパートに住んでいるツメバ夫妻とクローコさん、クマンコさん一家あたりのみなさんが目に見えてお疲れが増しています。
セーテンと同じように小屋に住んでいるブリリアンもさぞ疲れているのでは、と思っていたのですが、
「いえ、私は別に……」
と、意外にも元気そのものでして……
「小屋は暑くないのかい?」
と僕が思わず聞いたところ、
「……め、メイデンが自分の体を魔法で冷たくしてくれていますので……」
と言いながら、頬を赤くしていました。
確かブリリアンとメイデンは同じベッドで寝ているはずですが……なんでそこまで赤くなるのかは、まぁ、あえて聞かないことにしておきます。最近、メイデンがブリリアンにべったりなんですけど、ブリリアンもあまり気にしていない感じですしねぇ……
ちなみに、我が家でありますスアの巨木の家の中は、スアが冷属性魔法をかけてくれていますので常に快適です。まだ学校に行っていないリョータ達も日中は暑さを避けて家の中で楽しく遊んでいます。
昼間は学校に行っているパラナミオも
「家の中はとっても快適です」
と、嬉しそうにしています。
ちなみに、パラナミオは火の龍でもあるサラマンダーなので、暑さにも強いように思っていたのですが、スアによりますと
「……パラナミオはまだ子供だから……体温調節機能が、未熟なの、よ」
そう教えてくれました。
◇◇
そんなわけで、あちこちの都市のみなさんがこの暑さにお困りなわけです。
コンビニおもてなし関係でも、ルアをはじめとするルア工房のみなさん、ナカンコンベのペリクドさんをはじめとするペリクドガラス工房のみなさん、オトの街やテトテ集落、フク集落などにも影響が出始めているみたいです。
「とりあえず、夜を少しでも涼しく……それもあんまりお金がかからない方法ですごせる方法が何かないものかな……」
僕は腕組みしながら考えを巡らせていきました。
で
爺ちゃんの時代の在庫が眠っている本店の倉庫をひっくり返していたところ……ある物を見つけました。
「……旦那様、これ、何? 新しいカガク?」
スアは、僕が持ってきた段ボールの中身をマジマジと見つめながら目を輝かせています。
「あぁ、これはね、氷嚢っていうんだ」
それは、耐水性の布袋の口部分に、開閉出来る蓋がついている氷嚢なわけです。
本来は氷をいれて使用するものですが、この世界では氷を作成出来る冷蔵庫は一般家庭には普及していません。
なので、冷蔵庫で冷やした水を入れて代用出来ないかな、と思ったわけなのですが、
「……そういうことなら、これは、どう?」
スアはそう言いながら、取り出した水晶樹の杖を一振りしました。
すると、僕の手の中に丸い物体が何個か出現しました。
小さいのですが、一個一個がずっしり重いです。
「スア、これはなんだい? 重くて冷たいけど」
「……周囲の水分を固めた氷、よ……」
だそうでして、さらにスアの補足説明によりますと、
・すごく圧縮しているため、氷のすぐ近くしか冷えない
・圧縮するので、これ以上大きくすると重くなりすぎる
・圧縮してあるので一晩はこの状態を保つことが可能
とのことでした。
確かに、僕の手の中にある氷の球は、ピンポン球くらいの大きさしかないのですがずっしり重たいです。
それに、手のひらはすごく冷たいのですが、その冷気は顔には感じません。
ためしにこの圧縮氷を氷嚢に入れてみたところ……
氷嚢と接している体の部分はとても冷えています。
離れてしまうと冷たさを感じませんが、これなら十分使えそうです。
氷嚢には。枕代わりに出来るタイプもあります。
とはいえ、数はそんなにたくさんはありません。
なので、なんとか増産は出来ないかと思った僕は、これを持ってルア工房へ相談に出向いてみました。
ルアは、暑さに参っているためぐったりしていまして、水の入ったたらいに足をつっこんでいました。
ビニーは、そのたらいの中で気持ちよさそうに水につかっています。
「ふぅん……これと似た物を作ればいいのかい……」
ルアは、氷嚢を不思議そうに見つめていたのですが、
「うん、要は水を通さない布で作ればいいんだよな、なら耐水性の強い皮を使えばなんとかなるかな。とりあえず試作をしてみるよ」
そう言いながら立ち上がりました。
◇◇
とりあえずルアの試作品の出来上がり待ちとなったわけです。
うまくこの氷嚢が増産出来るようになりましたら、ルア製の氷嚢と一緒にスアが作成してくれる圧縮氷をコンビニおもてなしで販売してですね、毎晩氷嚢にいれて使ってもらえるようにしようと思っています。
僕が元いた世界ではコンビニで氷も販売していましたしね。
この圧縮氷は元手がかかっていませんので、かなりお安く販売することが出来ます。
それに冷属性魔石とは用途が被りませんので、魔法使い集落のみなさんの販売にも影響が少ないと思われます。
そもそも冷属性魔石を氷嚢に入れて使おうとしたら冷えすぎて大変なことになりかねませんから。
これは注意書きを作ってしっかりわかるようにしておかないと、と思っています。
さて、氷嚢に関しては目処が立ちましたけど……
コンビニおもてなし本店に戻った僕は厨房に移動しました。
「ヤルメキス、ケロリン、ちょっといいかな?」
僕は、厨房でヤルメキススイーツ作りに精を出していたヤルメキスとケロリンに声をかけました。